さらに求められる看護の労働力|アフターコロナ、看護の仕事はどう変わる?|松井貴彦|#002

コロナ禍が看護師の仕事に与える影響を「社会的立場」「労働力」「デジタル化」「生き方・働き方」「キャリア」の5つの視点から全5回シリーズで考察します。

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「看護」の原点回帰

新型コロナウイルス拡大対策は、ワクチンのないウイルスとの戦いという新たな問題を投げかけてきました。ワクチンがない限り、できることは感染対策を徹底することと、感染してしまったら重症化を防ぐこと、しかありません。

軽症者は自宅や施設でその経過を見ることになりますが、小さな変化が連続したり、それが急変したりした場合、それをモニターし状況によっては早期に医師に連絡するということが重要になります。

昨今の日本の医療は「在院日数の短縮化」に代表されるように「効率よくできるだけ早く回復に向けて」治療することが優先されてきました(きっかけは2003年のDPC制度の導入という見解があります)。しかし、それは治療法が確立している医療であることが前提です。今回のように明らかに効果的な治療法がまだ見つかっていない状態では「効率よい治療」がどんなものか、まだ明らかではありません。

したがってしっかり病状をモニターすることがたいせつです。専門知識をもってこれができる人はほかならぬ看護師しかありません。医師が専門分野に特化してその専門性を深めていくなかで、看護師の原点は「看護とは、全人的な視野と関心をもって行われる職業である」(看護覚書、ナイチンゲール)のように「全人的看護」にあります。アフターコロナでは看護に「原点回帰」が求められると言えるのではないでしょうか。

もともと、コロナ禍だけではなく、超高齢社会においては従来とは疾病構造が変わりつつあります。急性期よりも回復期・慢性期の患者が増えていきます。今後、要介護者が急増することも明らかです。とくに都市部を中心に、介護するものがいない、または老いたものが老いたものの介護をする「老老介護」が問題になっています。

高齢者がいったん障害を抱えた場合は、介護だけでなく看護が必要になります。そうなれば自宅で訪問看護を受ける、施設に入所して看護を受ける、自宅ケアと施設ケアを併用する、という選択をしながら地域で暮らしていける社会の構築が必要です。これが地域包括ケアシステムです。そこには「全人的看護」を実施できる看護師が求められます。しかし、ご存じのとおり地域包括ケアの現場では看護師は不足している状態です。

アフターコロナでは看護師の地域包括ケアでの活躍の場がますます注目されます。そしてそこではベッドサイドで長いあいだ患者を看てきたベテラン看護師の力が発揮されることでしょう。看護師資格を持ちながら看護の現場への復帰をためらっている方には再度、現場に立つ機会が生まれます。

検討すべき定年退職制度の見直し

2020年はコロナ禍の前から「働きかた改革」がキーワードとして取り上げられていました。「問題は65歳で強制的に労働市場から退場させられる日本の定年退職システム」(「コロナ後の世界」、文春新書、ジャレド・ダイヤモンド 地理学教授)という海外からの指摘もあるように、日本の労働人口不足の原因には定年退職制度にもあります。

「人生百年時代」と言われるなかで、まだ働くことのできる人的資源が制度的に活用されていないことは改善の余地があります。アメリカで経営陣として働く私の友人(60歳手前)には自分より年上の70歳くらいの部下がたくさんいて「体が動く限りはたらくぜ、ブラザー!」と言っているとのこと。定年制度のないアメリカから見れば、まだまだ働けるのにリタイアすることは不思議だそうです。

もう一つ、今後、日本の医療・看護界でさらに見直しが進むのは、海外からの労働力の活用です。日本には歴史的に移民がいない国です。したがって、これまでは国内で労働力をまかなうことが当たり前でした。しかし、超高齢社会では医療現場の人材不足を補うことはむずかしいです。切り札は外国人労働力の活用です。定年退職制度を見直し、外国人の受け入れをすることで看護・介護の労働力不足は解消可能です。

ただし、そこにはあらたに「どうやって協働していくか」という問題も生まれます。「グローバル化」というとこれまで他人事のように聞こえていたかもしれませんが、看護の世界でもグローバル化が進みます。違う国籍の人と職場の仲間として、リスペクトしながら力を合わせて課題解決をしていく。ジョンソン首相のコメントでも多国籍の看護師が従事していることがわかりました。海外では当たり前のことがこれから日本の看護界でも日常化していくことは時間の問題です。

アフターコロナ、みなさんの職場に海外の仲間が訪れる日が近づくでしょう。そのとき必要なのは国籍を超えて付き合いのできる「人間力」です。ここでも経験豊かなベテラン看護師の力が生かされることは間違いありません。

アフターコロナ、ここから始めてみよう ②

▶あなたはこの先「どんな看護」をしていきたいか言語化してみましょう。
ヒント:あなたの得意分野はなにか、なにができたときいちばんうれしいかを思い出しながらできるだけ具体的に。箇条書き、キーワードを出していくのも良い。

第3回は2020年9月22日(火)に配信します。

プロフィール:松井貴彦
株式会社メディカ出版 販売企画部門責任者。キャリアコンサルタント(国家資格)。編集者として「透析ケア」「眼科ケア」、「ナースビーンズ(Smart Nurse)」の創刊を担当。編集部門、管理部門の責任者を経て、系列会社保育社の代表取締役、介護運動支援ゲーム「起立くん」、自動おしぼり供給機「おしぼりふく蔵」、施設向け学習eラーニング「CandY Link」、オンライン学習システム「FitNs.」「BeNs.」の販売責任者、看護の見える化支援セミナー「陣田塾」の企画運営、全国約5000病院の看護管理職に向けて「メディカファン Eyes of the Mind」を執筆。
コロナ禍の状況のなか「わくわくする働き方・生き方、個人を大切にする職場づくりの支援に役立てば」と、この春からYouTubeチャンネル『松井貴彦 まっチャンネル』を開始。