今回の事例



『入院してから気分が高揚した様子で、所かまわず一方的に話をするようになった』

30代男性。ネフローゼ症候群の治療目的で入院となった。入院後、プレドニゾロン(プレドニン®)1回30mg1日2回の投与を開始したところ、夜間不眠をみとめるようになった。ただし、本人に困った様子はなく、むしろ「気分がいい」と活き活きとした表情で話すなど、入院時より元気になったように見受けられた。その後、辻褄の合わない内容ではないものの、一日中、所かまわず一方的に話をするようになり、面会に来た母親に「あんた、そんなにしゃべってばかりで、いったいどうしたの?」などと、とがめられる場面もあった。やがて、突然カーテンを開けて隣の患者さんに話しかけ口論になるなど、病棟内でのトラブルが目立つようになってきた。なお、飲酒歴はない。



Q この患者さんで、考えられる疾患は次のうちどれか?



①せん妄
②ステロイド精神病
③発達障害





「解きかた」を解説します!




①せん妄を疑う場合

せん妄は、患者さんが示す運動症状によって、「過活動型せん妄」「低活動型せん妄」「混合型せん妄」の3つに分類されます。なかでも、過活動型せん妄では、「イライラして暴力的になる」「落ち着きがなく徘徊する」「夜中なのに荷物をまとめて家に帰ろうとする」といったエピソードがみられます。また、会話が一方的になったり、他人に対する過干渉がみられたりするケースもあることから、今回の事例では過活動型せん妄の可能性が考えられます。また、夜間不眠をみとめることも、せん妄を積極的に疑うポイントの一つと言えるでしょう。

観察ポイント 見逃し注意!

せん妄の代表的な準備因子は、「高齢」「認知症」「脳器質性疾患の既往」「せん妄の既往」「アルコール依存症」であり、これらを有する患者さんはせん妄ハイリスクとされています。ただし、本症例の患者さんはいずれにも該当しないため、そもそもせん妄のリスクはきわめて低いと考えられます。また、会話内容がまとまっていることや、症状に日内変動がみられないことなどから、せん妄は否定的です。さらに、飲酒歴がないため、アルコール離脱せん妄の可能性もありません。



②ステロイド精神病を疑う場合

ステロイドは、膠原病や血液疾患、腎疾患、呼吸器疾患など、幅広い疾患に対して使われますが、副作用として種々の精神症状をきたすことがあり、「ステロイド精神病」または「ステロイド誘発性精神障害」と呼ばれています。なかでも最も多いのは不眠で、ステロイドの投与開始当日からみられることもあるため、十分注意が必要です。次に、躁状態やうつ状態などの気分障害を認めることも多く、ステロイドの投与早期には躁状態が、長期投与後にはうつ状態がみられやすいとされています。そのほか、幻覚・妄想などの精神病症状だけでなく、特に高齢者ではせん妄が高頻度にみられます。今回の事例では、ステロイドを投与してから不眠に加えて気分の高揚などがみられており、ステロイドによる躁状態をみとめていることから、ステロイド精神病と考えられます。

観察ポイント 見逃し注意!

ステロイド精神病は用量依存性で、ステロイドの投与量が高用量になればなるほど、精神症状がみられやすくなります。なかでも、プレドニゾロンの投与量が40mgを超える場合は、精神症状を注意深くモニタリングする必要があります。



③発達障害を疑う場合

発達障害では、ASD(自閉症スペクトラム障害)とADHD(注意欠如・多動性障害)の2つが代表的です。ASDは、①社会性の障害、②コミュニケーションの障害、③想像力の障害といった3つの特徴があり、ADHDでは、①不注意、②多動性、③衝動性が中核症状です。これらの強い特性をもった人が入院すると、医療者などとうまくコミュニケーションがとれなかったり、TPOをわきまえることなく自分の気になることを一方的に話したりといったエピソードがみられることがあるため、本事例でも発達障害の可能性は十分考えられます。

観察ポイント 見逃し注意!

入院中にみられた「所かまわず一方的に話をする」というエピソードですが、母親の言葉を踏まえると、ふだんの本人からは考えにくいことがわかります。したがって、本事例では、発達障害の可能性は低いと言えるでしょう。




選択肢を検討した結果、答えは…



『YORi-SOU がんナーシング』2024年3号でご覧ください!




井上真一郎
新見公立大学 健康科学部 看護学科 教授




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2024年3号からの再掲載です。

YORi-SOU がんナーシング2024年3号

YORi-SOU がんナーシング2024年3号
【第1特集】
動画で患者指導ができる!
がん薬物療法のCVポート管理ビジュアルガイド


■Part 1 患者指導に使える! やさしく学べるCVポート
●01 CVポートとは? どんな役割がある? CVポートの基本Q&A

■Part 2 トラブルQ&Aつき CVポート手技実践ガイド
●02 CVポートの留置術とは?留置前→留置後の流れを解説
●03 写真で流れを確認!ポート留置後の管理・輸液投与とケアの手順
●04 こんなときはどうする? トラブルQ&A

■Part 3 患者さん・家族からよく聞かれる質問大集合! 自宅でのCVポート管理Q&A
●05 患者さんと一緒に学ぶ!自宅でポート針を抜くための手順解説

■Part 4 エビデンスを示して答えられるようになる! 新人・後輩からのQ&A
●06 臨床で生かせる! これが知りたいCVポートのケア

■Part 5 患者指導にそのまま渡せる! 動画つきDLシート集
●07 CVポートの留置を考え中の患者さん・ご家族へ
●08 ~CVポートを留置している患者さん・ご家族へ~生活の注意ポイント
●09 ~CVポートを留置している患者さん・ご家族へ~薬液注入中のCVポートを確認しましょう★1日2回★チェック表
●10 ~CVポートを留置している患者さん・ご家族へ~このような症状に注意が必要です!CVポートのトラブルチェック
●11 ~CVポートを留置している患者さん・ご家族へ~大切な家族の安心・安全のために抗がん薬治療中に注意するポイント
●12 ~CVポートを留置している患者さん・ご家族へ~動画をみながらおさらいしましょう!自宅でポート針を抜く方法


【第2特集】
QOLを上げるためのナースのかかわりかたを見つけよう、シェアしよう
高齢がん患者の治療選択


■Part 1 ツールの使いかた、コミュニケーションのヒントも!高齢がん患者の特徴を学び直し
●01 高齢がん患者と治療選択を取り巻く現状~ナースがぶつかる課題~
●02 高齢がん患者の生理学的特徴
●03 高齢がん患者のアセスメント~機能評価ツールの使いかた~

■Part 2 かかわりかたのヒントを見つける ふりかえり症例
●04 ふりかえり症例1
手術療法を選択せず、大腸ステント治療を選択した80代患者さん
●05 ふりかえり症例2
頭頸部がん術後の化学放射線療法の治療途中で入院された70代患者さん
●06 ふりかえり症例3
侵襲の高い手術療法を受けた80代患者さん
●07 ふりかえり症例4
がん薬物療法を治療中だったが、副作用(合併症)により治療中止となった80代患者さん

▼詳しくはこちらから