※本連載は動画でもご覧いただけます。


今回は、グリーンモンスターこと緑膿菌とその仲間たちをご紹介します。

緑膿菌、アシネトバクター、ステノトロフォモナスをMonsters Big 3と呼んでいます。感染症を起こす頻度は概ねこの順で、アシネトバクターは緑膿菌の10分の1、ステノトロフォモナスはさらにその10分の1くらいなので、ステノトロフォモナスはかなりレアなモンスターになります。ちなみに、アシネトバクターの名前の由来は「動かない」ですので、しっぽ(鞭毛)を持っていません。

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また、これらのモンスターは、細菌学的にはブドウ糖非発酵菌に分類されます。ブドウ糖を発酵できないということは、酸素を使ってブドウ糖を燃焼させることでしかエネルギーが得られません。したがって、好気性菌ともほぼ同義です。ちなみに、大腸菌は発酵と燃焼の両方が使える器用な細菌で、腸内の先住民ともなっています。

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一方、緑膿菌は元来環境菌で、健康な人に感染することはほとんどありません。しかしながら、ほとんど栄養のない場所でも生きながらえることができ、さらに、環境にいるカビと戦うために、抗菌薬にも耐性傾向を示します。したがって、いったん病気を起こすと治療に難渋します。

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では、なぜ、緑膿菌が病気を起こすのでしょうか。

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実は人間の余計な仕業によるものです。腸の中はテリトリーを争うライバルも多く、嫌気的ですので緑膿菌はなかなか侵入できません。ところが、人間が抗菌薬を使ってライバルを一掃したおかげで、先住民を追い出し、緑膿菌が侵入する隙を与えてしまったわけです。

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治療に難渋すると述べましたが、治療薬がないわけではありません。人間も、初期型のペニシリンから、旨み成分の追加で大腸菌を騙して仕留める改良型ペニシリン、そしてさらに旨み成分を増量して緑膿菌まで欺くピペラシリンという抗菌薬を開発しました。

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緑膿菌は抗菌スペクトルの一つの目安で、一昔前までの抗菌薬の開発はモンスターを倒すためだったといっても過言ではありません。そして、「菌滅のカルバ」こと、広域抗菌薬の代表ともいえるカルバペネム系薬の開発に至ったという感じです。

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現在、抗モンスター兵器としては、皮の部分を標的にするβ-ラクタム系薬やコリスチン、内から攻撃するキノロン系薬やアミノグリコシド系薬があります。

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なお、β-ラクタム系薬は種類が多く、抗緑膿菌作用があるものとないものがあり、特に第三世代セファロスポリン系薬の途中であるもの(セフタジジム)とないもの(セフトリアキソンなど)に分かれるため、注意が必要です。

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抗モンスター兵器ができたからと言って決して油断はできません。カルバペネム系薬、キノロン系薬、アミノグリコシド系薬の3系統に耐性を示すMDRPやMDRAが現れました。

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ただし、日本ではMDRPとMDRAはそれほど多くはありません。是非、この状態を維持していきましょう。

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最後にもう一つ、緑膿菌の特徴として、バイオフィルムという構造が知られています。

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あたかも多細胞生物かのようなふるまいをする3次元的な構造物で、人工呼吸器関連肺炎などの難治性にも関与しています。

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復習問題

さて、ここからは今回お話ししたことについての復習問題です。
解答は下記でご確認ください。

問題1 ブドウ糖非発酵菌はどれか。2つ選んでください。
a.大腸菌
b.緑膿菌
c.肺炎球菌
d.アシネトバクター
e.バクテロイデス

問題2 抗緑膿菌作用のある抗菌薬はどれか。2つ選んでください。
a.アンピシリン
b.ピペラシリン
c.セファゾリン
d.セフトリアキソン
e.シプロフロキサシン

問題3 多剤耐性緑膿菌の基準となっている抗菌薬はどれか。2つ選んでください。
a.アンピシリン
b.セフトリアキソン
c.セフメタゾール
d.イミペネム
e.シプロフロキサシン

解答

問題1 b,d
ブドウ糖非発酵菌は、緑膿菌とアシネトバクターです。

問題2 b,e
ペニシリン系薬は抗緑膿菌作用のあるもの(ピペラシリン)とないもの(アンピシリンなど)があります。第三世代セファロスポリン系薬も抗緑膿菌作用のあるもの(セフタジジムなど)とないもの(セフトリアキソンなど)があります。

問題3 d,e
多剤耐性緑膿菌の基準は、カルバペネム系薬、キノロン系薬、アミノグリコシド系薬で、具体的には、通常、イミペネム、シプロフロキサシン、アミカシンが用いられます。

注)細菌の名称について
細菌の名称のうち、和名がある場合には可能な限り和名で説明します。ただし、和名がない場合や、和名が2つ以上存在する場合があり、教育的観点からラテン語で書かれた学名で表記する場合があります。参考までに、代表的な細菌の和名、学名と特徴をまとめた一覧表をご用意しました。

代表的な細菌
代表的な細菌

お知らせ

2024年8月4日(日)に、抗菌薬適正使用促進のための研修会、Fil-GAP(Facilitative Gathering for Appropriate Antimicrobial Practice)を開催いたします。抗菌薬適正使用に関する知識格差を埋めるという思いを込めてFil-GAPと名付けました。

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金子幸弘
大阪公立大学大学院医学研究科 細菌学 教授

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