※本連載は動画でもご覧いただけます。


第3回に引き続き庶民系で、今回は大腸菌とその仲間たち、腸内細菌科細菌をご紹介します。

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ちなみに、腸内細菌と腸内細菌科は異なります。腸内細菌は、腸内の常在菌という意味で、嫌気性菌や腸球菌などの複数の種を含みます。一方、腸内細菌科は学名上の分類で、大腸菌や肺炎桿菌などの系統的類似性を持った集団です。近年の再編成によって、セラチアなどの以前腸内細菌科に分類されていた細菌が別の科に分類されたため、旧腸内細菌科を含めた表現として腸内細菌目という用語を使うようになっています。

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ただ、代表的な菌種は腸内細菌科にとどまっていますので、どちらの用語を使ってもそれほど大きな違いはありません。

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大腸菌は、ご存じの通りグラム陰性菌です。グラム陽性菌とグラム陰性菌の大きな違いは表層構造で、グラム陰性菌にはLPSで構成された外膜を持つことが特徴です。外膜は選択性の高い膜であり、容易に抗菌薬などを取り込みません。

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さらに、排出ポンプも発達していることが多く、一部の抗菌薬には本質的に耐性(自然耐性)を示します。

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さらに、近年は獲得耐性として、キノロン耐性大腸菌や第三世代セファロスポリン耐性が問題になっています。

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第三世代セファロスポリン耐性の多くはESBL産生菌です。

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ESBL産生菌とはどんな菌でしょうか。ESBLは基質特異性拡張型β-ラクタマーゼの略です。基質とはβ-ラクタム系薬のことで、元々ペニシリンだけを分解していたペニシリナーゼが、セフェム系薬まで分解できるようになった、というのがESBLの元々の考え方です。

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セフェム系薬のうち、セファマイシン系薬は分解しないため、厳密にはセファロスポリナイーゼです。

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また、Ambler分類というβ-ラクタマーゼの分類法では、Class Aに相当します。

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獲得耐性として、独自の分類として、鍛錬型とアイテムゲット型に分けていますが、ESBLはアイテムゲット型です。鍛錬型は徐々に耐性化するのに対して、アイテムゲット型は一気に高度耐性化しやすいため、より厄介です。

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また、耐性を運ぶプラスミドは、コピーされて次々に仲間の中で共有されます。つまり、伝達性があるということです。通常、余計な遺伝子を保有するとコストがかかるため、あまり流行らないはずですが、ESBLの一部は大腸菌たちにとって「お手頃価格」になっており、保持しやすくなっています。さらに、ESBL産生菌は、腸内細菌科なので、腸内にも維持されやすい。つまり、健康な人の腸内にも定着しやすいといえます。このような理由から、ESBL産生菌が増加していると考えられます。

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ESBLにもTEM型やSHV型などのいくつかのタイプがありますが、近年はほとんどCTX-Mで、中でも14や27といったCTX-M-9 groupが主流となっています。

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特にST131という遺伝子型の大腸菌とCTX-M-27との相性がよく、同時にキノロン耐性の遺伝子変異も持ち合わせていることが多いことがよく知られています。

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復習問題

さて、ここからは今回お話ししたことについての復習問題です。
解答は下記でご確認ください。

問題1 腸内細菌科細菌はどれでしょうか。2つ選んでください。
a.大腸菌
b.腸球菌
c.肺炎桿菌
d.肺炎球菌
e.バクテロイデス

問題2 現在主流となっているESBLはどれでしょうか。
a.CTX-M-9 group
b.IMP-6
c.KPC
d.Mcr1
e.NDM-1

問題3 ESBLが分解する基質はどれでしょうか。2つ選んでください。
a.アンピシリン
b.セフトリアキソン
c.セフメタゾール
d.メロペネム
e.レボフロキサシン

解答

問題1.a,c
腸球菌とバクテロイデスは、腸内細菌ですが、腸内細菌科ではありません。また、肺炎桿菌と肺炎球菌は別物です。名前の類似性には要注意。

問題2.a
IMP-6とNDM-1はメタロβ-ラクタマーゼ(MBL)で、class Bのカルバペネムを分解する酵素です。また、KPCはclass Aですが、Klebsiella pneumoniae carbapenemaseの略で、肺炎桿菌で発見されたカルバペネムを分解する酵素です。Mcr1は伝達性のコリスチン耐性因子です。

問題3.a,b
β-ラクタム系薬は、a~dで、cはセファマイシン系薬、dはカルバペネム系薬なので分解できません。また、eはフルオロキノロン系薬でβ-ラクタム系薬ではないので、基質にはなりえません。

注)細菌の名称について
細菌の名称のうち、和名がある場合には可能な限り和名で説明します。ただし、和名がない場合や、和名が2つ以上存在する場合があり、教育的観点からラテン語で書かれた学名で表記する場合があります。参考までに、代表的な細菌の和名、学名と特徴をまとめた一覧表をご用意しました。

代表的な細菌
代表的な細菌

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金子幸弘
大阪公立大学大学院医学研究科 細菌学 教授

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