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みなさんが依存症患者に出会うのはどういうときでしょうか? 内科の外来でアルコール依存症患者に会うときでしょうか? TVのなかで薬物依存の芸能人を見るときでしょうか? 実際には治療が必要なアルコール依存症患者は100万人、ギャンブル障害患者は300万人いるといわれていることや、ゲーム依存・ネット依存の広がりを考えると、実はみなさんの親族やお友だちのなかにも、何らかの依存症を抱えている人がいるほうが普通なのだと思います。

ただ多くの依存症者はそれを隠します。だってあなたに言うことであなたから軽蔑されたくないですし、関係性が変わって哀れまれるのも嫌ですから。何より、あなたに伝えたら、自分自身で自分は依存症であることを認めなくてはいけません。

もしあなたが、「依存症なら早く回復すればよいじゃない!」と思えるなら、あなたは立派な依存症の治療者だと思います。でもみんなはあなたがそれだけ素晴らしい治療者であることを知りません。だから非常に親しくても気がつかないことも多々あります。「まさかあの人が!」というやつです。

1.依存症者との出会い3つのパターン

依存症外来をやっていると、日々多くの依存症者と出会うのですが、彼らとの出会いは大きく分けて3つに分けられます。

一つは、自分で「僕は依存症かも知れない」と言って来院してくれるケース。最初から治療が目的になっているので、当院で行っているグループ療法の内容(詳しくは前回#004をご参照ください)を説明し、自助グループへの参加を強く勧め、その場で自助グループの参加者と電話して誘ってもらいます。眠れないから、不安だから、ストレスへ対処できなくて、など、依存対象を使っていると、はっきりしているときにはそれに対する薬物療法も行います。

もう一つは、家族に無理やり連れてこられるパターンです。たまたま月に1回しかない素面(しらふ)のときに、家族みんなで連れてきたが、次回は来られないことが予測されたり、来た段階で泥酔していたり、うつ状態が強すぎて何も判断できないという人もいます。その場合は、一時的に入院を考えます。入院して、ある程度の期間、依存対象から物理的に距離をとってもらってから、今後の治療について考えます。

最後は、統合失調症やうつ病、不安障害など、そのほかの精神疾患で入院していたと思ったら、実は背後に依存症が隠れていた、というパターンです。依存症は、生きにくさを抱えている人が自己治療として生きていくために使用し続けるという側面があるので、当然、生きにくい人たち、精神・身体疾患を抱えている人のほうが依存症の併存率は高くなります。

2.本当に困ったときに病院を思い出してくれれば、きっと役に立てる

後ろの2つのパターンでは、入院中から依存症についての院内の勉強会に出てもらうとともに、院外の自助グループに参加してもらいながら退院後の生活について考えてもらいます。最近はオンライン自助グループも盛んです。

外出訓練中にも再飲酒や薬物の再使用、再ギャンブルなどなども多いですが、それは症状なので、症状が出たことを怒ることや、それが原因での退院はありえないことで、症状が出たときにどういう対処法がよいかを、いっしょに考えてトライ&エラーを繰り返します。だいたいみんな、数回はエラーします。10年、片頭痛に困っている人に、自分で片頭痛をなくすトライをしろ、という話なので、普通はトライし尽くしています。

この時点で最も大切なことは、病院は飲酒・薬物再使用・再ギャンブルなどなど、依存対象を再度使ってしまっても、正直に話しても、誰もがっかりしないし怒らないし見捨てないし、自分の努力を無視しない、と感じてもらうことと、自助グループへ通う習慣づけになります。

それらをしながら、退院後は当院のプログラムを利用したり、自助グループ・デイケア・作業所を利用したり、訪問看護・ヘルパーなどの導入も考えます。人によっては生活保護を申請することもあります。

家族が何とか助けているというケースでは、むしろ家族との共倒れを防ぐためや、本人が自身の行動を自身で責任を持ってもらうために、家族から自立して生活してもらうこともあります。これらについて関係者全員を集めて話し合います。

おもしろいのは、最初から自分で治療したいと言ってくる人と、周囲からの圧力だったり、他疾患で入院していただったりで、半強制的に治療を始めた人たちの治療継続率が、ほとんど変わらないことです。どちらも突然外来に来なくなったと思ったら、数か月後にふらっと来たりします。

まあでもそれでいいんです。本当に困ったときに、極論は死ぬ前に病院を思い出してくれて死ぬ前に挨拶によってくれれば、きっと僕らは役に立つことができる……はず……なのですから。

プロフィール:常岡俊昭
昭和大学附属烏山病院 精神科医師。昭和大学医学部卒業後、現在の病院に勤務。依存症治療の楽しさを知り、依存症治療にハマる。趣味は旅行で2015年には一年間バックパッカーをしていた。
書籍:僕らのアディクション治療法:楽しく軌道に乗れたお勧めの方法:星和書店,2019


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