※本連載は動画でもご覧いただけます。


今回は、「ガホーケイ星人」として知られる芽胞形成菌、特にディフィシル菌とその仲間たちをご紹介します。

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ガホーケイ星人には、グラム陽性の芽胞形成能を持つクロストリジウム属やバチルス属の細菌が含まれます。グラム陽性と芽胞形成という特徴以外に、いずれも猛毒を出す性質があるという点も共通しています。一方、クロストリジウム属は酸素が嫌いな嫌気性、バチルス属は好気~通性嫌気性で酸素を上手に使いこなすという点で異なっています。

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バチルス属の代表的な菌としては、納豆菌としても知られる枯草菌(Bacillus subtilis)、食中毒の原因となるセレウス菌(Bacillus cereus)、バイオテロの白い粉で有名になった炭疽菌(Bacillus anthracis)があります。クロストリジウム属では、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、破傷風菌(Clostridium tetani)など、悪そうな菌がそろっています。

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ディフィシル菌は、嫌気性菌であるため、本当は空気に触れると死んでしまいますが、芽胞を形成することによって、環境中でも生き残ることができます。また、芽胞はアルコール抵抗性であるという点にも注意が必要です。

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ディフィシル菌は健康な人の腸にも住み着いていることがありますが、先住民である大腸菌やバクテロイデスがディフィシル菌の増殖を防いでいます。しかしながら、抗菌薬の使用などでこれらの先住民が減少すると、活性化して増殖します。一部の菌は毒素を産生する能力を持ち、トキシンAとトキシンBを産生する場合があります。これらの毒素が腸の細胞にダメージを与え、炎症を引き起こし、下痢を起こします。偽膜性大腸炎としてもよく知られています。

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ディフィシル菌は芽胞を形成するため、環境中で生き残りやすく、接触感染で広がりやすい特徴があります。そのため、感染予防策が重要です。新たな宿主に感染することで、さらに広がるリスクがあります。また、繰り返しになりますが、アルコールが無効である点にも注意が必要です。

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ディフィシル菌感染症の治療には、メトロニダゾールやバンコマイシンなどの特定の抗菌薬が用いられますが、最近ではフィダキソマイシンという新しい選択肢も登場しています。また、再発防止のために糞便移植(FMT)という方法も注目されています。
ガホーケイ星人という名称はダジャレから始まっていますが、その耐久性と適応力から、本当に異星人のような存在です。

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復習問題

さて、ここからは今回お話ししたことについての復習問題です。
解答は下記でご確認ください。

問題1 芽胞形成菌はどれか。2つ選んでください。
a.結核菌
b.大腸菌
c.緑膿菌
d.破傷風菌
e.ディフィシル菌

問題2 ディフィシル菌の性質として正しいのはどれか。2つ選んでください。
a.嫌気性菌である。
b.100℃で容易に死滅する。
c.アルコールが無効である。
d.偏性細胞内増殖菌である。
e.バンコマイシンに耐性を示す。

問題3 ディフィシル菌関連下痢症に用いられる治療薬はどれか。2つ選んでください。
a.クリンダマイシン
b.フィダキソマイシン
c.メトロニダゾール
d.メロペネム
e.リファンピシン

解答

問題1 d,e
主な芽胞形成菌は、バチルス属(枯草菌、セレウス菌、炭疽菌など)とクロストリジウム属(ディフィシル菌*、破傷風菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌など)です。
*ディフィシル菌は厳密にはクロストリジオイデス属。

問題2 a,c
主な特徴は芽胞形成と嫌気性です。芽胞はアルコールに耐性を示します。バンコマイシンは治療薬として用いられます。

問題3 b,c
治療薬としては、通常、バンコマイシン、メトロニダゾールが用いられます。難治例などではフィダキソマイシンも用います。

注)細菌の名称について
細菌の名称のうち、和名がある場合には可能な限り和名で説明します。ただし、和名がない場合や、和名が2つ以上存在する場合があり、教育的観点からラテン語で書かれた学名で表記する場合があります。参考までに、代表的な細菌の和名、学名と特徴をまとめた一覧表をご用意しました。

代表的な細菌
代表的な細菌

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金子幸弘
大阪公立大学大学院医学研究科 細菌学 教授

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