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1 依存症は得意ではなかった……

依存症の患者さんの私のなかのイメージは、他罰的、攻撃的、自己中心的で、かかわろうとすると否認され、ときには暴言を吐く、周囲を振り回す、周りに迷惑をかけても気にも留めない人で、もう面倒、かかわりたくない、理解できない、苦手、避けられるなら避けたいと思っていました。

そんな私が今の病棟に配属され2年目になりますが、依存症の患者さんが多数入院している病棟です。異動したときは、「うわー、依存症は苦手なのに」と陰性感情を抱いたことを覚えています。しかし、看護師としてかかわる以上は向き合っていくしかありません。

2 患者さんの突然の変化にとまどうけれど、チームがサポートしてくれる

ある患者さんは明らかにアルコール臭がするのに、持参したペットボトルにアルコールが入っているのがばれているのに、「飲んでいません、私が悪いですか」と泣きながらにらみつけ再飲酒したことを認めませんでした。普段は真面目で院内の治療プログラムにも積極的に参加する、優等生のような発言しか聞いたことがない患者さんでした。

その患者さんが初めて感情的になった姿を見て、最初は驚き、おじけづき、引いてしまいそうになりましたが、今が患者さんの奥底にある思いに近づけるチャンスなのでは、むしろ介入しなくてはと思い直しました。しかし、どうかかわればよいのか戸惑いました。そのときの私ができたのは、否認する言葉を受け止め、大声で嗚咽する患者さんの背中をさすり、時間を共有することでした。

落ち着くと、患者さんは「ありがとう」と足早に去っていきました。きっとあのときの患者さんはストレスや怒り、寂しさ、不安、孤独感など何かしらの理由があって、解消するために飲酒してしまい、自責感から泣いていたのだろうと思います。しかし結局、患者さんから飲酒した理由は聞くことができませんでした。

なぜ飲酒したのか話せるようになることも治療の一歩だと言われています。あのときの患者さんは理由を話してくれなかったな、私の対応間違ったかな、でもアルコール依存症は「否認の病」といわれるぐらいで時間もかかるかなと、自分の対応に自信が持てず不安になることもありました。そんなとき、医師やチームの看護師に相談すると、親身になって今後どのようにかかわっていくかいっしょに考えてくれるので、一人で抱え込まなくていいのだと気持ちが楽になったのを覚えています。

3 1人で乗り越えられないから、だから自助グループが必要

私は普段、仕事が終わって家に着いて、疲れを癒すために缶チューハイ350mLのレモンサワー1缶を飲むのが至福の楽しみです。飲む理由はアルコール依存症の患者さんと同じだと思います。

しかし、アルコール依存症は脳の病気で、生活の優先順位がアルコールになり、生活が破綻、最悪の場合、死に至る病気です。患者さんは一生断酒して生活しなければいけないのですが、周りを見渡せばアルコールが販売され、周囲からの飲み会の誘いなど誘惑がたくさんあり、とても過酷な病気だと思います。
そんな過酷な状況で生きる患者さんをサポートするのが自助グループです。

私が思っていた以上に自助グループは身近に多数あり、アルコール、薬物、ギャンブルなどもあります。最近はコロナ禍による影響でオンライン自助グループが開催され、患者さんはスマートフォンで参加しています。

ある患者さんはコミュニケーションが苦手で、人との交流がなく、いつも一人で過ごしていました。そんな患者さんがある日、オンライングループAA(アルコホーリクス・アノマンス/アルコール依存症の自助グループ)に参加するようになりました。
なぜ参加するようになったのか理由を聞くと、「ほかの患者さんから、オンラインに参加する時間だけでもお酒を飲まなくて済むから参加しようと誘われたから」と話してくれました。以前にアルコールプログラムに参加したときも「今日は飲まずにいられました」と話していました。
アルコール依存症の患者さんは、毎日、手を伸ばせば飲める、すぐ隣にあるアルコールの誘惑と戦っています。確かにこんな過酷な状況を一人では乗り越えられないだろうな。依存症って辛いな。だからこそ自助グループが必要だということを学びました。そんな過酷な病気と一生つきあっていく患者さんに、看護師として微力ながら私に何ができるのか考えましたが、答えが出ません。いまだに模索中です。

ただ依存症の患者さんに対する苦手意識はなくなりました。なぜかと考えたら、以前は向き合うことができず患者さんへの理解が欠如していたからだと思います。だから患者さんと向き合って必要とされることを感じ取り、援助できるようになりたいと思います。

プロフィール:大久保いくえ
昭和大学附属烏山病院 看護師

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