▼バックナンバーを読む

医療現場で当たり前に使っているカタカナやアルファベットの業界用語、「多分英語だからそのままでも外国人患者さんに通じるかも!」と思っていませんか?
じつは、医療現場は通じないカタカナ英語や英語以外の外来語、おかしな造語が飛び交っています。
そんな業界用語に注目し、外国人患者さんに通じる正しい英語の発音やそのポイント、現場で困ったときに使えるフレーズを紹介します。

本日のカタカナ英語:プシコ

「206号室の患者さんプシコの外来におろしてください」「プシコの薬残1個です」
看護師さんなら「プシコ=精神科」という意味で使ったことや聞いたことがあるのではないでしょうか。
「プシコ」はカタカナだし、英語由来でそのままでも通じるのではと、みなさんは思っていませんか?

「プシコ」は、ドイツ語で精神科を意味する「Psychiatrie(プスュヒアトリー)」や「Psychologie(プシコロジー)」が由来といわれています。
英語で「プシコ」に相当するのは、「Psychiatry」です。
ドイツ語とは異なり、最初の「P」はサイレントPなので発音せず、「 サイカイアトゥリィ-(saikáiətri)」が英語に近い発音です。

「Psychiatry」と混乱しやすい英語が「Psychology」です。
「Psychology」は、「心理学」という意味で「サイコロジー」として日本でも馴染みのある言葉ですよね。でも、発音は「サイカロジィー(saikɑ́lədʒi)」が英語に近い発音です。

「psych-」は「心」や「精神」という意味を持つ接頭語です。
「psychiatrist」は「精神科医」、「psychologist」は「心理学者」、「psychotherapy」は「心理療法」など「psycho-」がつくと「精神」「心理」に関連した用語になります。

さて、今日紹介した医療用語「プシコ」は、「精神科」という略語で使われるぶんには問題ありません。しかし、「精神科」という意味から応用して、精神疾患を患う患者さんや対応の面倒な人などに軽蔑的な意味合いを込めて使っている医療従事者が少なくありません。
「あの人プシコっぽいよね」
「今日の入院マジでプシコだった」
といった感じでしょうか。

残念ですが、これは私が最近耳にした看護師同士の会話の抜粋です。
使っている本人は、とくに何も考えず口にしているのでしょうが、こうした会話は脈々と新人に受け継がれます。そうした病棟は、精神疾患のある患者さんに寄り添うどころか、「プシコ」という言葉を使って容易に患者さんを軽蔑視する悪しき文化が根付いてしまいます。
また、ある先輩は、精神疾患のある患者さんを「プッシー」と呼んでいました。本人はおもしろおかしく愛嬌を込めて呼んでいるつもりかもしれませんが、愚の骨頂と言わざるを得ません。
英語で「プッシー(pussy)」は、基本的には「子猫ちゃん」や「にゃんこ」という意味ですが、ネイティブは「性的対象の女性」や「女性の性器」といったスラングとして使います。男性が女性を軽視したり侮辱する下品な言葉なので、病院内はもちろん、ビジネスや公共の場での使用を避けるのは、世界共通のルールです。

言葉は、見た目以上に教養や品のなさを表します。
「プシコ」の乱用は、その代表格ではないでしょうか。
みなさんのなかで、患者さんに向けて「プシコ」を使っている方がいらっしゃいましたら、私からのアドバイスは「今日からその使い方はやめましょう」です。
けっして、品のいい言葉ではありませんからね。
そして何より、他人に向けた言葉はすべて自分に返ってきます。
良識ある言葉を選んで、いい人生をおくりましょう。

Your doctor wrote a referral letter to a psychiatrist.

(精神科の先生に紹介状を書いてくれました)





30歳を過ぎてからアメリカで看護師をめざした私は、偉人たちの言葉や名言に何度も背中を押してもらい、一歩ずつ前に進む勇気をもらいました。
人はみな、多かれ少なかれ何かに悩んでいます。
そんなときに立ち止まってほしい言葉を紹介します。


今日の言葉は、私の同僚がかけてくれた言葉です。
「gonna be」は「going to be」の略語で「ガナ ビー」と発音します。

アメリカで看護師として働く夢は叶ったものの、働きはじめるとあっという間に過酷な日々に変わりました。早く慣れなければと必死すぎる私を見て、優しい同僚がランチに誘ってくれて今日の言葉をかけてくれました。
「Everything's gonna be alright」は、アメリカでは決まり文句として使われるありふれた言葉です。でも、その言葉を聞いた途端、張りつめていた緊張の糸が切れ、ずっと抑えていた感情が一気にあふれだし、涙がポロポロとこぼれてしまいました。

一見すると楽観的なアメリカらしい言葉ですが、この一件から私は落ち込んでいる人や困難に直面している人には、必ずこの言葉をかけるように心がけています。
私がこの魔法の言葉で助けられたように、だれかの役に立てたらとてもうれしいです。

------------------------------------------
佐藤まりこ
生まれも育ちも北海道。しかし、寒いのが苦手で大学卒業とともに上京し大学病院に勤務。さらなる暖かさを求めて2009年、米国・ロサンゼルスに留学。2010年、California RN(Registered Nurse) Licenseを取得するが就職先が見つからず無念の帰国。2012年、駐在妻として米国・オレンジカウンティーにカムバック。2013年、Refresher/Reenter-Update Education Programで総合病院の急性期病棟実習を修了。その後、念願のRNとして内視鏡センターに勤務し充実した日々を送るが、2016年、夫が日本に帰りたいと言い出しふたたび無念の帰国。帰国後は、子育てに奮闘しながらも幸せな田舎暮らしを謳歌し大学病院に勤務中。
幸せな時間は、「川の字で寝る休日のお昼寝」。