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事例

Aさん(78 歳、女性)は、日課の散歩中に転倒し歩行困難となりました。通りがかりの人に発見され、右股関節痛を訴えたため救急搬送されました。右大腿骨頚部骨折(femoralneck fracture)と診断され、緊急入院となりました。既往歴は気管支喘息(bronchial asthma)、心房細動(atrial fibrillation)があり、内服治療中です。入院前は独居であり、身の回りのことは自分で行っていました。しかし、近所に住む長女は、Aさんが最近物忘れがひどくなったことを気にしています。

問題

3日後に人工骨頭置換術を行う方針となりました。患肢完全免荷での車椅子乗車は可との安静度ですが、疼痛が強くギャッチアップ45度程度しかできていません。術前の看護として適切なのはどれですか。
<正解率85%>

(1)誤嚥性肺炎を予防するために食事は介助で行う。

(2)生活不活発病(廃用症候群)予防のため1日1回は車椅子乗車させる。

(3)血栓を予防するため足関節の底背屈運動を促す。



… 正解は …











(3)

解説

(1)⇒ギャッチアップ45 度では誤嚥のリスクはありますが、すぐに食事介助を行うのではなく、嚥下機能の評価を行い、患者の状態に合わせた援助方法を考える必要があります。患者の持っている運動機能を最大限に発揮させ、セルフケア能力を維持できるよう最小限の介助をするよう留意が必要です。
(2)⇒疼痛が強く座位保持が困難な状態のため、車椅子乗車は安全や安楽の阻害となります。その日の患者の反応や状態に合わせて離床を検討していく必要があります。離床できない場合は、座位の時間を増やす、ベッド上での筋力トレーニングを行うなど、ベッド上でできる生活不活発病予防を実施しましょう。
(3)⇒股関節の手術は、血液の停滞、静脈内皮の傷害、血液凝固能の亢進が血栓形成の誘発因子となり、深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)が起こりやすいです。高齢、心房細動などの危険因子があるため、発症のリスクはさらに高くなります。術前から足関節の底背屈運動を行い、下肢のポンプ機能を活性化させ、静脈のうっ滞を防ぐことが重要です。


手術は身体的にも精神的にも侵襲が大きいものです。手術侵襲を最小限に抑え、合併症がなく機能回復を促進するためには、術前から患者の状態を把握し、予定されている手術・麻酔侵襲に対する患者の反応を予測した機能訓練が重要です。術後合併症予防のために重要となる床上運動や呼吸機能訓練を行うことは、術後に経験するさまざまな状況に順応し、患者自身のセルフケア行動を促進するために大切であり、術後の安全や安楽につながります。