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1 はじめに

精神科に入局し2年3か月と、精神科医としてはまだまだ未熟者ではございますが、そんな私が今回お伝えしたいことは、
「治すぞ!と意気込むのではなく、まずは彼ら彼女ら(依存症患者さん)から学ぼう」
です。「治療、概念、社会的支援について書け~!」と叱責されるかもしれませんが、それらは経験豊富な方々にゆだね、若手でいられる今だからこそ感じていることを“失敗談をベース”にお話しいたします。

2 病棟での苦い経験

「何でもかんでもアルコールとつなげないでください」
「入院中、酒は飲んでいないだろう!入院させやがって!警察ですか、あなたは」
「俺は病気じゃない!余計な心配するな!」
「アルコールを飲まないなんて絶対にできない。別に飲んでも自己責任。余計なお世話」
「別にお酒飲まないので退院します。あなたに私の何がわかる?上を出せ!!」
 恥ずかしながら、これまで担当したアルコール依存症の患者さんから突きつけられた言葉です。決して「アルコール依存症の患者さんは怖い!やばいやつ!」と言いたいのではありません。
これらの背景は、医師として未熟な自分の不勉強さのみならず、中途半端に経験を積んだゆえに生じた、傲慢さが患者さんに伝わったのでしょう……。しかし、お叱りを受けるうちにある違和感が芽生えました。
「あれ? この人は苦しんでいるのかな? 何かに焦っているのかな? 孤独なのかな?それをぶつけているのかな?」と。

3 机上の知識と臨床の経験

精神科ルーキーである私の「依存症」の認識は、
「自己肯定感の低さや心の葛藤」→「好きなことなどで解消する」→「好きの延長線から脱し、その行為自体が目的となり依存する」→「身体的・社会的影響が出る」→「さらに自己肯定感の低下や心の葛藤が増大」→「依存行為を繰り返す」→「さらに身体的・社会的影響が増す」
とってもザックリですが、負のスパイラルという認識です。
こうしてみると、「断酒だ! 節酒だ!」と唱える前に、「彼ら彼女らの持つ自己肯定感の低さや心の葛藤に寄り添ってあげればいいのでは?」という考える人も多いのではないでしょうか。
しかし、実際の自分の臨床を振り返ってみると……
「どうしてアルコールを飲むの?」「どうして薬物使用したの?」「何がつらかったの?」などと、相手のテリトリーに土足で踏み込み、彼ら彼女らの「自己肯定感の低さや心の葛藤」をかき乱していたのではと思います。そして意外な落とし穴として、「治してやるぞ!!」という姿勢は、ときにパターナリズム化してしまうこともあります。その結果、相手に不快な思いをさせていたのではないかと、反省しています。

4 新米精神科医としての考え

これまでの反省を通して、私なりに考えたことは、
「ありのままを受け入れて、根気よく、適度な距離で接する」
ことです。

「ありのままを受け入れる」
→彼ら彼女らが抱えるさまざまなバックグラウンド。それを話したい人、話したくない人。暮らしに支障が出て悩んでいる人、体に支障が出てしまった人……。
バラエティーに富んだ彼ら彼女らを、「依存症」としてではなく、「その人、一個人」として接すること。

「根気よく」
→「もう使用しません! やりません!」と考える人から、「いやいや受診した。やめる気はない。減らしてもいいけど~」と、意志も人それぞれです。そんな彼ら彼女らのペースを尊重して根気よく接すること。

「適度な距離で接する」
→「なんでこの間、受診しなかったんだ!」「使わないって約束したでしょう!」などと過干渉になりすぎず、受診が途絶えてしまった人には、「久しぶり~。おかえり~」と、お酒など使用してしまった人には「教えてくれてありがと~」と言えるくらいの距離感で接すること。

5 依存症の勉強会にて

これまでいろいろと述べてきましたが、「言うは易く行うは難し」であり、先に述べたことを実際に行うのは、なかなかむずかしいことです。
そんなときに私は、ある人たちのことを思い出しています。
それは、「依存症プログラム」に参加していた人たちです。

「依存症プログラム」とは、依存症患者さんを集った勉強会です。
勉強会……。すごいところという印象を持つかもしれませんが、実際のところは「ヘイ!みんな元気かい?」と顔を合わせ安心し、ラフに意見を言うような会です。

私がその勉強会の司会進行を何度か経験してきたなかで感じたことは、「みんなそれぞれ自分と向き合って生きているんだな」「みんな自分の人生を必死に生きているんだな」ということです。
普通に生きていくなかで、何かに頼ってしまうことはありますよね?
そのなかでたまたま病的になったのが“彼ら彼女ら”です。
不器用ながらも自分自身や自分の人生と向き合う彼ら彼女らから、学ぶことは非常に多いです。
指導的に振る舞うこともときには必要となりますが、同じ目線に立ち、「素の自分を出す」くらいのやり取りで話を引き出すことは、とてもおもしろいものです。

6 最後に

「治すぞ!と意気込むのではなく、まずは彼ら彼女ら(依存症患者さん)から学ぼう」。
バラエティー豊かで波乱万丈な人生を送ってきた彼ら彼女らだからこそ、学ぶことは多いと思います。最初の一歩は「治すぞ!」よりも「一人一人と向き合う」ことから始めてみるのも悪くないかと思います。
波瀾万丈な彼ら彼女らの生き方に耳を傾けると、なかなかおもしろい価値観や人生観に触れられるので、魅力的ですよ!

プロフィール:花田 智貴
昭和大学横浜市北部病院 精神神経科 医師

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