1.精神科2年目医師が考えたこと
はじめまして、精神科2年目の医師です。
昨年の10月から、急性期病棟で依存症治療にかかわらせていただいています。まだまだ若輩者ですが、これまで考えたことをお伝えします。
2.依存症は心が弱い人がなる病気ではない
依存症専門医の常岡先生から、年度始めのクルズスでご教示いただいたことで強く印象に残っていることがあります。
依存症は「心の弱い人」がなる病気ではない、むしろ不安やストレスを抱えたときに周囲にうまく相談できず抱え込み、自分の力だけで対応しようとして、ストレスコーピングとして嗜癖をする、自立心が強い人がなり得る病気だということです。
言われてみれば当たり前のようですが、依存症について無知な私には目から鱗でした。
そのような視点で見ると、病棟でかかわった患者さんは皆さん、背景はそれぞれですが、さまざまな生きにくさ、自己肯定感の低さなども相まって周囲に頼ることができず、嗜癖に頼らざるを得なかった方が多いように見えました。
ある薬物依存症の女性は、母親から薬物依存について、「心が弱いからだ、忍耐力がないからだ」などと責められていました。むしろ逆で、生きにくさを、周りに頼らずに薬を使うことで懸命に緩和しようとしていたのでは?と意見を伝えると、「そうだったのかも。その言葉が聞きたかったのかもしれない」と、安堵した顔でおっしゃったのが印象的でした。
患者さんは、自分でも嗜癖に走る自分を責める傾向があります。家族でさえ依存症への偏見から患者を責めることが多いなか、せめて医療者は、たとえスリップしたり、容易に嗜癖をやめられなくても、患者さんを責めてはいけないということが、身に沁みてわかりました。
3.当院のプログラム、自助グループに参加するなかで考えたこと
烏山病院では依存症プログラムを定期的に開催しており、またオンラインや対面自助グループにも、常岡先生のつながりで参加することができます。私も何度か参加させていただき、「強くなるのではなく、賢くなること」が大切、つまりいかに依存しないで生きていくかの、具体的な工夫や術を知ることが大切だと学びました。
精神疾患の患者さんは多かれ少なかれ、生きづらさ、不安、ストレスを感じる傾向があります。それらの対応方法として依存症のみに限らず、すべての精神疾患について汎用できる内容が多く、勉強になります。
またそれらの場では、なによりも「ありのままの自分を受け入れてもらえる温かい空気感」を、参加するたびに感じます。患者さんの心のより所となるために、精神科治療の場は本来こうであるべきではと、参加するたびに思います。
4.治療するなかで患者さんにいかに寄り添うか
治療するなかで、「アルコールやギャンブル、薬をやめること」を、正直、私もいまだについ、患者さんに押し付けてしまう傾向があり、改善すべき点だと思っています。
そうではなく、「患者さんがなにを信じてどうなりたいのか」を考えること、患者さんを自分の思うとおりに変えようとするのではなく、ありのままの患者さんにまずは寄り添うことが第一歩として重要だと、塚越看護師(#008、027)や常岡先生から教わりました。
まずはその人がどんな性格で、どんなことがつらくて、なにを楽しいと感じ、どんな生きづらさを抱えているのかを知ること。それは依存症のみに限らず、すべての精神疾患の治療の根幹になる、とても重要なことだと思います。
依存症治療はまだ正直わからないことだらけです。患者さんの気持ちに寄り添えなかった、ああすればよかったと後悔することが日々多くあります。研鑽を積み、少しでも患者さんの気持ちに寄り添える医師を目指したいと思います。依存症治療にかかわるなかで、多くの学びがあり、さまざまなことを考える機会を与えていただき、とてもよい経験になりました。