※本連載は動画でもご覧いただけます。


今回は皇族系の細菌たち、バイキンガム宮殿のロイヤルファミリーです。キャラ名はハイエンキューキン王、インフルエンザキンXV(じゅうご)世女王、マイコプラズマ姫です。

なぜ、皇族系かというと、栄養豊富な食事(培地)がないと生きられないからです。例えば、肺炎球菌は血液入りの寒天が好物です。インフルエンザ菌はもっと贅沢で、血液を溶かしてあげないと食べてくれません。肺炎球菌はミカンを自分でむいて食べるけれども、インフルエンザ菌はむいてあげないと食べない、という感じです。マイコプラズマは培養が非常に難しく、ウマ血清とサプリメントと手の込んだ培地が必要になります。

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このような細菌学的な性質は、起こす病気にも関わってきます。王様、女王様、お姫様ですから、尿や便の中にいるはずもありません。尿路感染症や腸管感染症を起こすことはまずないということになります。一方、市中肺炎の原因菌になりやすく、三大原因菌となっています。

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もう少し性質を見てみましょう。

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まずは肺炎球菌から。グラム陽性球菌の連鎖状球菌のうち、狭義の連鎖球菌(Streptococcus)属に分類されます。学名はStreptococcus pneumoniae、球菌が2個つながったグラム陽性双球菌であることが最大の特徴です。

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ブドウ球菌よりはやや小型です。莢膜を持ち、菌体の周囲が不染帯として抜けて見えるのも特徴です。莢膜は最外層にある構造で、水飴のような成分でできたオーバーコートです。王様はおしゃれなので、90種類以上の莢膜を持っています。ただのおしゃれではなく、実は隠れ蓑の役割を果たしています。

莢膜がないと好中球に見つかってすぐに排除されてしまいますが、莢膜があることで好中球に認識されにくくなっています。莢膜は病原性に関与しているだけではありません。このような知見を利用して、血清型分類、尿中抗原検査、ワクチンにも利用されています。

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次はインフルエンザ菌です。ちなみにインフルエンザの原因はウイルスです。インフルエンザ菌の学名はHaemophilus influenzaeで、グラム陰性の小桿菌・短桿菌です。

血液が好きという属名は、赤血球に含まれるX因子(ヘミン)とV因子(NAD)を必要とする性質に由来しています。気づいたかもしれませんが、キャラ名についているXVはここにかけています。

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莢膜を持っているタイプと持っていないタイプがあります。肺炎球菌よりも種類が少なく、a~fまでの6種類です。特に有名なのがb型菌で、Haemophilus influenzae type b、略してHib(ヒブ)と呼ばれています。

乳幼児の髄膜炎を起こしやすいタイプで、ヒブ肺炎球菌ワクチンのヒブとはこのことです。無莢膜型は呼吸器感染症の原因となります。

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最後にインフルエンザ菌の耐性菌を簡単にご紹介します。BLNAS(ブルナス)は感受性菌です。β-ラクタマーゼによる耐性菌をBLPAR(ブルパー)、PBPの変異による耐性菌をBLNAR(ブルナー)、両方の性質をもつ耐性菌をBLPACR(ブルパッカー)と呼んでいます。

また、PBP変異の数と耐性の程度によって、耐性度が弱いBLNARをlow BLNARと呼ぶことがあります。low BLNARには、高用量のアンピシリンが有効な場合があります。

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復習問題

さて、ここからは今回お話ししたことについての復習問題です。
解答は下記でご確認ください。

問題1.肺炎球菌が起こしやすい感染症はどれか。2つ選んでください。
a.急性腎盂腎炎
b.急性膵炎
c.急性胆嚢炎
d.細菌性髄膜炎
e.細菌性肺炎

問題2.インフルエンザ菌の培養に必要な因子はどれか。2つ選んでください。
a.H因子
b.V因子
c.X因子
d.Y因子
e.Z因子

問題3.アモキシシリン/クラブラン酸が無効なインフルエンザ菌の耐性はどれか。2つ選んでください。
a.BLNAS
b.BLPAR
c.BLNAR
d.BLPACR

解答

問題1.d,e
尿路や消化器系の感染症はまず起こしません。
主な感染症は副鼻腔炎、中耳炎、COPDの増悪、肺炎、髄膜炎、菌血症などです。

問題2.b,c
XV世女王で覚えましょう。

問題3.c,d
BLNAR(beta-lactamase non-producing ampicillin-resistant)の名称にはアンピシリン耐性しかありませんが、PBPの変異なのでアモキシシリン/クラブラン酸にも耐性です。

注)細菌の名称について
細菌の名称のうち、和名がある場合には可能な限り和名で説明します。ただし、和名がない場合や、和名が2つ以上存在する場合があり、教育的観点からラテン語で書かれた学名で表記する場合があります。参考までに、代表的な細菌の和名、学名と特徴をまとめた一覧表をご用意しました。

代表的な細菌
代表的な細菌

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金子幸弘
大阪公立大学大学院医学研究科 細菌学 教授

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