今回の事例



『入院中に幻視を訴え、抗精神病薬を投与したところ、翌日に眠気が強く残るなど過鎮静がみられた』

70 代男性。特に体調不良はなかったが、健診にて肺がんが判明したため、入院して抗がん薬が導入されることになった。入院当日、日中からしきりに部屋の壁を指し、訪室した看護師に「そこに大柄の男がいる」と訴えた。ただし、辻褄の合わない言動はみられず、付き添いの家族は「家でも同じようなことがある」と話すなど、気にする様子はみられなかった。看護師は幻視について主治医へ報告し、就寝前にリスペリドン(リスパダール®OD 錠)0.5mg が処方された。夜は眠れていたが、翌日になっても眠気が強く残り、昼過ぎまで起き上がることができなかった。なお、肝機能や腎機能に問題はない。また、抗がん薬は開始する前であり、投与中の薬もない。



Q この患者さんで、考えられる疾患は次のうちどれか?



①せん妄
②レビー小体型認知症
③アルツハイマー型認知症





「解きかた」を解説します!




①せん妄を疑う場合

せん妄では、多彩な症状をみとめます。なかでも、もっとも多いのは注意障害(ボーッとする)と睡眠覚醒リズム障害(夜眠れない/日中 ウトウトしてしまう)ですが、幻視(見えるはずのないものが見える)も約半数の患者さんにみられます。今回の事例では、明らかな幻視を みとめており、夜間不眠もみられることから、せん妄の可能性が十分考えられます。

観察ポイント 見逃し注意!

せん妄は、身体疾患や薬剤、手術などを直接的な原因として発症します。ただし、今回の事例ではそもそも体調不良はみられませんでした。また、唯一の投与薬であるリスパダール®が薬剤せん妄をひき起こしたとは考えにくく、さらには手術後でもありません。加えて、確かに幻視はみられたもののその症状に日内変動はなく、家族からの情報では家でも幻視はあったため急性発症でもないことから、せん妄は否定的です。



②レビー小体型認知症を疑う場合

レビー小体型認知症では、進行性の認知機能低下に加えて、認知機能の変動(ハッキリしているときとボーッとしているときがある)、繰り返し出現する具体的な幻視、パーキンソン症状(動きがゆっくりになる/手が震える/身体がかたい)など、特徴的な症状をみとめます。また、レビー小体型認知症の患者さんに抗精神病薬を投与すると、パーキンソン症状の悪化や過鎮静などの副作用がみられやすいことが知られています。特に、ハロペリドール(セレネース®)はレビー小体型認知症に禁忌となっているため、十分注意が必要です。今回の事例では、「繰り返し出現する具体的な幻視」をみとめています。また、そこまで鎮静作用は強くないはずのリスペリドン(抗精神病薬)が過鎮静を招いたことから、レビー小体型認知症と考えられます。

観察ポイント 見逃し注意!

レビー小体型認知症では幻視が特徴的ですが、「ハンガーにかかった服が人に見える」「ゴミが虫に見える」といった「錯視」もよくみられます。患者さんからの訴えだけでなく、その視線やしぐさなどから幻視・錯視に気づくことが大切です。



③アルツハイマー型認知症を疑う場合

認知症のなかでも、アルツハイマー型認知症はあまり幻視がみられません。せん妄とアルツハイマー型認知症の鑑別ポイントに「幻視」の有無が挙げられており、幻視があればせん妄の可能性が高いとされているくらいです。今回の事例では、明らかな幻視をみとめていることから、アルツハイマー型認知症の可能性は低いと考えられます。

観察ポイント 見逃し注意!

認知症のなかでも、アルツハイマー型認知症はあまり幻視がみられません。せん妄とアルツハイマー型認知症の鑑別ポイントに「幻視」の有無が挙げられており、幻視があればせん妄の可能性が高いとされているくらいです。今回の事例では、明らかな幻視をみとめていることから、アルツハイマー型認知症の可能性は低いと考えられます。




選択肢を検討した結果、答えは…



『YORi-SOU がんナーシング』2024年5号でご覧ください!




井上真一郎
新見公立大学 健康科学部 看護学科 教授




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2024年5号からの再掲載です。

YORi-SOU がんナーシング2024年5号

YORi-SOU がんナーシング2024年5号
【特集】
エビデンスで考えるがん患者さんの終末期ケア かかわりかたと症状マネジメント

■Part1 終末期ケアとおさえるべきポイント
●01 すべての医療はBSC(Best Supportive Care)なのでは?

■Part2 終末期の場面ごとの患者さん・家族とのかかわりかた
●02 エビデンスから実践に落とし込む がんの診断・告知
●03 エビデンスから実践に落とし込む がんの再発・進行
●04 エビデンスから実践に落とし込む 積極的治療の中止
●05 エビデンスから実践に落とし込む がん患者の最期の場の選択と患者さん・家族とのかかわり
●06 エビデンスから実践に落とし込む 鎮静
●07 エビデンスから実践に落とし込む 看取り
●08 エビデンスから実践に落とし込む グリーフケア

■Part3 終末期における症状マネジメント
●09 全身症状 がん終末期の「痛み」
●10 呼吸器症状 がん終末期の「呼吸困難」
●11 呼吸器症状 がん終末期の「咳嗽」
●12 消化器症状 がん終末期の「食欲不振」
●13 消化器症状 がん終末期の「悪心・嘔吐」
●14 消化器症状 がん終末期の「腹部膨満感」
●15 消化器症状 がん終末期の「便秘・下痢」
●16 精神症状 がん終末期の「せん妄」
●17 精神症状 がん終末期の「不安・抑うつ」
●18 精神症状 がん終末期の「不眠」
●19 皮膚症状 がん終末期の「褥瘡」
●20 全身症状 がん終末期の「倦怠感(がん関連倦怠感)」

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●21 痛み
●22 呼吸困難感
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