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1.依存症なんて、そんなに診ないと思ってた……

僕は、もともと大学病院で外科医として10年のキャリアがありましたが、自分で体も心も診れたほうが早いなぁと思っていたので、転科しました。外科時代には、救命センターにも出向し、当然、依存症の人たちも診ました。アルコール、薬物中毒の患者さんが来るたびに、うんざりしていました。正直、依存症なんて、そんなに多くは診ないだろうと思っていました。

そして、転科して3年経ちましたが、今、僕はギャンブル依存症、アルコール依存症の講習を受講し、次は薬物依存症の講習を受講しようとしています。

別に、依存症に開眼した訳ではありませんが、依存症の程度、種類が豊富であり、驚いたというのが正直なところです。また彼らの、欲望にまっすぐで、病識のなさに衝撃も受けました。「依存症を全否定」するのは朝飯前で、日常生活が破綻していることすら認めないのは驚きでした。

2.それまでの臨床経験をもとに、意気揚々と説明したところ……

それまで僕がいた世界では、目の前の患者さんはそもそも困っているわけで、病人という意識を持っていた人が大多数でした。たとえば、手術の説明では「諸検査から、腫瘍はここにあります。だから、こういった症状があったでしょう? ですから、ここをこう切って摘出したら、こことここをつなぎます」とイラストを用いながら説明すると、「よくわかりました。よろしくお願いします」という流れでした。そういった患者説明という臨床経験はそれなりにしてきたので、依存症の人を受け持ったときも、意気揚々と説明した訳です。

身体科の流れを依存症の人に当てはめると、「あなたはこうだから、●●依存症です。だから困っていたでしょう? ですから、こういった治療を行います」と説明したら、「俺は、困っていないし、そもそも依存症じゃない。だから退院する」と返ってきた訳です。

唖然としました。今までのパターンにない応答です。当時は理解に苦しみました。そう、理解できなかった訳です。外科時代にはこんな経験はなかったので、こんな反応されて困りました。僕は精神科医になっているので、現実検討能力が低下している相手にどう立ち向かうのかを考えなければなりませんでした。「理解に苦しむ=相手を知らない」ということです。ですから、相手を知らなければ戦えないと思い、依存症を学び始めたのです。

3.正面から向き合ってみると……

いざ、学んでみると奥深いですよ。発育発達の特性から依存症に陥ったパターン、併存する精神疾患から依存症に陥ったパターン、気づいたら依存症になっていたパターンなどさまざまです。始まりは人それそれでした。

また、やめたくてもやめられない人もいますが、大部分の人に共通しているのは、すでに社会的・家庭的に孤立していることが多いことです。つまり、孤独になっている訳です。

ですが、本人は否認することがほとんどです。なにせ、依存症は「否認の病気」といわれていますからね。最近でこそ●●依存症と注目を浴びるようになっていますが、世間の目は、病気というよりは、「自業自得」「自己責任」という冷ややかな意見が多いです。精神科医の立場からは、個人的には、一般的な世間は「依存症を否認」しているとも感じます。

身体科のスタッフの全員に、依存症をわかってもらいたいという気持ちは僕にはないのですが、外科医であった立場から、身体科の臨床に活かせる「依存症における」手法をここで伝えます。

4.依存症治療の診療技法を身体科にも転用できる!!

「動機づけ面接」と「CRAFT」です。これは、身体科の医師やスタッフは応用できると思います。具体的な症例としての対象は、喫煙が絡んだ臨床の症例などは応用できるのではないでしょうか? 喫煙って身近ですが、物質依存ですから、依存症の手法が有用であっても矛盾ではないですね。もちろんアルコールが絡んだ臨床症例でも応用できると思ますし、視野を広げれば糖尿病の領域でも応用できるかもしれません。

「動機付け面接」の精神は、協働・受容・思いやり・喚起です。身体科に反映すると、協働:患者と協力して問題解決にあたる、受容:患者の自立性と価値観を尊重する、思いやり:患者の健康面の向上を第一優先する、喚起:患者の本来持っている内的動機を引き出す、となりますかね。興味を持った人は、ネットで調べられますので深めてください。字数のこともあり、詳しい説明は割愛させていただききます。

次に「CRAFT」とは、望ましい行動を強化する、動機を引き出す、肯定的なコミュニケーション、望ましくない行動は強化しない、というのが特色です。個人的にですが、肯定的なコミュニケーションって、とても大事です。これは、依存症が絡まない症例でも、応用できるのではないでしょうか? 「CRAFT・肯定的なコミュニケーション」で検索して、目を通してもらいたいです。伝え方って、本当に大事だと考えさせられると思います。すみません、詳細は、字数もあり割愛させていただきます。

以上、長くなりましたが、身体科出身の精神科医の立場から、なにか伝わればと思い、寄稿しました。「動機付け面接」「CRAFT」を身体科の臨床で応用してもらえれば幸いです。伝え方、導き方が上手な医師になって、患者さんを治療にスムーズに乗せてあげることができると思いますよ。「説得」するよりも、「納得」させることが、とても大事です。

プロフィール:新村一樹
昭和大学附属烏山病院精神神経学講座助教
平成21年から昭和大学藤が丘病院消化器・一般外科学講座に入局。「体だけでなく、患者の心にもメスを入れられるような医師になりなさい」という代々の先輩の教えがあった。10年外科医を続けていたが、ある日、ふとTVを見ると「二刀流 大谷翔平」の文字が目に入った。「これだ!!心身ともに診れれば二刀流だ!!」と衝動的に思い立ち、平成31年に昭和大学烏山病院 精神神経医学講座に転科した。現在は、持ち前の多動力を駆使して、日々研鑽の毎日である。

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