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1 はじめに

私は現在、精神科単科の病院に勤めています。以前は救急、急性期の外科病棟を経験し精神科では3年目となります。精神科での経験はこれまでにない驚きの発見や考えさせられることが多く、日々、やりがいと成長を感じています。

当院ではアルコール、ギャンブル、薬物などの依存症治療のための入院が約2割を占めています。入院までの経緯も、泥酔状態でトラブルを起こし警察に捕まり治療が必要と判断されての入院や、多額の借金をつくり見兼ねた家族が病院へ相談し入院となることや、特定の薬物の乱用で身体的な治療を行って転院してくるなどさまざまなケースがあります。

どの患者さんもみずからの意思で入院をすることは少なく、「私は困っていない」「病気ではないから入院の必要はない」など病識が乏しい患者さんが多いのが現状です。

2 治療の妨げ

医師や看護師の情報収集のなかで、壮絶な生活背景や家庭環境がみえてくるときがあります。私たちは初期の段階でそれらの情報収集を行うわけですが、患者さんに対し、ある特定の偏った見方をしてしまうケースがよくあります。

とくにアルコール依存症の患者さんでは、こんなに体がボロボロになるまで飲酒を続け入退院を繰り返しているのに、なぜ飲酒を止めることができないのか、なぜ家族に迷惑をかけてしまうのか、そしてなぜ多くの嘘をつくのかと、脳の病気だと認識していても、患者さんに対しての陰性感情がふつふつと湧き上がることがあります。

そんな思いのなか、業務にあたると、どこかで反省の言葉を聞きたかったり話の語尾が強くなったりと、看護師としての向き合い方もどこかずれてしまうことがあります。そんな状況に患者さんは心を開くことはなく、私たちの対応やちょっとした言葉に敏感に反応します。「ここの病院は何もしてくれない」「対応が悪い」など怒鳴り散らし、患者さんも看護師のあら探しを始め、信頼関係の構築など程遠いものになってしまいます。
このような状態が続いてしまっては看護師失格です。固定観念に縛られ結論ばかりを急ぎ患者さんの話を聞かないことは、依存症治療の妨げにしかなりません。

3 アルコール依存症患者さんと自分の成長

この数年間、依存症の研修参加や自助グループのスタッフ、利用者の声を聞かせていただく機会が増え、少しずつこの偏った見方も変わってきたように思います。

アルコール依存症の患者さんは、本人がお酒をどれだけ飲んだかを把握していることが少なく、飲酒問題を否定することが多く「否認の病」とよばれたり、家庭や職場での人間関係を上手に築けずそのストレス回避が飲酒となり、周囲の人々との良好な関係を崩してしまう「関係性の病」ともいわれています。そういった生きにくい環境で病院は一つの休息場所、リセットをする場であってほしいと私は考えています。

しかし患者さんにとって閉鎖病棟の中での入院生活はストレスがたまるもので、思いもよらない形で発散されることがあります。

以前、退院間近の患者さんが外出をして戻ってきたと思いきや、顔はよい感じに赤面しアルコール臭をまき散らし帰ってくることがありました。驚いた私はお酒を飲んだのかと当然問いかけました。それに対して患者さんからは、「スーパーのおねーちゃんに試飲を頼まれて、しょうがなく飲んじゃったよ」と思わぬ返答が返ってきて、私は思わず吹き出してしまいました。

理由はどうあれ、飲酒要求を抑えられなかったことは問題ではありましたが、そのまま離院せず、自分が治療する環境にまた戻って来ることができたことに私は喜びを感じました。それも一つの彼なりの成長であり、長い人生のなかでのステップなのかと感じています。

4 ギャンブル依存症の患者さん

また、ギャンブル依存症の患者さんでは少なからず金銭的な問題を抱えていることが多く、友人や家族、消費者金融などから借金を繰り返すケースがあります。ギャンブル依存症もネット依存と同様、脳の報酬系に変化を起こす脳の病気として話は有名ですが、育児ができなくなったり、うつ症状が出たりと、連鎖的に大きな問題となりやすく、社会生活が破たんしていきます。

多くの患者さんは借金が高額であることから、早く返済をしなければと、家族とともに返済を中心に考えてしまいます。しかし、ギャンブルをやめられない原因に注目をすることが、看護としても大切な視点となります。

以前、ネットガジノで数千万の借金をつくり、その借金返済によるストレスから、みずから死を選ぼうとした患者さんが入院してきました。入院中は将来に対しての不安が強く、早く働かなければまた取り立てが来て家族に迷惑がかかると、返済のことだけをつねに考えていました。入院中、GA(ギャンブラーズ・アノマニス/ギャンブル依存の自助グループ)のスタッフと面談をし、依存症のプログラムに参加をしていましたが、依存症につながる原因がつかめない状態でした。

ある日、彼が新卒で働いていたころの話が一つのきっかけとなりました。彼の働いていた職場は、上司が週末になると多くの後輩を連れ、仕事の愚痴や悩みを聞くために居酒屋やキャバクラによく連れて行ってくれたそうです。そのときの支払いはすべて上司が行っていました。自分も上司の立場になったとき、部下たちに同じことをするのが当たり前であるという認識でした。
家計が切迫している状態でも後輩を飲みに連れて行き多額の支払いを続けたことで、やがては借金となり、ネットカジノなどのギャンブルの回数を増やすきっかけの一つとなっていました。その本質の部分をいっしょに考えることで、彼の依存症の治療の第一歩が始まったのかなと考えさせられる出来事でした。

今では定期的に外来に通い、ギャンブルとの距離をとることができているとのうれしい報告を受け、私の成功体験の一つとなっています。

5 最後に

限られた入院期間の時間のなかで、依存症の患者さんにかかわる時間はごくわずかしかありません。長く習慣化した嗜癖行動をコントロールすることや過度な指導などは、患者さんのストレスにしかなりません。入院を通してかかわりを多くつくり、少しの変化や成長を評価、フィードバックし続けることが、患者さんにとって大きな一歩となることがあります。

患者さんは長期に渡り、挫折と成功体験を繰り返し病気と向き合っています。みずからをコントロールできる力を身につけていくことを、私たちは長期にわたり見守ることを大切していきたいと考えます。

プロフィール:佐藤俊介
昭和大学附属烏山病院 看護師

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