アナタの知らない依存症治療の世界~依存症治療のハマったさんにきいてみた!|#014|依存症者とのかかわり-いち作業療法士としての経験

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1 作業って万能ツール

作業療法は、「人は作業を通して健康や幸福になる」という信念のもと、さまざまな訓練や活動を通して生活のしづらさや生きにくさの解消を目指して働きかけを行う職業です。その人が健康や幸福を感じられる作業(生活)に就けるようにするという見方もできます。この観点から考えると、アルコールや薬物の使用、生活が破綻するほどのギャンブルといった作業は、“健康になる”作業とは言えないかもしれません。

しかし、何らかの生きにくさを一時の間だけでも解消するために使用せざるを得ないのだとしたら……、それは本人が“自分の健康を守るため”の作業であると捉え直すことができるかもしれません。そうであるならばその根底にある生活のしづらさや生きにくさを理解し、別の方法で健康や幸福を感じられるようにしていこう、一緒にさまざまな活動を行い、本人が大切にしたいと思える作業を探していこう、そんな風に日々感じています。

2 適当でもいいんじゃない?

さて、そんな私が日々心掛けていることがいくつかあります。まず1つ目は“適度なフランクさ”です。依存症の方々の作業特性(何らかの行為をする際の特徴)は、多くの場合“とても頑張り屋さんで優等生”、“真面目”であると感じます。他の参加者に気遣いをし、スタッフの手伝いまで行ってくれることもあります。

しかし、徐々に疲弊してパフォーマンスが落ち、“うまくできなかった自分”を感じて自信を失ってしまうということも少なくありません。恐らくは、そんなときに感じるつらさを癒やしてくれるのがアルコールや薬物だったのだろうと思います。

そのため、“適度なフランクさ”をもって一緒に活動することで、肩肘張らずに安心して活動できるようになることがひとまずの目標となると考えています(もちろん、頑張り屋さんであることが何よりの健康と幸福なのであれば、それが維持できるように活動と休息のバランスを考えます)。

時にはフランクになりすぎて逆に注意されたりもしますが、そんな風に肩肘張らない交流の体験が治療になるのであれば願ったりかなったりです。

3 一緒に何かできるってすてき

2つ目は“作業を通して、つながることができる場をつくること”です。前述の“頑張り屋さんで優等生”の背景には、対人交流の苦手さや人から認められる経験の乏しさが存在することがあります。本当は人付き合いが苦手だけど、過剰に頑張って“いい自分”を演じることで人から認められようとする、というイメージです。

これに対しては、作業活動を利用して働きかけを行うという作業療法の強みが生きると感じます。精神科領域の作業療法の多くは、1対1ではなくグループ形式で行われます。時には作業療法士1人に対して20人以上集まることもあるその活動の場所で、一緒の場で活動をする“だけでもいい”、すなわち言葉で交流しなくても“その場にいていい”、という雰囲気づくりをします。

人は何らかの活動を介すると、その場の居心地がよくなることがあります。活動内容を話題にして交流することもできます。私にも新入生歓迎会や研修会後の懇親会でアルコールの力を借りてコミュニケーション能力向上を図ったという経験がありますが、このアルコールの部分を“何らかの作業”と置き換えてみるとわかりやすいかもしれません。この観点から、対人交流が苦手でも、何らかの“作業を通せば”、誰かとつながることが可能であるという経験をしてもらうことができます。

また、作業活動を利用者数名で一緒に行ってもらい、お互いに協力したり、成果を賞賛し合ったりといったプロセスを踏むことで、現実的な“作業を通して”人から認められるという経験をしてもらえます。無理をしなくてもありのままの成果を受け入れてくれると感じられる経験は、依存症治療の中で果たす役割が大きいとされる自助グループで得られる感覚と近いかもしれません。作業療法を通じて、誰かとつながる感覚も悪いものではないな、と感じてもらえれば幸いです。

4 依存症の代わりの作業を発見!

1つ目、2つ目に共通していえることは“お互い頑張りすぎなくてもいい”という感覚です。私見となりますが、自分自身が何らかの問題を解決する治療者で目の前にいる依存症者が患者さんであるという一種の主従関係は、緊張感を生み、“頑張り屋さん”をつくりあげ、根底にあるであろう生活のしづらさを助長させることが多いと感じています。

肩肘張らない雰囲気で、ひとまずは一緒の場にいるだけでもいいし活動をしてもよい、とかかわることで、「ここに来ると癒やされる」「またここに来たいと思う(参加を続けたいと思う)」と、安心してどこかにつながり続ける習慣が形成されやすいと感じています。

また、リラックスした雰囲気で活動を続ける中で「私って、実はこういうの好きなんだなって気づいたよ」「次はあれをしてみようと思う」と、自分の価値観の再発見や今後の展望に関する言葉が聞かれることもありました。それはまさしく、アルコールや薬物に代わる“健康になる作業”を発見できた瞬間だったのだと思います。

今後も、安心して参加を続けることができる場の提供と、(時に怒られながらも)フランクにかかわることを通じて、少しでも生きづらさの解消と、その手段の獲得を支援できればと考えています。

プロフィール:小林崇志
昭和大学附属烏山病院 作業療法士。

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