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1 「ワニワニパニック」で大失態?!

みなさんはゲームに熱中しすぎたことはありますか?? 自分は明らかにハマりこみやすいほうで、昔、ゲームセンターの「ワニワニパニック」が楽しすぎてトイレに行くのも忘れ、その場で漏らしてしまうという失態を演じたことがあります。誤解のないように捕捉しますと、もちろん3歳ごろの出来事です(笑)。

当時の私の未熟な脳にとっては、ワニを叩くと「イテッ!」と言いながら引っ込むという単純な報酬が、排泄欲求を凌駕してしまったのでしょう。依存形成の仕組みはこのような意外と単純な脳の動きからはじまります。この仕組みのことを、脳内の腹側被蓋野から側坐核にかけての中脳辺縁系ドパミン経路が関与する報酬系とよんだりします。

報酬系は何もおしっこを漏らさせるためにあるわけではなく、意欲、学習機能、向上心など、人の成長に大切な役割を担っています。これが依存物質、嗜癖行動によって支配されてしまうと、誰でも簡単に依存が形成されます。おそらく勉強して何かを学んだことがある人なら総じて、依存症になり得る素質を持っています。今これを読んで勉強しているあなたにもおそらく依存症の種が備わっています。

2 ADHDと依存症について

ADHD外来で診療させていただいていると、 依存症を併存しているケースによく出会います。ADHD(注意欠如多動性障害) の診断基準に嗜癖・ 物質依存の項目が明示化されているわけではありませんが、刺激の強いものにハマりやすい傾向は経験的に多く認めます。

逆に、依存症をきっかけとして来院された人に ADHDが見つかることもよくあります。 単純に衝動性の問題や、不注意症状から物質乱用が延長していくケースもありますが、気分障害や不安障害を伴う人も多いです。

とくに成人期のADHDでは、発達特性によって生活面でのストレスを抱えている人が多く存在します。また各々が所属する社会的ニーズに対して、自力でどうにか対応しようとし、オーバーヒート気味に物事を成し遂げようとすることがよくみられます。

過剰なストレス負荷は、不安、集中困難、抑うつ症状を生じさせ、物質乱用・依存のトリガーとなっていきます。「何とか乗り切るため」ヤケ酒のような飲酒で不安や落ち込みを紛らわせ、「何とか乗り切るため」エナジードリンクやかフェインの過剰摂取によって集中力を保とうとする人もいます(とても多いです)。
しかし、飲酒による鎮静や脱抑制、精神刺激作用物質の乱用は、さらなるADHD症状の悪化を生じ、結果的に悪循環に陥ります。この悪循環のなかで自分でも気づかないうちに依存が形成されていくのです。ADHDに限りませんが、日々を何とか生き抜くために依存症になっていく人はとても多いです。総じて、もともとはがんばり屋の印象です。

3 人とのつながり

依存症治療の見え方が変わったのは、精神科一年目のときです。物質依存の入院歴がある人が、退院後どのくらいの期間、治療継続しているかを大学病院のカルテで調査しているときのことでした。
「毎週通っている人がこんなにいるのか」とか、「プログラム参加って、話してるだけかと思ったけど意外と効果あるもんだな」と、割と冷めた視点で調査を進めていると、診療録の最終記録が「警察からの変死報告」で終わっているカルテの束に出会いました。そのほとんどは、何らかの理由で長期間通院を中断されている方たちでした。

身体的な疾患の経過で亡くなる方がいるというのは自然の摂理上、ある程度受容できますが、「飲酒をやめる」「薬物をやめる」など、回避できる要素を持ちながら、こんなにも多くの方が、亡くなってしまうことは衝撃でした。個人的にはかなりショックでした。と同時に、少なくとも何らかの形で治療継続していれば、回避できる結果はあるかもしれないと思うようになりました。

依存症が専門の上級医が、「退院後に助けを求める先が何個か浮かんで、そのなかの一つに病院が浮かべばOK」と患者さんに病棟でよく言っているのを聞きながら、あんまり科学的ではないけど、どうやら「人のつながり」がかなり大事なんだなと感じました。これまで経験したケースのなかでも人のつながりは大切だなと思います。

4 自己開示について

「ドラえもん」に出てくるのび太がテストで0点を取って隠すシーンがよくあります(実はコミックス全45巻で20数回程度しか0点を取っていないようです。意外な少なさ!)。なぜ隠すかといったら、のび太のママが怒るからなんです。でもドラえもんには自己開示できていますね。助けてくれるかもと思うから……。
依存症の治療過程では、診察や、心理教育でエピソードを自己開示していく場面がよくあります。自己開示の内容は失敗体験も多いです。経験上の印象ですが、なんらかの依存症を持っている人は、さまざまな点で気を遣うことが多いせいか、話がおもしろい人が多いです。無意識的に「話にはオチがないといけない」ととらえており、サービス精神旺盛な人も多いですね。毎日が疲れそうです。依存症になりやすい性格傾向として「真面目でストレスを抱え込みやすい」といったりします。

性格じゃなくても、そもそも「助けを求められない」タイプの人は社会集団のなかに一定の割合でいます。困っている内容が言語化できておらず、うまく伝わらない、もしくは伝えられない。すでにできている人からは理解できないかもしれないですが、「人に助けを求める」のも個人の能力の一つなのではないかなと思っています。

ひとまずこれをここまで読んでくださった人は、病院やそのほかの場面で0点の答案を持ってきたどなたかを叱らないようにしてください。それがその人の支援希求かもしれませんので。

プロフィール:長塚雄大
昭和大学附属烏山病院、精神科医。認知症に強い関心を抱き、精神医学の道へ。同院で常岡医師のパワフルな診療を目の当たりにし、依存症治療に興味を持つ。興味の赴くままに日々勉強を続けている。いま関心があるのはゲーム課金、ADHDとレビー小体型認知症について。

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