1.依存症ってどう感じますか?
看護師になるためには精神科領域も、当然、学習しました。私たちは「医療従事者」で専門家ですよね。その専門家として、依存症をどう感じますか?
みなさんが思い浮かべる代表的な依存症は「アルコール」「薬物」「ギャンブル」とか、あとはインターネットやゲームといったところでしょうか。どれも「やりすぎた」「使いすぎた」「やめられないのは弱さから」など、依存症までに至ったことをネガティブに思ってしまう人も少なくないのでは? と思います。世間一般の風潮としてもよいイメージはないですもんね。
芸能人の薬物使用やアルコール多飲状態での淫行や迷惑行為、ニュースで取り上げられるものは、事件性を伴っていますから、みなさんも同じように感じるのは当然なのでしょう。
実際に精神科で働いている看護師もみなさんと同じです。でも、患者さんとのかかわりを通して「変化」していくスタッフもいます。そんな場面を伝えることで、この領域にも興味を持ってもらえたら幸いです。
2.アルコール依存症の患者さんとのかかわりでの変化
入院治療を余儀なくされているアルコール依存症の患者さんには、「いろいろな人に迷惑をかけた。嫌なことやつらいことがあると飲んでしまうけど、本当はよくないことだ」と、過去の自分を振り返ったときに、そう話せている人も少なくありません。治療にも必要とされていることですが、患者本人が「アルコールをやめたい」と思っていることも多々あります。
その発言を聞いて、これを読んでくれている人のなかでも「そう言いながら飲んじゃうんでしょ? どうせやめられないんでしょ?」って、思う人は多分いるだろうなと思います。それが現実だと思います。もちろん、うちのスタッフも同じように感じていましたが、徐々に変わるスタッフもいます。
退院に向けた外泊訓練のことです。外泊中のスケジュールを立てて、必要なお金や持っていくものも調整して、外泊中はアルコール依存症の人が活用できる支援団体への参加など、担当スタッフと患者さんでしっかり準備しました。
さて、外泊に出る当日です。担当スタッフは笑顔で送り出し、「無理しないでね。つらくなったら電話かけてきてもいいし、予定より早く帰ってくることもできるよ。まずは病棟に電話するのよ!」と、SOSを出してよいことも説明ずみです。そして、帰院予定の日時がきました。が、帰院が遅延するとの連絡もなく、帰ってきません。こんなときは病棟中がハラハラ、ドキドキと落ち着かなくなります。そう、みんな心配になります。
本人の携帯に電話しても出ない。家族に連絡したりとできる限りの捜索をします。それでも所在がわからない。警察に届けが必要なんだろうかと思っている矢先に、やっと本人と電話がつながりました。「どうしたの? 何をしているの?」とスタッフは優しく声をかけます。「外泊して、何もかもどうでもよくなって、お酒飲んで寝ていました」と話してくれました。
安全に帰院してもらうことが優先なので、「そっか。でも電話に出れたね。飲んだことも言えたね。自力で帰ってこれるかな? 待ってるよ!」と話します。そして、無事に患者さんは帰院できました。この患者さんは、同じように外出や外泊時に何度か飲酒をして帰院することを繰り返しました。それでも、その都度、振り返り、次どうするかを考えて、また訓練しつつ、退院後の生活環境で必要な社会資源を調整して、無事に退院しました。
後日、この患者さんを受け持っていたスタッフから貴重な経験談を聞くことができました。
「患者さんといっしょにがんばって準備しても、スリップ(依存してるものを使用したことを指します)されると、『何やってんの? もうお酒はやめたいって言ってたじゃん。なんで飲んできちゃうわけ?』って本気でイライラしました。やめたいって言ってもやめられないじゃんって!」
そう、このときのスタッフは、みずから「お酒は飲まない」と「約束」したことを守られなかったことでつらかったんですよね。外泊中の時間は「飲まない生活」を過ごせるのを目標に準備をしてきたから。そして医師がスリップした患者さんと面談しているときに、「飲んでしまうことが病気の症状だから、飲んだことが言えることが大事だし、戻ってきてくれてありがとう」と言えることが、自分には理解ができなかったと話してくれました。
そして、スタッフは自分に変化が起きてきたことも話してくれました。「繰り返しスリップして、またか……と落胆もしたけれど、気が付いたんですよね」と。「どんなことに気がつけたの?」と聞くと、「アルコール依存症の治療のゴールは【飲まない】ことだと思っていたのが違ったんです」と笑顔で話してくれました。
「飲んでしまったことが問題ではなかった。飲んでしまっても、その後向き合えて、日常生活が破綻しないで過ごすことができるようになることが目標だったんです。そこに気がついたら、先生が言っていたことも腑に落ちたんです!」と、生き生きと輝く瞳で話してくれた姿に、私もうれしくなりました。
「看護師としての成長が実感できたんだね。よい経験ができたね」と伝えると嬉しそうにしていました。
3.看護の本質と楽しさ!
この事例は精神科ならではのことかもしれません。でも、特別なことではないと思います。私たち看護師は「看護」の専門家ですが、患者さんとのかかわりから学ぶことも多くあって、その経験を重ねることでケアの質も高まっていきます。患者さんから学ばせてもらっているのは、学生時代の実習だけではないのですよね。患者さんとのかかわりで得られたことを実感できたときって、看護の楽しさを感じますよね。
私は管理者の立場になってから精神科に従事しています。若いときから?(今も気持ちは若いです!)診療科にこだわりがなく、部署異動も楽しい!と思える人間だったので、8診療科くらい転々と経験してきました。
その経験のなかで考えると、糖尿病の患者さんが暴飲暴食をやめられない、喘息の患者さんがたばこをやめられない、だけど、繰り返し指導して、ご本人にも自身を振り返ってもらって、日常生活が苦痛なく過ごせるように、病気が進行しないようにとケア介入をしたことがあります。
そして、再入院までの期間が長くなってきたり、禁煙に成功したりと患者さんが目標に達成すると、そのことが喜びに思えました。このアルコール依存症の患者さんを通じてスタッフが経験したことの本質は同じと思いませんか?
看護の楽しさは精神科でもたっぷり味わえますよ!
昭和大学附属烏山病院 師長。昭和大学附属病院に看護補助員で入職し、働きながら通学した。師長は7年目である。趣味は楽器演奏だがコロナ禍でお休み中。新しく始めたハワイアンキルトにすっかりハマり老後の仕事に繋がらなかなぁと夢見ている。