新型コロナ病棟ナース戦記|最前線の現場で起きていたこと|ずっとレッドゾーン!|#003|倉原優

「新型コロナ対応の最前線で、一番活躍しているのはナースなんです」

医療現場の危機をいちはやく察知し、Yahoo!ニュース オーサーとしても現場から警鐘を鳴らし続けた、感染症専門医・呼吸器専門医が、全国約120人のナースからヒアリングを行った。実際の現場の様子と、コロナ禍で埋もれている看護師という職業の素晴らしさを伝える。(本連載の内容は書籍『新型コロナ病棟ナース戦記』刊行時点の情報です)

医療従事者ごとの不公平

私の勤務する病院は、最大60床のコロナ病棟を運用していましたが、レッドゾーンに入る人数を減らしたいというICTとしての立場もあり、職種によってかなり不公平になることは想定していました。

特に看護師はケアの最前線にあたるので、一番キツイ立場に置かれることは必至でした。清掃業者もかなり高い値段を提示してくるので、レッドゾーンの清掃まで看護師がおこなうという、激務だったのです。

では、医師はどうだったでしょうか。当院では当初、3人で患者全体を診る「3人チーム医師制」で診療していていました。しかし、コロナ病棟の増床もあったため患者数が多くなって、途中から管理しきれなくなってしまいました。そこで、1人の医師あたり2~3人のコロナ患者を診る「主治医制」に切り替えたのですが、こうなるとたくさんの医師がレッドゾーンに入ることになります。それは極力回避したいという意見も出てきました。医師は外来業務や内視鏡業務だけでなく、他の病棟も回る分、医師自身が感染源になりやすいからです。

当院ではパンデミック初期からビデオチャットソフトで医師がリモート診察できるシステムを導入しました。それはそれでよかったのですが、「医師はリモート診察ばかりでレッドゾーンで診察しに来ない」という意見もありました。看護師がタブレットを患者さんのところに持っていって起動させないとリモート診察はできませんし、耳が遠い高齢者ではそもそもリモート自体が難しいというハードルもありました。

今回のヒアリングで、リモート診察を導入している施設はそこまで多くありませんでしたが、やはり職種によってレッドゾーンに入る時間が異なる現状がみえてきました。ずっとレッドゾーンに入ってECMOや人工呼吸器を触っている集中治療医を除くと、軽症・中等症病床では、外から医師が指示を出すという構図が目立ちました。ビデオカメラ映像とグリーンゾーンの監視モニターで病態を把握し、トランシーバーでレッドゾーンの看護師に指示を送る医師もいたそうです。

いや……、「医師は司令塔」なんて言い方することがあるけど、それって、戦場でガチの司令塔がやってるヤツやん!

もちろん、レッドゾーンに入らない医療従事者を作るという意義はあるのですが、そうなるとレッドゾーンに入っている医療従事者の負担が相対的に増えますから、心理的に「周囲に協力してもらえない」という疲労感と孤立感は強くなっていたのかもしれません。

レッドゾーンに入って話をしたくても、外来業務などがある医師に対して病院がそれを是としていない場合もあって、医師自身、ジレンマを感じる場面もあったと思います。

看護師は、レッドゾーンに時間で区切って入っている施設もあれば、通常の病棟業務と同じく昼ごはん以外ぶっ通しでレッドゾーンに入っている施設もありました。「はじめに」にも書いたように、最前線に立っているのは、どの職種よりも看護師であるため、コロナ禍においては、医師ではなく看護師にもっとスポットをあててほしかったというのが私の気持ちです。

打ち砕かれた「今だけだから頑張ろう」

第1波のときはそこまで患者さんの数が多くなかったのですが、波を経るごとに患者さんの数が増えてきて、看護師の疲弊が目に見えてきました。「大丈夫、今だけだから、頑張ろう」と互いに声をかけ合い、波を乗り越えてきました。しかし、第4波、第5波ともなると、その期待が打ち砕かれてしまいました。

第3波の頃から、おそらくこの感染症の収束にはワクチンしかないだろうと感じていました。当時治療法として確立されていた、レムデシビルもデキサメタゾンも、根治させるためのものではありませんでした。ウイルスと患者さんとの闘いを手助けするくらいのものです。しかし、SARS、MERSの頃から研究されてきたmRNAワクチンは、かなり効果が高いだろうということが2020年の後半に明らかになりました。

本書内も書いていますが、「おそらくコロナパンデミックの後半は、インフォデミックとの闘いになるだろう」――私はそう思っていました。


●レムデシビル もともとエボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬。コロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに抗ウイルス活性があります。
●デキサメタゾン 通常の診療でも用いられていたステロイド製剤の一つ。呼吸不全を合併している新型コロナに対して、死亡率を減少させる効果が示されました。

倉原 優
国立病院機構近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科医師。
2006年滋賀医科大学卒業。洛和会音羽病院を経て2008年より現職。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。 人気ブログ「呼吸器内科医」の管理人としても知られ、医療従事者向けに論文の和訳やエッセイなどを多数執筆。2021年からはYahoo!ニュース オーサーとしても活動、大阪の第4波について現場からいち早く警鐘を鳴らすなど、一般向けの発信も行っている。

「ねころんで読める呼吸のすべて」シリーズ、「呼吸にまつわる数字のはなし」(メディカ出版)、「『寄り道』呼吸器診療」「ポケット呼吸器診療」(シーニュ)、「呼吸器の薬の考え方、使い方 ver.2」「本当にあった医学論文」(中外医学社)、「呼吸器診療 ここが『分かれ道』」「COPD の教科書」(医学書院)、「改題改訂 喘息バイブル」(日本医事新報社)など多数。

「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。自身が得た知識をできるだけたくさんの人にシェアし、それが回り回って患者さんの幸せにつながればいいなと思っています。

書籍案内 ///

新型コロナ病棟ナース戦記
発売中!
新型コロナ病棟ナース戦記
最前線の現場で起きていたこと

「新型コロナウイルス感染症対応の現場で、一番活躍しているのはナースである」。医療現場の危機をいちはやく察知し、Yahoo!ニュース オーサーとしても現場から警鐘を鳴らし続けた、感染症専門医・呼吸器専門医が、全国約120人のナースからヒアリングを行った。実際の現場の様子と、コロナ禍で埋もれている看護師という職業の素晴らしさを伝える。
定価:1,980円(税込)
刊行:2021年12月
サイズ:A5判
頁数:192
ISBN:978-4-8404-7820-5

▼詳しくはこちら


目次

第1章 パンデミックの幕開け
01 「赤紙キター!」私もコロナ病棟勤務に(2022年1月11日まで公開)
02 コロナ病棟の前身、帰国者・接触者外来
03 「PPEが足りない!」まさかのハンドメイド
04 「急いでコロナ病棟を作ってください」
05 保育園からの差別、院内差別、そして患者差別(2022年1月17日まで公開)
06 「寄せ集め」のコロナ病棟!?
07 ずっとレッドゾーン!(2022年1月24日まで公開)
08 コロナ手当があるので、給料が増えた・・・・・と思いきや!?
09 看護師のメンタルを守れ!
10 当たり前の看護ができなくなった
11 家族の最期をタブレットで見送る
12 帰れない患者、むくむ手足
13 人手が足りない
14 新人看護師が直面した悲劇
15 世間とのギャップ、飲み会で感染した患者さんをみて
16 暑い、とにかく暑い
17 夜の街の患者さん……昼夜逆転!
18 フルPPEで超絶難度、採血・点滴ルートがとれない
19 まさかの院内クラスター
20 「濃厚接触」の勘違い
21 濃厚接触者にならない努力
22 パンデミック初期の“PCR事情”
23 みんなマスク美人!
24 スゴイぜ、養生テープ!
25 情報が入ってこない現場
26 コロナ病棟の夜
27 コロナ病棟勤務により声が大きくなった
28 コロナ病棟勤務により風邪をひかなくなった
29 リネンを廃棄!? もったいない!
30 真夏のドライブスルー
31 コロナ禍での自然災害

第2章 ウイルスの猛威
32 関西の医療崩壊:軽症・中等症病床で人工呼吸器装着患者さんのケア
33 関西の医療崩壊:地獄のゴールデンウィーク
34 関西の医療崩壊:宿泊施設で呼吸不全の管理
35 関西の医療崩壊:救急車を呼んでも搬送できない
36 関東の医療崩壊:オリンピックの裏で苦しむ病院
37 関東の医療崩壊:在宅死を防げ!
38 関西と関東の医療崩壊:非コロナ診療の縮小
39 やれる治療は全部やってください、ECMOも!
40 肥満があると、患者さんも看護師も困る!
41 保健師に浴びせられる罵声
42 キーパーソンも感染者
43 いつまで続く、後遺症
44 あと何回、波が来るの?
45 血糖測定多すぎる問題
46 酸素飽和度が低すぎる! あれ?
47 潜在看護師を動かしたワクチン業務
48 コロナ病棟のせん妄は一味違う!
49 新型コロナは空気感染する!?
50 コロナ病棟でも影響のあった「インフォデミック」
51 コロハラ!
52 防護具の向こうの笑顔
53 それでも私は看護師を続ける