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1.依存症ってどうかかわれば良いの?

私は大学在学中に精神保健福祉士(PSW)の資格を取得し、卒業後は急性期の精神科病院に精神科ソーシャルワーカーとして新卒で入職しました。その病院は依存症治療にあまり積極的ではなく、アルコール依存症の患者さんのみ受け入れていました。急性期病院だったため、患者さんは離脱症状が落ち着いたらすぐに退院してしまいます。入退院の回転がとにかく速くて、患者さんとじっくりかかわる時間はありませんでした。

院内では、PSWが患者さん向けに依存症の勉強会を開催していましたが、患者さんは退屈そうで、プログラム中にうたた寝したり意見を求めても誰も発言しないのが常でした。ましてや、退院後まで参加する患者さんはほとんどおらず、たまに退院したはずの患者さんを見かけると「あれ?この人また入院しているの?」といった始末。当時はアルコール依存症の患者さんに対して、「退院してもまたすぐに飲んで再入院する」という印象しかありませんでした。

そんな私が今の病院に勤務することとなり、配属されたのがアディクション専門医が担当する、依存症の患者さんが多く入院する病棟でした。正直、依存症の患者さんとはかかわる機会が少なかったこともあって、苦手意識を持っていました。私には無理だ……と憂鬱な気持ちになったのを覚えています。

2.コミュニケーションが回復への第一歩

実際に依存症の患者さんとかかわるようになると、毎日驚きの連続でした。面談をすれば「なんで、あなたに話す必要があるの?別に困っていませんから!」と何も聞かせてもらえず、カンファレンスを開催すれば、憔悴しきったご家族から涙ながらに「限界です」と訴えられる。そして、当の本人の患者さんは、家族の悲痛な叫びをよそに「もう大丈夫なので、また働こうと思っています」とのんきな返答。入院前の壮絶なエピソードの数々はすっかり抜け落ちてしまっています。

具体的にどう大丈夫なのか尋ねると「今は飲みたいという欲求がないし、病院では止められているから」と話し、中には気合でなんとかすると言う患者さんまでいるほど。気合いで何とかなるんだったら、今入院してないはずでは……?と、患者さんの楽天的な発言に驚くと同時に、入院中の患者さんはどうやって回復していくのだろう、と疑問を感じるようになりました。

当院では患者さんは入院後、アディクションのプログラムのほか、自助グループに参加します。自助グループは院内からオンラインで参加することもあれば、患者さんが複数で外出して直接参加することもあります。外出が難しい場合は回復者に来院してもらい、回復までの話や回復施設の紹介をしてもらうこともあります。こうした取り組みによって、患者さんは同じ依存症の仲間と交流したり、自助グループとの繋がりを深め「周りの話を聞いて、自分もこうしてみようと思った」など、少しずつ現実と向き合っていきます。そして退院してからの生活を考えるようになります。「生活のことはソーシャルワーカーさんに聞いたほうが良いっていうから」ということでPSWへの相談が増え、介入も多くなっていきます。

患者さんの話を聞いてみると、困り事がたくさん出てきます。ある患者さんは「一人暮らしを続けたいけど、寂しくなると飲んじゃって。でもせっかく見つけた家だから、手放したくない」と、ぽつりぽつり話してくれました。この患者さんにはどうすれば良いかを看護師さんと一緒に考え、結論としては寂しくならないように、暇な時間を作らないように、障害福祉サービスであるB型作業所に通うことになりました。入院中から体験に行き、問題なく通所できることを確認してから退院していきました。

3.患者さんだけでなく、ご家族にも支援が必要

依存症の患者さんのご家族からは「入院させてよかったのだろうか」という不安をよく聞きます。また、「暴れるのが怖くて、言われるがままに酒を買うお金を渡してしまう」「家に帰ってくると困るので、ずっと入院させてほしい」など、家族関係に問題を感じさせる発言もちらほらあります。そんなご家族に対して、今までは「大変な思いをされていたんですね」と同情して共感するのみで、具体的にどうすれば問題が解決できるかを伝えられずにいました。

しかし、ある時、カンファレンスで主治医が「今まで家族内で何とかしようと思っても解決できなかったから、今、患者が入院している。困ったときは家族だけで抱え込まず、この対応で良かったのか、どうすれば良いかを相談する相手を作ることが大事」という言葉を家族に伝え、家族会を案内していました。

病棟で働くうちに、患者さんが徐々に自分と向き合って変わっていく様子は何度も目にするようになりましたが、本当の回復のためにはご家族も一緒に変わっていく必要があると感じています。依存症は家族を巻き込む病気といいますが、私たち医療スタッフは患者さんだけでなく、家族への支援も行っていくべきだと実感した出来事でした。

4.PSWとして患者さんを支援し、回復を見守ることが喜びに

依存症にマイナスのイメージを持っている人は多いと思います。私もそうでした。しかし、患者さんにかかわってみるとそのイメージは全然違うと気づきました。今は医師や看護師、薬剤師、作業療法士など多職種のチームで、どうすれば患者さんが良くなるかを考え、支援し、回復を間近で見守れることに喜びを感じています。患者さんが退院して元気に外来に通院していることを知ると、本当に嬉しいです。

私はまだまだ未熟者で、患者さんやご家族から学ぶこともたくさんありますが、今後もPSWとして何ができるのかを考えながら、回復に向けて一歩踏み出そうとしている患者さんを応援していきたいと思います。

プロフィール:石山瑞穂
昭和大学附属烏山病院 精神保健福祉士

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