著者:宇城 令(愛知県立大学看護学部准教授)
愛知県立大学で医療の安全性・質評価を研究しながら、看護管理学を専門として教鞭を執る宇城令先生。その宇城先生が中心となって、新人看護師が(できるだけ)インシデントを回避できるようになるためのアドバイスをまとめた書籍『できればインシデントを起こしたくない新人ナースお助け あぶない展開回避の術』(詳しくはこちら)では、どのようなシーンでインシデントが起こりやすいか、どうすれば回避できるのかをわかりやすく解説しています。
そんな宇城先生に医療現場ときってもきれない「インシデントレポート」についてのギモンをぶつけました。第3回は「書き方のコツ」。コツがわかれば苦手意識がなくなるかもしれません。
インシデントレポートは反省文ではない
インシデントレポートのコツですね。わかりました。
まずは、インシデントレポートは反省文ではないことを改めて確認したいと思います。
でもインシデントが起こったとき、「私のせいだ」と自分を責めてしまう気持ちが生じるのは自然なことです。
ただ、自分を責めることでとどめてしまうのではなく、客観的に事実を見つめ事故の原因を考えることを心がけてほしいなと思います。
まず、ありのままインシデントが起こった経緯を書いてみましょう。
そこで注意していただきたいことは、例えばあなたが最終的にインシデントを起こしたとしたとしても、何かきっかけや理由があるということです。
インシデントが起こった経緯を時系列に書きながら、インシデントにつながった行動となった背景を多角的に振り返りましょう。
レポートの記載に必要な4W
インシデントレポートに必要な主な要素は以下のとおりです。
●インシデントの発生日時
●発生場所
●インシデントの内容
●インシデントの影響度分類
●患者情報
●インシデントの概要(時系列に記載)
必要なのは、「いつ(When)」「どこで(When)」「誰に(Who)」「何が起こったのか(What)」の4Wです。
一般的な報告書では、これに「なぜ(Why)」と「どのように(How)」を加えた5W1Hが必要とされますが、インシデントレポートではまだ情報がそろっていないなかで原因を決めつけてしまう可能性があるため、4Wを重視しています。
PmSHELLモデルで概要を記載する
このなかでも「インシデントの概要」は、発生時の状況を時系列に客観的かつ正確に記載します。
関係した人や物などの事実をありのままに記載することが大切です。
反省や感想は不要です。
多角的に振り返るための方法はいくつかありますが、今回は河野龍太郎氏が提案しているPmSHELLモデルをご紹介したいと思います。
詳しくは本書をご参照くださってもよいかなと思います。
PmSHELLモデルは、もともとはエドワーズ(Edwards, E.)によって提案されたSHELモデルにマネジメント(management, 管理)を加え、さらに患者さんの要素も重要だという考えから患者さんのP(Patient)を加え医療版に改良されたモデルです。
人間がエラーを起こす背景には、エラーを誘発する環境があります。
人間を取り巻く環境が人間の特性と合致していないのです。
過去には、人間が起こすエラー(ヒューマンエラー)は当事者の問題としてとらえられてきましたが、現在はどんなに高度な教育を受けた有能な人でもエラーを起こすことがあるという前提に立ちます。
ポイントは、エラーを起こした当事者(L)にとって周囲の人々(L)、ソフトウエア(S)、ハードウエア(H)、環境(E)、患者(P)、マネジメント(m)がどうであったかが重要なのです。よく耳にする状況としては、「1人で歩行してはいけない患者さんに『大丈夫だから内緒にしてね』と言われ、患者さんに嫌われたくなくて新人ナースの自分だけで対応してしまった」「初めてすることだけどみんな忙しそうで確認してもらえそうな先輩が見つからなくて1人でやってしまった」「おかしいと思って医師に確認したけどきちんと取り合ってもらえず、あやふやなまま行動してしまった」などです。
新人ナースにとっては、いろんな意味で過酷な現場であることは少なくないのではないでしょうか。
下の表を活用し(詳しくは本書をご参照ください)、インシデントに至った経緯をPmSHELLの要素ごとに振り返ってみてください。振り返る視点があることで多角的に原因を考えることができると思います。
みなさんがおかれている状況を含めて先輩や師長さん、医師にも知ってもらうためにもできるだけ丁寧に記載したいですね。
振り返って考える視点があると、反省文に偏ることなく、あなただけではなく職場の課題も見えてくるのではないでしょうか。インシデントになった原因が見つかることによって、その原因に対する対策がとれるようになりますね。
みなさんが一生懸命書いてくれたインシデントレポートから、多くの患者さんや医療者が教訓を得て、再発防止につながるといいなと思います。
応援しています。
著者の書籍の案内
できればインシデントを起こしたくない新人ナースお助けあぶない展開回避の術
先手必勝、転ばぬ先の杖、明日はわが身。
インシデントレポートは“事故当事者の個人的責任を追及するものではなく”、収集した情報を分析し、医療事故防止の改善策を検討し実施する目的に使用する(厚生労働省資料より引用一部改変)。ただその一方で新人ナースにとっては、インシデントレポートを書くことで「できない新人」というレッテル貼りをされるという悲しい現実もある。すこしでも新人ナースの皆さんがそうした思いをしないように、本書ではインシデントが起こりやすい場面を取り上げ、どうすれば極力インシデントを回避できるか、という視点からその方法をやさしく紹介する。