1.依存症ケアで大切なのは思いの言語化
私が看護師として勤めている精神科の慢性期病棟では、入院患者の7割近くを依存症の方が占めている。
依存症ケアにおいて、私が重視しているのは、自分の思いを言語化していくことである。
アルコールやギャンブルは、ときに感情をやり過ごすための「便利な道具」として使われる。そうやって、つらさや不安を一時的に和らげることはできるが、その分、自分の内面に向き合う機会は先送りされていく。
回復の過程では、その道具に頼らず、自分の感じていることを言葉にしていくこと、そしてそれを誰かと共有していくことが求められる。
しかし、自分の思いを言語化することは簡単ではない。
「つらい」「死にたい」「逃げたい」といった感情は、強いものであるほど、輪郭が曖昧なまま残りやすい。何がつらいのか、何から逃げたいのか、自分でも説明できないまま、感情だけが先行してしまうことがある。
そしてそれは、一人では整理することがむずかしい。
誰かと会話を重ねるなかで、言葉を探し、言い直しながら、自分の思いの形が少しずつ見えてくる。曖昧だった感情に、少しずつ輪郭が与えられていく。
このように、自分の思いを言葉にしていくことは欠かせない一方で、日常のなかでそれを継続することは容易ではない。
2.病棟でのノートを使った取り組み
そのため、言語化を支える方法のひとつとして、病棟ではノートを使った取り組みを行っている。
入院時に患者にはノートを購入してもらい、自身のことや日々の気づき、相談したいこと、今後の希望などを記載し、医療者に提出してもらっている。
入院当初は、「何を書けばいいかわからない」と話す人が多い。
しかし実際には、悩みや困りごと、漠然とした不安を抱えていることが多い。それでも、「これは書く必要がない」「医療とは関係がない」「相談しても意味がない」といった自己判断によって、感情に蓋をしている場合がある。
そのため、まずは内容の適切さを問わず、「思っていることを書いてよい」という前提を共有している。
また、当事者同士で相談した内容についても、できるだけ解釈や加工を加えず、そのまま記載することを大切にしている。
病棟のなかでは、同じ立場にある仲間から多くの言葉を受け取る機会がある。ときにそれは、自分では気づけなかった視点であり、回復に向けた手がかりになることもある。
3.言葉の受け取り方の偏りに気づく
一方で、精神状態によっては、それらをうまく受け取れなかったり、自分に都合のよい形でしかとらえられなかったりすることもある。
自分の都合のよいように言葉を整えてしまうと、否定的な意見や向き合いたくない内容に蓋をしてしまうことがある。また、視野が狭くなっている状態に気づきにくくなる可能性もある。
そのため、ノートに書かれた内容をもとに、医療者といっしょに点検していくことが必要になる。仲間から受け取った言葉をどのように理解しているのか、その過程をいっしょにたどり直していくことが、受け取り方の偏りに気づく手助けになる。
人は出来事に意味づけをしやすく、「否定されたのではないか」といった受け取り方が先行することがある。そのため、実際に言われた内容と、自分がどう受け取ったかを分けて記録する。
相手の意図と自分の受け取り方が一致しているとは限らない。こうした点検を通して、「出来事」と「解釈」を少しずつ切り分けていく。
ただし、この取り組みが医療者からの評価やジャッジの対象になってしまうと、治療の中核である「正直さ」から離れてしまう危険がある。
そのためには、医療者との信頼関係が前提になる。
4.対話を続けるうえで意識していること
信頼関係を築くうえで欠かせないのは、失敗が罰されないことである。あくまで正直に失敗を話せることが守られている必要がある。
入院環境が、失敗や揺れ戻りも含めて安心して語ることができる場所であるためには、この信頼関係が土台になる。
対話について考えるとき、意識していることがある。
看護師も人間であるため、好みや自身の正義感、感情が先行してしまうことがある。私自身にも、そのような経験がある。
そのため、かかわりのなかでは、雑談や励ましといったかかわりだけで終わらせてしまわないことを意識している。
会話が続くことや場が和むことと、その人の内面に触れることは、必ずしも同じではない。
むしろ、その対話が、その人にとって正直なものになっているか、自己判断や思い込みで歪められていないかを、フラットな視点で見ていくことを軸にしている。
世間的によいとされている振る舞いや、客観的に正しいとされる事実ではなく、その人がどのように感じ、どのように受け取っているのかという主観に耳を傾けることが求められる。
しかし、かかわりを続けるなかで、相手のことを理解したように感じてしまう場面もある。だからこそ、「わかったつもりにならないこと」を意識している。
かかわりのなかで見えてきた特徴をもとに、その人を固定的にとらえてしまうと、その後の言葉や変化を見落としてしまう。
そのつど語られる言葉を、そのつど受け取ることが、対話を続けていくうえで欠かせないと感じている。
5.病院は「安全に失敗できる場所」でありたい
私が大切にしているのは、病院が「安全に失敗できる場所」であることだ。
回復の過程では、うまくいかないことや揺れ戻りが起こる。言葉にすることや、人に相談すること自体が負担になる場合もある。
それでも、失敗したことを正直に話し、それを受け止めてもらえることには意味があると、日々のかかわりのなかで感じている。
自分の思いを言語化し、それを誰かと共有しながら見直していく。その積み重ねが、回復につながっていくのだと思う。
アルコールやギャンブルではなく、言葉を手がかりに自分の内面に向き合うこと。
その過程を支える場として、病院でありたいと考えている。
