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1.大好きな自助グループ

突然ですが、私は自助グループが好きです。自助グループとは生きにくさを持つ人同士がお互いに励まし合いながら、支えあって乗り越えていきます。評価も非難もしない「言いっぱなし、聞きっぱなし」で、それぞれが話をします。コロナ禍でオンライン自助グループが始まり、どこからでも気軽に参加できるようになりました。ありがたいことに私もさまざまなグループにオンラインで参加させていただいています。

自助グループには多くの回復者がいます。自分と向き合い続け、自分の行動や感情をさらけ出し、壮絶な人生を語ってくれます。そうした姿を見ていると、私自身も困難に立ち向かう勇気が湧いてきます。素敵な回復者に出会え、勇気をもらえる自助グループが大好きなのです。

2.病棟からオンライン自助グループにつなげよう

コロナ禍で毎朝6:30から30分間オンラインで自助グループが開催されていることを教えてもらいました。私が勤務している急性期病棟では携帯電話の持ち込みは禁止されています。感染対策や治療上の理由で外出も制限されているため、オン・オフともに自助グループに参加することができません。

それでも依存症患者さんをつなげたいと思い、なにか方法はないか考えてみました。「そうだ! 私のタブレットを貸していっしょに参加してみよう!」と閃きました。患者さんの携帯電話を持ち込む訳ではないため、これはわれながらいいアイディアでした。早速、主治医に許可をもらい、いっしょに参加してみました。

患者さんの感想は「よくわかんない」でした。早朝だったので、私が夜勤の日(約4回/月)のみの参加です。自助グループの効果には残念ながら即効性はなく、実感するまでには回数を重ねることが必要といわれています。単独でも数回参加してもらいましたが、1回も発言しないまま退院してしまい、自助グループにもつながりませんでした。

入退院を繰り返している患者さんにも参加してもらいました。発言はいつも表面的で、「このまま断酒できますよ」と自信満々な方でした。経過が長くなり慢性期病棟に移動後、ほかのグループにも参加し、自助グループミーティングにおける12ステップも開始しました。次第に自助グループで発言するようになり、自分の感情を語り、「飲酒欲求があるんですよ」と認め、これまでは聞いたことがなかった家族への思いや子どものころの話をするようになりました。家族も依存症になる前に戻ったと喜び、本人も「12ステップを始めたからかな」と効果を実感していました。

別の患者さんは、「もっと参加して話が聞きたい。どうして自分の携帯を使って参加できないんですか?」と言ってきました。そこで患者さん自身の携帯電話で毎日参加できないかと病棟スタッフに提案しました。すると「逸脱が心配」「急性期で自助グループにつなぐ必要性があるのか。つなぐタイミングではない」「そもそも、なにをやっているのかわからない」など反対の意見が多数でした。

そして私物を使っていることにも「それはやりすぎではないか」「個人情報が漏れてしまう」との意見があり、オンライン自助グループさん自体も禁止となってしまいました。依存症治療には欠かせない自助グループ参加を病棟ルールが邪魔してきます。多数の反対意見を目の当たりにした私は心が折れてしまい、病棟から自助グループへつなげることを諦めてしまいました。

3.患者さんと私のもやもや

ある患者さんは急性期病棟から慢性期病棟へ移動後、自助グループに参加しながら今後の方向性を決めていくことになっていました。移動まで期間が空いてしまいしびれを切らした患者さんは、「自助グループに参加したいのになんでできないの? 今なにをしたらいいの? ほかの病棟ではオンラインでも参加できるのにどうしてこの病棟ではできないの?」といら立っていました。

お怒りはごもっともです。ほかの患者さんからも「今一人でいると悪いことばかり考えてしまう。先に進めない」と涙を溜めて言われました。私もモヤモヤです。そして、追い討ちをかける出来事がありました。

自助グループの情報提供だけをした患者さんが、退院したその日にスリップ(依存物質の再使用)をしたのです。「もうやめる。母ちゃんに捨てられる」と断酒を宣言しながら、「どうせすぐ飲むんだよ」と自信なさげに話していたこともあり、「スリップを失敗ととらえて凹んでいるのではないか。死んじゃったらどうしよう……」と妄想が広がり、後悔が押し寄せてきます。

入院中から自助グループにつながっていればスリップしても安全に話せる場があり、スリップも回復の過程であることを体験できたかもしれません。病棟からオンライン自助グループにつなげることを挫折した自分自身を責めました。モヤモヤが限界に達していたのでしょう、少人数の会議で、私は気づいたら「どうしてもオンライン自助グループに患者さんを参加させたい」と発言していたのです。自分でもびっくりです。

その場にいたスタッフから、「通信料が高額になるのでは?」「自助グループにつなげることだけだったら、自分たちはほかになにをするの?」「友だちとか家族に電話しちゃうんじゃない?」「なにかあったときに責任は誰がとるの?」など、以前と同じ反応です。心が折れそうになります。スリップした患者さんの顔が頭に浮かびました。「ちゃんと説明をすれば導入できる。あんな思いをさせてはいけない」と思い、私は体策を立てるので導入させてほしいと伝えました。

思い立ったら止まりません。その日のうちに病棟師長に相談しました。すると「あなたの熱意が十分伝わりましたよ。やる方向で準備しなさい。責任は私と医長がとります」と背中を押してくださり、多職種が集まるミーティングでプレゼンすることになりました。上司の言葉とスリップした患者さんが、挫けそうになっていた私を奮い立たせてくださいました。やる気満々で準備をはじめました。

4.正々堂々やってみよう

通信制限のある患者さんが電話をしてしまうことが、不安要素の一つでした。

そのため患者さんや家族に携帯電話またはタブレットを準備していただき、自助グループ参加時のみお渡しし、家族には主治医から、患者さんが電話をしてしまう可能性があることを、あらかじめ連絡しておく提案をしました。そして私自身が定期的に参加している自助グループの開催者に事情を説明し、「あきらかな逸脱があったら連絡してほしい」と伝えておきました。

その自助グループは毎朝6:30から7:00までの30分間開催されています。日時が固定されていることでスタッフも管理がしやすくなると考えました。スタッフが付き添う提案もありましたが、「自助グループは聞いた内容を外では話さないというルールがあります。そのルールが守られることで安全な環境が確保され、どんな内容でも話すことができます。スタッフが付き添うことで安全な環境が脅かされ、ほかの参加者にもご迷惑がかかることも予測されます。基本的には患者さんだけで参加していただきます」と説明をし、ご理解いただきました。

「ギガ問題」も、携帯代の支払い者が家族の場合は、主治医から家族へ料金が発生することを説明してもらうことにしました。

自助グループに参加し発言をすることで、自分の感情や生育歴、家族との葛藤などと向き合わなければいけません。入院中であれば、そのつらい過程を見守り励ますことも、医療者ができる支援の一つであると伝えました。患者さんへのオリエンテーション用紙も作成しました。

私は危機管理に欠けているため、これだけ準備しても不安でいっぱいです。いつも抜け道ばかり探しズルをしている私にとって、初めての正面突破です。協力してくれた方や、いつも勇気をくれる回復者の方たちの顔を思い浮かべ、多職種が集まるミーティングでプレゼンをしました。そして大きな反対もなく令和3年9月3日に無事導入が決定しました。正面突破、大成功です。

この経験から、私は自分が思い立ったらすぐ行動で、周囲への配慮を怠っていることに気づくことができました。そして病棟ルールの抜け道を探し、「患者さんのため」を盾に、スタッフの不安に向き合っていなかったのです。それではスタッフが反対するのは当然のことです。それを「誰もわかってくれない。私にはなにもできない」と勝手に拗ねて、勝手に挫折したのです。

治療上必要なこととはいえ、多くの制限がある患者さんに最適な治療環境を提供するためには、スタッフの意見を聞き、丁寧に説明することが必要だと学ばせていただきました。

5.感謝と夢

導入までには院内外のASK依存症予防教育アドバイザーに相談し、細かいアドバイスやプレゼン方法を教えていただきました。

導入後は自助グループに興味を持ち、「自分が参加しないと勧められない」と実際に参加してくれるスタッフもいました。今回の連載にも参加している木下隆盛看護師です。「赤裸々に話される内容に衝撃を受け、医療者として聞く話がベールに包まれ聞き出せていなかったことを痛感した」と、キラキラした目で感想を聞かせてくれました。今はいっしょに支援者ともつながり、依存症家族を家族会につなげてくれています。誰もわかってくれないと孤立し意固地になっていた私を救ってくれた仲間です。直接は恥ずかしくて伝えていませんが、尊敬と感謝の気持ちでいっぱいです。

依存症患者さんは孤独で、自己治癒として依存物質を使用します。自助グループに参加すると同じ感情を共有できる多くの仲間に出会い、孤独から解放され、依存物質からも距離を置くことができます。これは当事者ではない私にはできない支援です。なんだが孤独です。図々しい私はどうにか仲間に入れてもらえないかと自助グループに参加し続けています。名前を呼んでもらうだけで孤独から解放されるからです。

私の取り柄は「依存症患者さんの回復を信じること」だと思っています。これは、入院時は否認していた患者さんが、自助グループに参加し続けることで回復していく姿を見せてくれたからです。多くの回復者が仲間を救う姿を目の当たりにしたり、いっしょにイベントを企画・運営したりするかかわる機会に恵まれたからです。これらの機会を与えてくださったASK依存症予防教育アドバイザーでもある常岡先生と橘看護師に感謝しています。

そしていつも「自分のため」といって惜しみない支援をし続ける回復者の方を尊敬しています。支援者としてだけではなく、私が人間として目指す姿がそこにあります。いつか入院中にかかわった患者さんが回復者となり、支援者として仲間になる日を楽しみにしています。

プロフィール:塚越拓美
昭和大学附属烏山病院 看護師

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