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1.依存症との出会い

私が依存症について考えるようになったのは、初期臨床研修を終えて、精神科に入局してからが初めてでした。それまでに医学部6年間、初期臨床研修2年間もあったわけですが、依存症について勉強する機会はほとんどありませんでした(私が授業を聞いていなかっただけかもしれませんが……)。

現在でこそ、精神科医として、依存症患者さんやその支援者さんの話を聞く機会が増え、依存症について思うところがいろいろありますが、まずは以前まだ私が初期臨床研修医で予備知識をほとんど持たない状態でアルコール依存症患者さんに出会ったときの話をしたいと思います。

2.特殊な人の治療がうまくいった! 万歳!

初期臨床研修医として総合病院の消化器内科で研修していたときに、アルコール依存症をきっかけに劇症肝炎を起こした患者さんが入院してこられました。

入院当初は、針を指したところの血が止まらず、会話もままならないほどの非常に重篤な状態でした。当時の私は「なんでこんなになるまで飲んだのだろう」と疑問でしたが、「まぁ、そういう特殊な人なのだろう」と勝手に納得していました。その人は治療が功を奏して、最終的には笑顔で歩行練習をする姿も見られるほどに回復しました。

当時の私は、「この患者さんは見違えるほどよくなったな! やれやれ、これでいっちょ上がり!」といった晴れ晴れとした気分でしたが(私がしたのは採血くらいで、実際に治療したのは指導医や消化器内科の看護師さんたちなのですが 笑)、「この人は退院した後、どうなるのだろう?」といった疑問すら、当時の私は持ちませんでした。

3.特殊な人じゃない?

さてその後、精神科に入局して1年目から、私はたくさんの依存症患者さんに出会うことになりました。もちろん精神科では劇症肝炎の治療など行えず、依存症患者さんの生活とその人の持つ依存症の問題自体が治療対象になります。依存対象もアルコールに限らず処方薬、覚醒剤などさまざまでした。

研修医のときは、自分たちとは異なる「特殊な人」という印象だった依存症患者さんでしたが、たいへんな苦労をされて生きてきた人や、お話上手でとてもおもしろく「友だちになれそう」と感じる人など、その素顔はさまざまでした。

多くの患者さんで感じることは、「生きていくのに必要だったからその依存対象を使うようになった」というだけで、よい意味でただの「普通の人」だということでした。そこでようやく、私は「研修医のときに会ったあの患者さんは、どうしてアルコールに依存するようになったのだろう」「体がよくなったあと、どんな生活を送っているのだろう」「依存症の治療も行わないと、また繰り返すのでは?」などと考えるようになりました。

4.身体の治療が終わった、そのあとを知りたい

今回は身体科の看護師さんや普段、依存症患者さんに接することのない看護師さんに向けての文章を、ということでお話をいただいたのですが、私はまだ知識や経験が浅く、お伝えできることは多くはありません。ただいったん身体科で回復した患者さんの、その後の人生そのものにかかわれる依存症治療はとてもおもしろいし、重要なことだなと感じていることを、お伝えしておきたいと思います。

病院内だけで完結するものでもなく、地域のAA(アルコホーリクス・アノニマス/アルコール依存症のセルフヘルプグループ)や支援者さんなどさまざまな人とかかわりながら、みなで1つの目標を目指していくのは依存症治療ならではの体験でした。経験の浅い医療者としては、「自分一人でこの人をよくしてあげるんだ!」などと気負わなくてもよい点も、なにげに安心できる点の一つだったりします。

今後も、依存症治療を通して、さまざまな人の話を聞いてみたいと思っています。

プロフィール:岩見有里子
昭和大学附属烏山病院 精神科 医師。


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