アナタの知らない依存症治療の世界~依存症治療のハマったさんにきいてみた!|#011|まずは自分でもちょっとやってみる!スタッフなのに癒されるということ

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1 ご挨拶

こんにちは。私は精神科診療を学び始めて10年強の医師です。大学の医局に属しており、医局人事に流されるまま、言われるまま、あれやこれやと一通り仕事をしてまいりました。若いときは、仕事ではとりあえず先輩の教えてくれたことを妄信して目の前のことをこなしていました。過去の配属先では「依存症」への専門外来、専門プログラムなどは持ち合わせておらず、「依存症の患者さんの根本的な治療では専門病院に紹介するのがセオリー」と教わり、そんなもんかと思って、自分でもどう治療したらよいのかがわからないまま時が過ぎていました。

2 仕事をしていく中で生じたモヤモヤ

配属先には行政ルートで精神科救急の患者さんも入院していましたので、その中には当然、依存症の方もいました。しかし、そういった患者さんに対して、依存物質が抜けるまでのいわゆる「解毒」や、物質を乱用することによって生じてしまった幻覚や妄想を抑えるような一時的な治療をすることはできたものの、「依存」そのものに対する治療の術は持たず、患者さんがある程度落ち着いたら専門施設に紹介していました。

でも、「ある程度落ち着いて、つらい症状がとれた患者さん」が、いくら専門病院を紹介されても、退院後にそれまで全く縁のない病院へ自分でちゃんと行くかというと、まぁ行くわけもないですよね。なので、せっかく初期治療をしてもそこで医療中断となってしまうケースもありました。そんなわけで、自分が依存症の治療の術を持っていないことに、モヤモヤ~っとした気持ちを抱えつつも、「多忙な日々の業務をこなすだけで精一杯」「これ以上は無理無理~」と、その気持ちには蓋をして気づかないふりをしていました。

3 人事に流され訪れた転機 とうとう自分でトライ!

そんな中で、これまた医局人事に流されて、依存症治療のプログラムを立ち上げた先輩と同じ病棟で働くことになりました。当初、自分が担当する依存症の患者さんは「そのプログラムに参加してもらって、お任せ!」というスタンスでした。そうです、かつての「急性期を乗り越えたら専門病院を紹介」という流れと本質的には同じです。しかし、そのプログラムになんやかんや理由をつけて出席しない患者さんも出てきました。

「う~ん、専門プログラムをやっているところに入院しているのに、為す術なしというのはあんまりだ……」と思っていたところに、先輩から「LIFE-mini」というプログラムを紹介されました。これは埼玉県立精神医療センターが薬物依存症再発予防のための「LIFE」プログラム(全36回)をもとに、全5回のすぐに取り組めるワークブックにまとめたものです。

「これなら忙しい中でもできそうだ!」と、早速患者さんと取り組みました。すると、担当医自ら時間を確保してともにワークブックに向き合うというスタンスが患者さんの心に響くものがあったのか、患者さんはそれまでプログラムには全く関心を示さなかったのにワークブックには真面目に目を通してくれました。ワークが進むにつれ、ご本人に振り返りや表出も増えていき、「LIFE-mini」終了後には自ら改めて院内のプログラムに最初から参加することを希望され、退院後も自助グループなどにつながることができました。

やはり患者さんにとって「担当している人」の影響は治療者が考える以上に大きいということ、たとえ本格的でなかったとしても、担当者自らが一緒に取り組み最初の門戸を開くことができればその後の治療の選択肢が大きく広がるということを学んだ瞬間でした。以後、時間をつくっては院内のプログラムに自分も参加し、スタッフというよりは自分も参加者の一人として、プログラム内で問いかけられている課題について考え、自分の体験をその場で語るということを続けています。

4 踏み出して得た「自分も癒される」体験

依存症の治療の中で、「ミーティング」という「言いっぱなし 」「聞きっぱなし」のスタンスで人に意見を求めるのではなく、自分の体験や感情をただ言葉に出して荷を下ろすというとても大切な作業があります。一見とても簡単そうに思えるのですが、いざ自分のことを語ろうとしても、自分のネガティブな側面や気持ちから目を背けたいという心理が無意識に働き、うまく考えがまとまらず、最初のうちは語りたくても言葉にできないということも経験しました。

そんな中で自分の体験にきちんと向き合い、つらい気持ちもしっかり言葉にすることで苦しさを解き放っていく作業ができている患者さんたちは、とてもすごく、自分に向き合う強さをもっている人たちなのだとわかり、尊敬の念を抱くようになりました。

徐々に私自身もミーティングの場で自分を語ることができるようになってくると、スタッフでありながらも自分自身も肩の荷を少し下ろせて気持ちが楽になるという体験が得られるようになりました。「ドクターなのだから自分が患者さんを治さなくてはいけない」という無意識のうちに抱えていたプレッシャーから解放され、本当の意味で患者さんとスタッフが同じラインに立ってみんなで力を合わせて回復を目指すということも体験することができました。自分自身が実は一番癒されているのだと、最近は思っています。

そんなわけで、依存症治療は今までに経験できなかった自分にとってもよい体験が満載なのでした。悪くないなと思った方はちょっとでもいいので、まずは踏み出してみてはどうでしょうか? みなさんのご参加をお待ちしています!

プロフィール:横山佐知子
昭和大学精神医学教室

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