コロナ禍が看護師の仕事に与える影響を「社会的立場」「労働力」「デジタル化」「生き方・働き方」「キャリア」の5つの視点から全5回シリーズで考察します。

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「働き方改革」より「生き方改革」

今回のコロナ禍は、超高齢社会の課題を浮き彫りにしたとも言えるでしょう。コロナ感染をすることで基礎疾患をもつ人は重症化します。80歳を越えると糖尿病や高血圧などをもつ人が多いのが日本です。平均寿命が延びても「健康を保ちつつ歳を重ねること(Healthy aging)」が重要なのです。「対症療法よりも予防」とはこれまでも言われてきましたが、新型コロナウイルスはその意識をさらに高めたのではないでしょうか。

2020年は「働き方改革」が一つのテーマでありましたが、コロナ禍によって「生き方改革」にまでその範囲を広げたと感じます。具合が悪くなればいつでも行けて当たり前と思っていた病院がコロナ感染対策のために封鎖され、「まずはセルフケア(自宅療養)」することへの行動変容を余儀なくされました。それは感染対策や基礎疾患の予防・治療の重要性を浸透させることにもつながりました。リモートワークの普及により「職場中心」ではなく「生活中心」の生きかたに目が向き始めました。これまでは通勤して集合しなければできないと思われ一極集中していた仕事が分散していくきっかけとなっています。

医療・看護界では「濃厚接触」を避けることも含めてAI化・RPA(Robotic Process Automation:パソコン内の業務の自動化)化はますます進んでいきます。人材不足の解消のため休職者やいったん退職者した人に新たな門戸が開かれるでしょう。その際にAI化・RPA化は現場業務の復帰をスムーズにします。なぜならかつて人の手で行われていたことが機械化されることで復職やトレーニング期間を短縮でき、いっぽうで看護の質は保つことができるからです。その分、看護師に求められるのは「人にしかできない仕事」です。記憶や認知化、数値化できる仕事はAI化されていくので、その業務は今後減っていきます。必要なのはAIで何ができるかを理解して、うまく活用できる人です。

看護師がやるべき仕事はなにか

たとえばこれまで時間がかかっていた看護記録などは口頭で指示をすれば記入されるようになるでしょう。看護必要度のための記入など時間をかけていたことがその日のうちに終わることになります。看護師がそのダブルチェックをしたとしてもそれまでの業務時間を大幅に短縮することができます。これがAIのできることです。ではそのうえで看護師しかできないこととは何でしょうか。

まずは、短縮によって生まれた時間を#001でもご紹介した英国、ジョンソン首相が出したコメントにある「看護の本質」の実施にあてることです。つまり「観察し」「考え」「介入し」「適切な処置」を行うことです。#002で書きましたが看護の「原点回帰」ですね。

さらにカンファレンスで情報を共有することです。「最近、こんなことがあって気になっているのだけど……」のような、まだ数値化できないこと=暗黙知を共有することで新たな知識を創造し、看護の質を上げることができます。このようなことはかつてナースステーションで行われていたはずです。しかし、「効率化」のもとに優先順位が下がってしまったように思います。

そして、こうした暗黙知をAIによって形式知化できないかを考えることも必要です。不穏が発生する患者に対して「発生周辺のデータを分析することによって不穏発生の時期を予測ができないか」といったことを考え、AI技術者に働きかけるのもAI時代の看護職の仕事となります。

AI時代に求められるのは、計算や記憶、分析といった認知能力というよりも、共感力、創造力、理解力、交渉力といった非認知能力です。ここは経験値が活かせるところです。ベテラン看護師がこれまでの経験から培ってきた能力です。したがって看護におけるAI化の推進はベテラン看護師が活躍の場を広げることにもつながると私は思います。そのためにもぜひデジタルに強く、少なくとも苦手意識はなくしておいてほしいです。(参考文献:「コロナ後の世界」、文春新書、リンダ・グラットン ビジネススクール教授)

アフターコロナ、ここから始めてみよう ④

▶「自分にしかできない看護」とはどんな看護でしょう。言語化してみましょう。
ヒント:これまでの看護経験で 「自分らしい」と思えるエピソードは何か。「自分のやりたい看護」と併せて考えてみるとよいでしょう。

第5回は2020年9月29日(火)に配信します。

プロフィール:松井貴彦
株式会社メディカ出版 販売企画部門責任者。キャリアコンサルタント(国家資格)。編集者として「透析ケア」「眼科ケア」、「ナースビーンズ(Smart Nurse)」の創刊を担当。編集部門、管理部門の責任者を経て、系列会社保育社の代表取締役、介護運動支援ゲーム「起立くん」、自動おしぼり供給機「おしぼりふく蔵」、施設向け学習eラーニング「CandY Link」、オンライン学習システム「FitNs.」「BeNs.」の販売責任者、看護の見える化支援セミナー「陣田塾」の企画運営、全国約5000病院の看護管理職に向けて「メディカファン Eyes of the Mind」を執筆。
コロナ禍の状況のなか「わくわくする働き方・生き方、個人を大切にする職場づくりの支援に役立てば」と、この春からYouTubeチャンネル『松井貴彦 まっチャンネル』を開始。