※本連載は動画でもご覧いただけます。


こちらは庶民系、普通寒天培地でもよく生える質素な細菌です。グラム陽性では黄色ブドウ球菌、グラム陰性では大腸菌や肺炎桿菌などの腸内細菌科が代表的です。今回は、10%の食塩にも耐える強かな細菌、黄色ブドウ球菌を取り上げます。

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ブドウ球菌は、グラム染色上、ブドウの房状に見えることに由来し、同じグラム陽性球菌の連鎖状球菌と区別できます。また、連鎖状球菌と異なり、カタラーゼを産生します。ブドウ球菌の中でも、特に重要なのが黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)で、コアグラーゼという病原因子を産生します。一方、コアグラーゼ陰性のブドウ球菌はCNSとひとくくりに扱われています。CNSの9割は表皮ブドウ球菌です。

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コアグラーゼは血漿を凝固(coagulation)させる病原因子です。ブドウ球菌は元々集まりやすい性質を持っていますが、コアグラーゼによってますます団結力が強くなります。黄色ブドウ球菌だけ特別な理由は、コアグラーゼなどを持つために他のブドウ球菌よりも病原性が高く、肺化膿症などの重篤な感染症を起こしやすいためです。

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黄色ブドウ球菌で重要なのは、MRSAです。ほとんどの施設で分離されるので、耳にしたことはあると思います。ただ、その本体まではなかなか知らないかもしれませんので説明しておきましょう。MRSAのMはメチシリン、Rは耐性、SAは黄色ブドウ球菌を表しています。つまり、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌です。そして、キーワードはmecA(メック・エー)とPBP2’(ピー・ビー・ピー・ツー・プライム)です。

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黄色ブドウ球菌は元々ペニシリンが有効でしたが、ペニシリンを溶かす酵素(ペニシリナーゼ)を産生するようになり、ペニシリンが効かなくなりました。

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そこで、ペニシリナーゼに溶かされないような特殊加工を施したメチシリンが開発されました。なお、日本ではメチシリンが使えないため、代わりにセファゾリンが使われます。

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ところが、特殊加工されたメチシリンにも耐性の黄色ブドウ球菌が現れました。

MICは最小発育阻止濃度という指標で、値が大きいほど薬が効かない、つまり耐性であることを示します。MRSAはmecAという遺伝子を獲得して、メチシリンやセファゾリンのMICが高くなった、つまり効かなくなった黄色ブドウ球菌です。mecAは分解酵素ではなく、PBP2’という変異型の細胞壁合成蛋白質をコードしている遺伝子ですが、詳細はまたの機会にいたします。

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こちらのグラフは、青い線が分離数、赤い線がMRSAの比率を示しています。ご覧の通り、黄色ブドウ球菌の約半数がMRSAという困った事態ではありますが、幸いにも治療薬があります。

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抗MRSA薬です。メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)にも有効ですが、適正使用の観点から、MRSAだけに使うようにしましょう。

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現在利用可能な抗MRSA薬は、こちらに示す通りですが、覚えにくいですよね。

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おいしい覚え方を知りたくありませんか。マルシェには・リゾット・あるのが・定・番・だ・って。いかがですか。

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復習問題

さて、ここからは今回お話ししたことについての復習問題です。
解答は下記でご確認ください。

問題1.黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌の相違はどれでしょうか。
a.カタラーゼの有無
b.グラム染色の染色性
c.コアグラーゼの有無
d.細胞壁の有無
e.mecA遺伝子の有無

問題2.mecAがコードしている蛋白質の機能はどれでしょうか。
a.細胞壁合成酵素
b.細胞壁分解酵素
c.蛋白分解酵素
d.DNA合成酵素
e.ペニシリン分解酵素

問題3.抗MRSA薬はどれか、2つ選んでください。
a.アンピシリン
b.セファゾリン
c.テイコプラニン
d.バンコマイシン
e.メチシリン

解答

問題1.c
カタラーゼはどちらも持っています。mecAはメチシリン耐性に関与する遺伝子なので、MSSAとMRSAの相違です。

問題2.a
mecAがコードしているPBP2’の本体は細胞壁合成酵素です。PBPはペニシリン結合蛋白質の略で、ペニシリンなどのβ-ラクタム系薬が結合することで細胞壁合成酵素としての機能を失いますが、PBP2’は変異型なので、β-ラクタム系薬が結合することがなく、細胞壁合成に支障をきたしません。

問題3.c,d
テイコプラニン、バンコマイシンを含めて、リネゾリド、テジゾリド、アルベカシン、ダプトマイシンの6つが、一般に抗MRSA薬と呼ばれます。
他の3つ、アンピシリン、セファゾリン、メチシリンはいずれもMRSAには無効です。

注)細菌の名称について
細菌の名称のうち、和名がある場合には可能な限り和名で説明します。ただし、和名がない場合や、和名が2つ以上存在する場合があり、教育的観点からラテン語で書かれた学名で表記する場合があります。参考までに、代表的な細菌の和名、学名と特徴をまとめた一覧表をご用意しました。

代表的な細菌
代表的な細菌

お知らせ

2024年8月4日(日)に、抗菌薬適正使用促進のための研修会、Fil-GAP(Facilitative Gathering for Appropriate Antimicrobial Practice)を開催いたします。抗菌薬適正使用に関する知識格差を埋めるという思いを込めてFil-GAPと名付けました。

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金子幸弘
大阪公立大学大学院医学研究科 細菌学 教授

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