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はじめに

本連載は、対人関係に悩みを抱える看護師が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りしています。今回のテーマは、「問題解決と解決構成」です。

「問題解決」モデル

なにか取り組みたい課題があるとき、普段どう対処しているでしょうか。対処法には大きく分けて2種類あると言われます。
1つは「問題解決」という方法です。これは、いま目の前にある問題の原因を特定し、その除去を検討するものです。医療現場であれば、救命救急の場などが当てはまります。生命危機にある人を救うためには、その原因をいち早く特定し除去する必要があります。たとえば、窒息により呼吸が止まっているならその原因を取り除き、気道を確保するという場面です。
「いま、答えを出さなければならない」のであれば、これはたいへん効果的です。医療者、とくに私たち看護師にはなじみの深い考え方です。私は、看護師の教育システム自体が「問題解決」モデルであると感じます。看護学校では、「看護問題を抽出する・患者さんの問題を見つける」といった教育を受けます。当然、就職してからも同様の思考で仕事をすることになります。付け加えると、日本人の基礎教育の多くは「問題解決」モデルをもとにしている印象を受けます。

「解決構成」モデル

一方、課題へのもう一つの対処法に「解決構成」があります。これは問題の原因は考慮せず、解決像を明確にし、その構成要素を検討していくという方法です。「解決をつくる」とも言えます。
たとえば、脳卒中後の片麻痺があるひとの社会復帰が当てはまります。後遺症で片麻痺になれば、日常生活は以前と同じようにはできなくなります。この場合、問題の原因は片麻痺です。片麻痺がなくなればいいのですが、簡単には治りません。どうすれば良いのかを考えたとき、自助具の活用や家屋のリフォームを行い、生活しやすくすることが挙げられます。また、他者の援助を受けるという方法も効果的です。これらは、まわりの環境を調整して生活を再構築し、同時に片麻痺の回復を期待してリハビリテーションに取り組むという考え方です。

対人関係の課題は「問題解決」と「解決構成」どちらを用いればいいか

興味深いのは、「問題解決」と「解決構成」、この2つは同時に存在しないことです。つまり、私たちはどちらかの立場をつねに選択していることになります。
いま私たちが考えているのは、対人関係の課題についてです。多くの人が慣れ親しんできた「問題解決」ですが、私は対人関係においては適さないと考えます。なぜなら、対人関係で「原因が特定できる」ことはそう多くないからです。

「問題解決」しようとすると残念な結果になる

よくある出来事ですが、相手と意見が対立し口論になっている場面を想像してください。
相手は、患者さんでも同僚でも、他職種でも構いません。あなたは、「自分は間違っていない」と考えています。
「問題解決」を目指して、議論がはじまりました。ところがいくら説得しても相手は意見を曲げず、あなたは腹立たしく思い始めます。次第に自分が正しく、相手が間違っていると感じます。口論が熱を帯び、お互い「相手がおかしい」と攻めることになります。攻撃されれば、自分を否定されたように感じます。その結果、自分の正しさを証明するため、相手を論破したくなります。結局けんか別れになり、嫌な気持ちだけ残る。このようなことはよくあります。お互い「問題解決」しようとしていたのに、とても残念な結果です。
これは仕事の関係だけでなく、家族・パートナー・友人との関係にも当てはまります。

先にお伝えしたように「問題解決」とは、問題の原因を除去する考え方です。対人関係において多くの場合、その問題は「あなたにとっての問題」に過ぎません。独善的な考え方に陥っていないか、振り返る余地があります。「問題解決」は、いま目の前にある問題の原因を特定し、その除去を検討する方法です。多くの場合、「問題解決」しか使われていないように見えます。
私が看護師と面談をしていても、「私は間違っていないのに、相手はわかってくれない」と耳にすることがあります。この場合、すでに対人関係は大きくこじれています。「問題解決」に固執することは、対人関係が破綻する大きな要因だと思います。「自分は間違っていない」、この考え方の危険性をよく知る必要があります。対人関係で問題の原因を除去するとは、間違っている相手を排除することと容易につながります。

「解決をつくる」

私は、対人関係の課題に取り組むためには「解決構成」だと考えます。
これはお互いの考え方・立場の違い・思想・信条・感情・プライド・利害関係など複雑に絡み合う糸を、2人で一緒にほぐしていく作業です。「問題解決」に比べて、時間も労力もかかる大変な作業です。
当初は解決がどこにあるのか、わからない場合も多いです。相手の問題を指摘し、非を責めることのほうが簡単です。しかし、これではより良い対人関係を築く力は身に付きませんし、ずっと相手に不満を抱えて生きることになります。相手の問題を見つけないと気が済まなくなります。
たとえ課題が困難に見えても、相手と意見が違っても仕方ありません。それは避けられないことです。こんなときこそ相手が何を思い、何を言おうとしているのか、知ることに努めます。あなたの聴く姿勢は相手に安心感を伝え、対話の余地が生まれます。こうして2人が根気強く対話を重ねることは、一定の合意形成につながります。これが「解決をつくる」であり、対人関係の課題に向き合うことだと考えます。

対人関係に唯一絶対の正解はない

対人関係に唯一絶対の正解はありません。どちらも間違ってはいないのです。「問題解決」しか使わない人は、おそらくその方法しか知らないだけです。「解決構成」を身に着けることは、さほど難しいことではありません。
「問題解決」・「解決構成」、どちらも同じように大切です。そのときどきの場面で、臨機応変にこの2つを使い分けることが望ましいと考えます。
すこしずつこの考え方が実践できるようになれば、対人関係がとても楽になります。
あなたの対人関係は、きっとよくなります。

【参考文献】鎌田穣:心理・福祉のファミリーサポート.2003.金子書房

プロフィール:小林雄一
看護師。1979年広島県生まれ。脳卒中リハビリテーション看護認定看護師。
認定看護師・看護管理者としての実践・指導・教育と並行して、執筆・講義活動をしている。JA尾道総合病院科長。脳神経外科病棟を経て現在、救命救急病棟科長。日本脳神経看護研究学会評議員、同認定看護師活動推進委員会委員。
施設内外で看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、独自の面談活動・セミナーを行っている。


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