前回までのおはなし…
ついに迎えた勤務初日。健康診断を終えて向かったロッカールームでは看護学生時代の実習を思い出し、周囲とうまくやっていけるのかという不安を感じた。そして初めての病棟での仕事。師長と主任、そして業務を教えてくれる看護助手リーダーの優しさに安心感を得ながらも、入浴準備をしただけでも覚えること多いことに気づき不安が……

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私はうまくやれるのか

「学生のときは、受け持ちの患者さんの名前だけを覚えていればよかったのに、働くとなるとこんなにも覚えなくちゃいけないんだ」

というのが働きはじめて最初に思ったことです。

勉強としての看護実習と実際の看護業務(私は看護助手業務)は違います。看護学生のとき、発達障害の特性上、実習になると刺激が多くて疲弊しがちでした。

私はこれから働くにあたって、業務を覚えるだけでなく、周りに嫌われないようにコミニケーションには常に注意を払わなければいけません。それに、発達障害についての特性についても、少しずつ会話に混ぜて周囲の人たちに理解してもらえるように努める必要があります。

私は意識していないと人に挨拶ができないですし、会話を振られてなんて返したらいいかわからないことも多々あります。冗談なのか本当のことなのかもうまく認識できないのです。

話を振られても最低限のことしか答えられず、淡白なコミニケーションになりがちです(書けばたくさんの言葉が溢れてくるのですが、対面のコミュニケーションは難しいです)。

それに加えて、顔に感情があまり出ないので、やる気がないって思われたり、何を考えてるかわからないと思われたり、相手は私をネガティブな方向に持っていこうと思えばいくらでも持っていけます。

看護師として資格を取ったばかりに私には、何ができるわけでもありません。周囲に見放されてしまったら、終わりです。どう接したらいいかわからないと距離を取られてしまったり、よくわからない子だと嫌われたら、技術を学ぶこともできず、成長すらできずにこの病院から去ることになってしまします。

勤務初日を迎えられてうれしい反面、墓穴を掘ることがないように気を張っていました。

笑顔で見送られ、泣きそうになる

「見放されないためには、どうすればいいのだろう」
「どういう工夫をしたらいいんだろう」
「私ができる精いっぱいの努力って何?」

そんなことを考えながら、教えてもらえることに必死についていったら、もう業務時間が終わっていました。

リーダー「もう時間だね!お疲れさま!!」
私「いろいろ説明していただき、ありがとうございました。師長さんにも声をかけてから帰ったほうがいいですよね?」
リーダー「そうだね!」

私「仕事中、すいません。師長さん、時間なので帰ります。」
師長「もうそんな時間か! お疲れさま! 初日は疲れたでしょ!」
私「そうですね。緊張もあるので……」

師長さんに見送られ、ナースステーションを後にしました。師長さんが「またね〜」と笑顔で手を振ってくれているのを見て、私は泣きそうになりました。

私は、存在していていいんだ。
ほとんど何もできないけど。
いつか看護師と名乗れるほど自信が持てるようになるのだろうか。
そんな日が来るのかな。

そんなことを一人で考えていました。

母への感謝

2020年5月。

今でこそ、マスクをして三密を回避して、手洗いうがい手指消毒をしていれば、ある程度は新型コロナウイルス感染を防げるとわかっていますが、このころはまだ、新型コロナウイルスがどんなものなのかわかっていない時期でした。

髪の毛や服にウイルスが付いていて、家に持ち込んでしまう怖さがあったので家に帰ったら、すぐにお風呂に入りました。

このような状況で不安のあるなか、「やりたいなら看護師やってきな」と言ってくれた母にはとても感謝しています。母は新型コロナウイルスによる感染が拡がる前から家の中を消毒していた綺麗好きで、パニック障害があるため、より新型コロナウイルスに対する不安は強かったと思います。
 
それなのに、私の背中を押してくれました。感染の不安から、看護師として働くなら一人暮らしをしてほしいと思っていたと思います。でも、私は働き続ける自信がまだなかったため、一人暮らしに踏み切ることができず、実家から通わせてもらっていました。

理想の自分、現実の自分

勤務初日は疲れたからか、お風呂入ったらすぐに寝てしまいました。

体が疲れてるというよりは、頭の中に刺激がいっぱいで、もう受け入れられなくてショートしているような状態。もう新しい刺激を取り込めなくなった私は、寝ることで刺激をシャットダウンしようとして、気を失うように、いつの間にか寝ていました。

目が覚めたら、すでに外は暗くなっていました。

こんな感じで、私の看護師として初勤務の一日が終わりました。半日しか働いていないのに、いや、健康診断があったかあ半日も働いてないのに、ものすごく疲れてしまいました。

やっぱり私は、刺激に弱い。
ほんとに、やっていけるの? わたし。

そんなことを思いながら、でも、1日目を終えられたことがとてもうれしかったです。

短期間ですでに多くのハードルを超えてきている。
私は前に進めている。
その感覚に目頭が熱くなります。

たとえ1ヵ月も働けなかったとしても、私は前に進もうと思って行動した。それだけですごいことなんじゃないの?

当たり前に働ける理想の自分と、それすらも難しい現実の自分。学生時代は優等生として過ごしてきた自分にとって、予定していたキャリアから外れることはとても悔しかったです。それに、今だって悔しいです。

それでも、自分の特性に向き合って、最大限に自分の能力が発揮できるように、働き方を模索してます。

私が抱える特性によるたいへんさは、周囲の人たちには理解してもらいづらいため常に孤独です。私にとっては大きなハードルを超えたとしても、他の人からはそれは当たり前と言われてしまうことだってあります。

私にとって、生きていくことは、とても難しいのです。

プロフィール:まめこ
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。


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