冠動脈と動脈硬化のお話を思い出しながら
みなさん、狭心症と心筋梗塞の違いってご存知でしょうか??
狭心症は胸が痛い時間が短く、心筋梗塞は長い。って学校で習った記憶がありますね。では、なぜ胸が痛い時間の長さが違うのか?
今回は狭心症と心筋梗塞についてお話ししていきたいと思います。
前回までの冠動脈と動脈硬化のお話を思い出しながら読んでくださいね。
虚血性心疾患の要因
冠動脈に血液が流れる。それは心臓の筋肉に栄養(=血液)を流すために血液が流れるんですね。その血流が乏しくなったとき、または血流がなくなったときに、心筋に栄養が届かなくなる。その状態を虚血が起こっているって言います。病名で言うと虚血性心疾患(ischemic heart disease:イスケミック ハート ディジーズ:IHD)です(図1)。
心筋に血液が届いていない状態を総称して虚血性心疾患って言うんですね。
虚血性心疾患の要因は通常大きく分けて2つあります。1つは前回お話しした動脈硬化が要因のとき。そして、もう1つは冠動脈が痙攣して血流が乏しくなったり、なくなったりする冠攣縮性狭心症(vasospastic angina:バソスパスティック アンジャイナ:VSA 通称:スパスム)というものの2つです。
冠攣縮性狭心症の症状と診断の流れ
冠攣縮性狭心症のほうからお話ししましょうね。
冠攣縮性狭心症は、安静時狭心症とも言われます。安静にしているときにも突然襲う胸痛……。さてどんな狭心症なのでしょう?!
動脈血管は時折り、痙攣を起こすんです。痙攣のことを攣縮(れんしゅく)って呼ぶんですが、攣縮が起こると血管の中身が潰れてキュッと細くなるんですね。そうすると、冠動脈の血液の流れが悪くなり、心筋に血液が届きにくくなります。それでは心筋が十分に栄養を受けられなくなるので虚血状態になり、胸が痛いって症状が現れるんですね(図2)。
冠攣縮性狭心症は「夜中・早朝に起こりやすい」がいちばんの特徴です。そして、攣縮はいきなり起こるので、突然死の可能性もあります。日本人は比較的多いみたいです。要因は喫煙がいちばん大きく、疲れやストレス、そしてアルコールの飲み過ぎも影響します。
診断は、なかなかつきにくいことがあります(図3)。症状があるときにちょうど検査ができればいいのですが、なかなかそういうわけにもいきません。また、比較的若い方も多いため、受診の機会も遅れてしまうようです。
発作中の心電図が捉えられれば、おおかたの診断がつきます。そのためホルター心電図(24時間心電図)をします。その装着中に発作が出れば、ST低下などの心電図変化が認められます(心電図については、また今度お話しします。いつになるかわかりませんが……)。それを受けて心臓カテーテル検査が行われます。
心臓カテーテル検査では、まずはいつも通り冠動脈造影をします。ただし、ニトロ(硝酸薬)は投与しません。ニトロを投与してしまうと、この後施行する誘発試験の際に冠攣縮が誘発されなくなるので、ニトロは入れません。ちなみに、この誘発試験の2日前から、内服しているカルシウム拮抗薬・硝酸薬があれば休薬することが望ましいとされています。
ニトロなしの冠動脈造影によって目立つ冠動脈狭窄がなければ、冠攣縮薬物誘発試験(アセチルコリン〈エルゴメトリン〉負荷試験)を行います。アセチルコリンやエルゴメトリンっていう薬を冠動脈に注入すると、冠攣縮が日ごろから起こっている人は、その場で攣縮が起こるんです。
薬を入れて、このときの心電図と症状、そして冠動脈造影で狭窄度合いを確認します。薬を入れたことによって心筋虚血兆候(症状・心電図変化)を伴う冠動脈の完全閉塞または90%以上の狭窄を認めた場合は、冠攣縮性狭心症が確定診断されるということになります。
症状がいつもの痛みと一致すると、より確定診断の精度が上がるので症状はきっちり聞いておきたいところですね。
この冠攣縮性狭心症の治療は、風船を膨らませたり、ステントを入れたりという治療は行いません。治療は日常生活の管理(禁煙やストレス回避)と、そしてカルシウム拮抗薬の内服となります。一度診断されると、この後ずっと薬を飲み続けなければならないのは辛いところですね……。
でも、とある有名スポーツ選手も若くして、この狭心症によって突然死されたこと聞いたことがあります。とても怖い病気の一つですね。
今回は、狭心症の一つである冠攣縮性狭心症、またの名を安静時狭心症についてお話ししてきました。この後も、狭心症・心筋梗塞についてお話ししていきたいと思います。
今回もお付き合いありがとうございました。
ストレス溜めずに楽しみを見つけてがんばっていきましょう!
新生会総合病院 高の原中央病院
臨床工学科 MEセンター
西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)副代表世話人
メディカセミナー『グッと身近になる「心カテ看護」~カテ出しからカテ中の介助、そして病棟帰室後まで~』など多数の講演や、専門誌『HEART NURSING』、書籍『WCCMのコメディカルによるコメディカルのための「PCIを知る。」セミナー: つねに満員・キャンセル待ちの大人気セミナーが目の前で始まる! 』など執筆も多数。