▼バックナンバーを読む

1.アルコール病棟の思い出

精神科病院に勤務して25年が経ち、精神疾患の治療も薬剤も目まぐるしく進歩しました。とくにアルコール依存症の治療は、かなり変化した気がします。

当時は、アルコール病棟があり、どちらかというと、支援というよりも指示的で強制的な教育と管理をしていくイメージでした。患者さんの家族に対しても、家族がそんなんだから患者さんが呑んでしまうのだといった具合で、私はまったく興味がもてず、患者さんが好きでお酒を飲んで、勝手に逃げているのだから自業自得、という思いと、本人が治す気がないなら治療しても意味がないのでは、という思いを感じていました。

外来では、予約時間を過ぎて来院した患者さんが待合室で缶チューハイを呑んで酔っ払って、大声を上げることもしょっちゅう。「診療時間は終わりました。先生は病棟の仕事をしていますから、今日は診てくれないですよ」と伝えると、案の定、大暴れ。その状況を医師へ伝えますが、たいていは「薬は出してあるんだから、帰ってもらって」と取り合ってもらえず、どなる患者さんをなだめること、数時間……。このようなことが日常的でした。病棟でも、外泊して呑んで帰院してきた患者さんは強制退院となるケースが多く、こうした患者さんは、かなりの頻度でなぜか外来で大暴れするのです。

こうしたことからアルコール依存症の患者さんにはマイナスのイメージしかもてなくなっており、当時は、「なんで呑んだんですか」と、問い詰めることもあったと思います。患者さんたちの、止めたくても止められない思いに、少しでも寄り添うことができていたらと、今は反省しかありません。

2.時が経ち、診察室から聞こえる笑い声に驚き!

それから十数年が経ち、臨床から離れていましたが、再び外来勤務となりました。患者さんを「帰らせて」と言っていた先生は、といいますと、スリップしてしまった患者さんに「今日、病院へ来てくれてありがとうね。来週も待ってるから」といった感じで、アディクションへの治療に、思いっきりハマっていました。

かつての診察の仕方とは違い、時間をかけて患者さんの話に耳を傾け、寄り添う姿。なにより、診察室から笑い声や「ありがとうございました。先生に聴いてもらったらスッキリしたよ」という患者さんの声が聞こえてくるのです。「えー、この患者さん、こんなふうに先生にちゃんと話ができるんだ」「へー、この患者さん、治療にこんなに前向きなんだ」など、診察が気になって仕方がない私の姿がありました。

3.自助グループとつながることで治療に前向きに

以前から、外来に来る患者さんたちに自助グループを紹介していましたが、なかなか電話をする一歩を踏み出せなかったり、ご家族の方も「いやいや、本人さえ良くなれば、私たちはけっこう」といった返答も少なくありませんでした。であれば、初診当日につなげていこうと、SBIRTS(エスバーツ/#12参照)が誕生しました。

自助グループの方々や家族会の方々は、打ち合わせの場面でも、当事者とつながることの重要性を話してくださり、SBIRTSを気持ちよく引き受けてくれました。SBIRTS開始当初、ご家族も患者さんも電話する前には不信感があり、「先生はそういっていましたが、人前で話すのは苦手でして」と遠慮がちでした。しかし、いざ電話をして自助グループの方と話してみるとガラッと顔つきが変わり、ご家族のホッとしている様子や、「今日がんばって診察に来てよかったです」という言葉も聞かれるようになりました。外来スタッフも、初めは忙しい業務中に自助グループに連絡なんてたいへんなんじゃないか、という思いがありましたが、気持ちよくかかわりを深めていきました。

患者さんたちの抱えている背景はそれぞれ違いますが、つながることで前向きに治療と向き合っていく様子がわかりました。顔の表情も初診時とは明らかに変わっていき、なによりも、その表情を見ることができてうれしく思いました。

しかし、なかには、家族に付き添われ、ボロボロになって自分自身も失い、家族からも責められ、自分でも責めて、再入院となる患者さんも少なからずいます。以前なら「また呑んだのだから、こうなってもしょうがないでしょう」と思っていましたが、今は「ご家族に、病院へ連れて来てもらってよかったですね」と伝えている私がいます。どちらかといったら、ハマったさん? いやいや、そこまではまだ……、ですが、ハマってる人もそうじゃない人も、患者さんへの思いはブレることなく「よくなってほしい」ということ。だからこそ、患者さんを中心に、一体となって協力していきたいと思います。

4.急性期病棟でも「すべては患者さんのため!」は変わらない

現在は、急性期の病棟で勤務しています。入退院が多く、忙しい病棟では、限られた範囲での介入になっていますが、ゆっくり体調を整えてまた前向きに治療と向き合ってほしいという思いで、患者さんに寄り添っています。なかでも、病棟のハマったさんが中心となり、オンラインミーティングに参加できるようになりました。治療の幅を広げながら、現在も活躍しています。

依存症患者さんの個別制を考えていくなかで、急性期病棟の細かい規則や、ほかの患者さんたちとの調和を考えて進めていく必要もあり、簡単な道のりではありませんが、今後も、一歩一歩、「すべては患者さんのため!」に、急性期病棟でできることはなにかを皆で考えていければと思います。

プロフィール:眞野三奈子

▼バックナンバーを読む