コロナ禍が看護師の仕事に与える影響を「社会的立場」「労働力」「デジタル化」「生き方・働き方」「キャリア」の5つの視点から全5回シリーズで考察します。
現場をまとめる看護師の力
2020年に世界規模で広まった新型コロナウイルスはこれまでの常識や既成概念を一変させてしまいました。ここではウィズコロナ、アフターコロナと言われる今後の世界、とりわけ看護界に与える影響を考えてみます。
まずはコロナ拡大により「看護職の不足」がますます顕在化しました。日本看護協会は4月の緊急事態宣言の発令直後からeナースセンターに登録されている5万人の看護職にメールにて復職を呼びかけました。その結果、約3000人弱から復職希望があり6月末時点で約1000人が就業することになりました。配置が多かったのは軽症者宿泊施設への就業で約400名、コロナ関連の相談対応コールセンターが250人など。看護職がもつ専門性がコロナ対応の現場で即戦力として役立つことがわかります。
実際に軽症者施設では、通常のように患者のそばでコミュニケーションしたり、触診することができないなかで、体温やサチュレーションのデータを見ながら、ときにはテレビ電話で患者の様子を見ながら、医師につなぐかどうかの判断をする。また患者の不安や体調の不調に耳を向けながら寄り添い声を掛けることができるのも看護職の専門性にほかなりません。
今回の日本看護協会の呼びかけで軽症者用の宿泊療養施設に復職を果たした看護師Aさんは、感染管理認定看護師の有資格者でした。開設間もない施設に配属されたAさんはまず感染対策に優先順位をつけて感染リスクを低減させました。共同の浴室やトイレ、その掃除やごみ捨てのために職員はどのような動線をとるか、防護服の選択、着脱の指導も行ったといいます。医療従事者だけでない、いろんな人が出入りする場所で、あるときは感染管理の専門家として、あるときは看護師として、そしてあるときは患者に寄り添う一人の人間として、さまざまな人たちと意思疎通を図りながら療養の場を作り出していけたのは看護師ならでは、と言えます。(参考文献:日本看護協会HP、看護実践情報)
英国・ジョンソン首相が世界に発信したこと
新型コロナ感染症によって、世界的に看護師の活動を知らしめる出来事もありました。
当初、新型コロナウイルスの脅威を軽く見ていたと思われる発言をしていた英国・ジョンソン首相でしたが、自身が感染し一時は危機的状況に陥ったと報道されました。集中治療室で治療を受け死の淵から復帰した彼が退院時にコメントした内容は全世界に発信されました。
そこでは「ニュージーランド出身のジェニー、ポルトガルのボルトの近くの町から来たルイス……」と看護師一人ひとりの実名をあげて感謝の言葉を述べています。国のトップが出身地とともに看護師の名前を伝えるのは入院中にそれだけのコミュニケーションをとっていたということであり、彼女らへの全幅の信頼と感謝を表したのだと受け止めました。コメントのなかには「私は数多くの看護師たちに感謝したい……(略)……私の身体が十分な酸素を取り込めるようになった理由は、彼らが夜通し私を非常に注意深く、目を見張らせ、考え、ケアをして私に必要な処置をし続けてくれたからだ……(略)」とあります。
ベッドサイドで看護師が行った「観察し」「考え」「介入し」「適切な処置」する、まさにケアリングそのものをジョンソン首相が自らの言葉で語ったことに世界中のどれだけの看護師が驚き、感激し、勇気づけられたでしょう(陣田泰子先生が『ナーシングビジネス』7月号~9月号でジョンソン首相のコメントを取り上げながら「新型コロナ報道から看護の未来に向けていま考えること」として短期集中連載されています。本稿も参考とさせていただきました)。
アフターコロナ、ここから始めてみよう ①
▶あなたの「看護の原点」を思い出して言語化してみましょう。
ヒント:「なぜ看護師を志したのか」「忘れられない患者さん」について。職場や友人、家族と話し合う機会をつくるのもいいですね。
第2回は2020年9月17日(木)に配信します。
株式会社メディカ出版 販売企画部門責任者。キャリアコンサルタント(国家資格)。編集者として「透析ケア」「眼科ケア」、「ナースビーンズ(Smart Nurse)」の創刊を担当。編集部門、管理部門の責任者を経て、系列会社保育社の代表取締役、介護運動支援ゲーム「起立くん」、自動おしぼり供給機「おしぼりふく蔵」、施設向け学習eラーニング「CandY Link」、オンライン学習システム「FitNs.」「BeNs.」の販売責任者、看護の見える化支援セミナー「陣田塾」の企画運営、全国約5000病院の看護管理職に向けて「メディカファン Eyes of the Mind」を執筆。
コロナ禍の状況のなか「わくわくする働き方・生き方、個人を大切にする職場づくりの支援に役立てば」と、この春からYouTubeチャンネル『松井貴彦 まっチャンネル』を開始。