第一線で活躍する医師や看護師、医療従事者などが講師として登場し、わかりやすく解説する「メディカのセミナー」。そのセミナーのプログラムのうちチャプターの1つをメディカLIBRARYだけで特別配信します。
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講師
田淵仁志
広島大学医療のためのテクノロジーとデザインシンキング寄付講座教授/社会医療法人三栄会ツカザキ病院眼科主任部長
<セミナーはこんな内容>
“心理的安全性”がどうして注目されているのか? 職場・現場がどう変わるのか? 生み育てていくにはどうすればいいのか?
互いのミスを責めることなく、何でも言い合える環境を作り、チームとしてミスを認め、ミスを糧に成長しましょう。心理的安全性にまつわる「現場からの質問10」に回答します!
配信|CHAPTER 2:リーダーは怒ってはいけない!?
~まずはCHAPTER1の振り返り~
今回のテーマである心理的安全性は「Psychological Safety」といい、他者への心遣いや同情、あるいは配慮や共感がある環境のことですが、今日お話ししたいのはマネジャーという立場としての心理的安全性です。
具体的には、リーダーやチームメートから「バカにされないだろうか」「叱られないだろうか」という不安が払しょくされた環境のことを指すということが、今回の講義全体を通しての心理的安全性の定義になります。
つまり、「これをミスすると怒られそうだなあ」とか、「こんなことを知らないなんてバカにされるんじゃないだろうか」といった不安はみんさん感じたことがあると思いますが、そういう不安がない、間違えても怒られない、わからないことはどんどん聞いてやろうと思える環境がある、それが心理的安全性と言えます。
CHAPTER1でご紹介したように心理的安全性はGoogleが「良い成果を上げているチームの特徴は?」という研究に多額の予算をかけて総力を挙げて取り組んだ結果、答えとして出てきたことにより有名になったわけですが、それ以前にエイミー・C・エドモンドソン博士によって経営学の用語として定義されていました。
エイミー・C・エドモンドソン博士は「そもそも業務とは何か?」ということも整理して説明しています。それが次のスライドですが、業務には3種類あるとしてます。1つは「ルーチン業務」、そして「複雑な業務」「イノベーション」です。
イノベーションというのは聞きなれない言葉かもしれませんが、例えばエジソンの電気、ライト兄弟の飛行機といった発明です。つまり「不確実性」という項目がありますが、想定外のことが起きるかというとイノベーションの場合はまったく新しいことをするのですべて不確実だということになります。
例として学術活動とありますが、研究ですね。こういうものの場合は、いろんな人の力、たくさんの人の参加が必要です。なぜなら新しいことをするので自分一人だけではすべてが理解できないので、それぞれの専門家の力が必要になるわけです。
次にルーチン業務ですが、例としては組み立て工場だといわれています。決められた仕事を、順番通り、言われた通り行っていく作業で、これはその製品をいかに安定した性能でかつ早く作るかといった効率性の追求がされるわけですから、手際の良さとかが求められます。日本人には好きな人が多いかもしれませんね。
では私たちの病院業務は何かというと「複雑な業務」とされています。不確実性はどうしてもあります。例えば「この場合はこうしてください」と決めていたとしても、患者さんの都合であったり、COVID-19のようなことがあったり、さまざまな状況でそうはいかないということは日常茶飯事であり、不確実な状況があると思います。その不確実なポイントは対人、対患者さんということになります。患者さんの状態はつねに安定しませんし、患者さんの要求も変わります。
そのような場合に求められているのが、とっても重要な問題解決能力です。つまり、その場に応じて、臨機応変な対応ができる人、あるいは自分の頭で考える人というのはよく求められますよね。あの人はなぜ自分の頭で考えないのか、こんなことなぜ聞いてくるのか、なんでそんなことしたのか、普通ならわかるだろう、みたいなことがいっぱいあると思います。これはすべて問題解決能力に対する嘆きなわけです。
では問題解決能力とは何かというと、何かが起こった場合、何が起こったのかとか、原因はなんだとか、解決方法はなんだとか、あらゆることをその場で考えなければならないわけですが、教科書を調べても出てこないですし、誰に聞いてもわからないということがあります。つまり、なんとかするために次に何を行うかは自分の頭で考えるしかないわけです。
その場合、うまくいくかどうかはやってみないとわからないですよね。例えばクレームに対してどう応対したらどうなるかなんてわからないわけです。でもそこで自分が責任を持っている場合は、何とか自分の頭で整理をしていかなければなりません。
そのように自分の頭で考えなければならない状況にある人に対して「ミスを責める」というのは、そのミスに対して「あーだ、こーだ」と言うわけですから、自分の頭で考えさせたいと思うなら、とても矛盾した行動です。つまり、ミスを責められている人にそのような問題解決能力があるかというと、もちろんありません。もしあったとしても、それを発揮するな!と逆の教育が行われていることになります。
問題解決能力は育むものであって、抑制するものではありませんし、それが問題解決能力を持っている人であれば、その能力を発揮してはいけないんだと、静かに思ってしまいます。それによりクレームの相手に対しては「誰かに聞いてください」「担当を呼んできます」「私ではわかりません」という対応にしかなりません。
それにより業務が複雑になり、患者さんに対しては悪い印象を与えてしまいます。つまり、次の2ステップ目にも悪影響があることを理解してください。
次に紹介するのは「合成の誤謬」です。これは熱心で真面目な人が陥りやすいです。そういう人たちは自分ができてきたことに対して、「なぜこの人にはできないのだろう」と思ってしまうし、自分が苦労して乗り越えてきたことに対しては部下や後輩に対しても「そうすべきだ」と思ってしまいます。
詳しくはCHAPTER3以降で説明しますが、人にはそうしたバイアスがありますので、間違いがある、やり方が非効率、ムダが多い、注意力がない、時間がかかるなあとか、思うことがいっぱいあると思います。一つひとつの事例はたしかに叱ってもぎりぎりセーフかなということもあると思います。叱っても人間関係は崩れない。なぜなら間違いはあったわけだし、やりかたは非効率なのは事実だったりするからです。でも、それを繰り返していると、ミスを責められる環境を作り出し、結局、叱られる人はいつまでたっても自分の頭で考えられなくなり、そうしたチームが出来上がります。
このように「これだけたくさん指導してきた」というのは、部分的には正しい行動の積み上げのようでも、出来上がったチームは思い描いていたものとはまったく別のものになることがあるということは知っておかなければなりません。
みなさん、大丈夫でしょうか。
問題はいっぱいあって、すべて私が面倒をみているのに叱っちゃいけないなんて、というのは、リーダーの心理的安全性が損なわれるんじゃないか思われるかもしれません。
ここで誤解してはいけないのは、リーダーはそもそもいまの日本の組織だとすごく安全なところにいます。つまりヒエラルキーが存在して下から怒られないような組織であれば、リーダーは非常に自由にやっている場合もあると思いますが、それは逆にルーズです。
役職が上がってマネジャーになったら何をしてもいいということはまったくないですし、過去に自分が成果を上げたからといって、マネジャーに求められる成果は部下だったときのチームの成果とはまったく別のものだという理解が必要です。
リーダー、マネジャーのポジションは非常に頭を使います。非常に厳しい心理的なブロックを自分のなかに持たねばならず、「こういうときは怒ってはいけない」と感覚的につかむのではなくて、知識として学んでいただきたいと思います。
つまり、リーダーには経営学的叡智(ナレッジ)がないと、反直感的なことである心理的安全性を生み育てて維持することはできないのです。リーダーが柱となって、心理的にしっかり保つということです。
認知バイアス(CHAPTER3)、ライフサイクル理論(CHAPTER4)、ABC理論(CHAPTER5)という3つの理論を今回のオンラインセミナーを通して学べるように用意しています。
簡単に説明すると、認知バイアスというのは、思っているほど自分は正しくないということです。リーダーだからとか関係なく、人間というのは抜き差しならぬトラブルをそもそも抱えているということです。
ライフサイクルというのは、自分の若かったころとか、自分がこれから歳をとることを忘れてはいけないということです。そのことを忘れるとものすごいブーメランが飛んできます。
そしてABC理論ですが、これはチームにおいて、すべて優秀な人で揃えることは現実的に無理なんですね。組織には絶対的にできる人とできない人が混在するということを受け入れなければならないということをお話しします。
認知バイアス、ライフサイクル理論、ABC理論の詳しい解説は、ぜひオンラインセミナーをご購入してCHAPTER3~5で学習ください。また、本動画(CHAPTER2)の最後に田淵先生が下記の質問に回答していますので、ログインしてぜひご覧ください。
【Q】心理的安全性の「叱らない」という原則ですが、ある意味「反直感的(逆説的)」でそれをスッと受け入れるのは難しいと思うのですが……それができているのは、チームメンバーが優秀だから成り立っているのではないかと思うところもあって、チームの中に「めんどくさい」「サボりたい」と思っている人がいてもスルーすべきなのでしょうか? それとも、その人の姿勢に対して、あり方に対して「叱らない」べきなのでしょうか?
【Q】「叱らない」というよりも「叱れない」んですが……これは心理的安全環境になりますか?
プログラム
CHAPTER1:「バカにされないだろうか」「叱られないだろうか」という不安が払拭された環境 ~心理的安全性とは~
・良い成果をあげているチームの特徴は?
・心理的安全性とは?
・良い病院はミスが多い?
Q1)私の病院では、失敗すれば当事者のみが責められ、本人の努力不足とされています。システム改善を考える時間もないです。「心理的安全性」があればこの状況は変わりますでしょうか?
CHAPTER2:リーダーは怒ってはいけない!?
・病院業務に必要な能力は?
・「自分の頭で考える」ということ
・成果とは“真逆のマネジメント”をしていませんか?
Q2)心理的安全性の「叱らない」という原則ですが、ある意味「反直観的(逆説的で)」それをスッと受け入れるのは難しいと思うのですが…それができているのは、チームメンバーが優秀だから成り立っているのではないかと思うところもあって、チームの中に「めんどくさい」「サボりたい」と思っている人がいてもスルーすべきなのでしょうか?それとも、その人の姿勢に対して、あり方に対して「叱らない」べきなのでしょうか?
Q3)「叱らない」というよりも「叱れない」んですが…これは心理的安全環境になりますか?
CHAPTER3:わかっていても、自分が思いたいようにしか思えない ~認知バイアスとは~
・認知バイアスの落とし穴
・「バイアスの盲点」を意識してバイアスを理解する
Q4)職種間のボーダーそのものが経営学的な大問題の一つであることをまず自覚というところで、当院もおそらくこれに当てはまっているだろうと思います。こういったボーダーを意識することで病院全体の質を落としているし、働きにくさを生み出していると思います。このボーダーに対して私たち看護師ができることはありますか?
Q5)私の病棟では2人のリーダー格の先輩がいて、病棟内の看護師はどちらかの派閥に属しているような状態です。私は同調圧力が苦手で、どちらにも所属するとは意思表示はしていません。でも、みんなとはうまくやっていきたいと思っています。さすがに仕事上では問題は起こっていませんが…仕事が終われば雰囲気はよくなく、周りで聞いていてシンドイです…
CHAPTER4:自分も新人の時期があり、また将来くだり坂を迎える ~ライフサイクル理論とは~
・「論理的に接する」ことが急成長につながる
・人材育成がいかにチームの成長の源になるか?
Q6)学習曲線をどうやって上げるか。研修等する時間がないので、個々の努力に頼っています…
Q7)他の看護師に任せるのが苦手で、いつも仕事を抱え過ぎてしまいます。自分のなかで別の人にお願いするくらいなら自分でやった方が早いと思っているかもしれないです…
CHAPTER5:全員が優秀なチームなんて存在しない ~ABC理論とは~
・私が一番働いている。どうしてあの人は働かないの?
・そもそもチームとはそんなもの?
Q8)新人看護師です。ミスをして患者に怒られたとき、どう対応していいかわからなかった。看護師として自分が情けなくて…先輩に相談しようと思ったんですが、忙しそうで…先輩には言い出しにくかった。
CHAPTER6:“チームの目的”と“心理的安全性”
・心理的安全が学習する人材に育てる
田淵仁志先生の著書の紹介
医療・看護現場の心理的安全性のすすめ
「よい病院ほどミスが多い」理由がわかる!
心理的安全性の高い組織作りを自身が実践している、田淵仁志先生によるメディカのセミナーオンラインを元に書籍化。気を付けていても起こってしまうミス。誰も責めることなくチームとして改善し、組織が成長していく心理的安全な職場環境づくりを提示する。
発行:2023年8月
A5判 128頁
2,860円(税込)
ISBN-13:978-4-8404-8168-7
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