救急看護を追求したい熱意ある看護師に向けて、より深く信頼性の高い、ここでしか得られない実践的な知識をお届けする『Emer-Log(エマログ)』から毎号、特集の1つの項目をご紹介します。本特集の他の項目はぜひ本誌でご覧ください!




ヤバいかも!? CASE1
目に見える出血だけが出血じゃない!





20 歳代男性。ある冬の日の朝、マンションの1 階外廊下に倒れているところを住人に通報され、救急搬送された。患者はそのマンションの5 階の住人のようだが、転落したのかどうかはわからない。アルコール臭がしており、どうやらお酒は飲んでいたようだ。

【現場でのバイタルサイン】JCS Ⅰ -1、呼吸回数24 回/min、脈拍数126 回/min、血圧 測定エラー、SpO2 98%、瞳孔径 R3.0/L3.0mm、対光反射 R+/L+、体温36.4℃。明らかな四肢の変形や外傷はない。救急隊により全身固定、10L/min リザーバーマスクで酸素投与され、現場出発から15 分後に病院へ到着した。

【病院到着時のバイタルサイン】JCS Ⅰ -3、GCS E4V4M5/13 で不穏、呼吸回数29 回/min、SpO2 93%(10L/min)、心拍数:127 回/min、血圧69/40mmHg、手足は冷たくじっとりとしている。瞳孔径 R2.5/L2.5mm、対光反射 R+/L+、体温34.7℃。酸素投与を継続し、直ちに静脈路を確保して輸液投与を開始した。初回FAST は陰性であった。診療中に意識レベルがGCS E2V2M4/8 に低下したため、気管挿管、人工呼吸器管理された。

何を見てどう判断する? 最初の一歩はどう動く?




何を見てどう判断する?


■この意識障害は何のせい?


この患者さんに何が起きたのか誰にも確認できないので、まずは明らかにおかしい部分に着目していきます。この患者さんは、JCS Ⅰ -3、GCS E4V4M5/13 と、意識清明ではなく不穏状態です。この意識障害は何によって引き起こされているのでしょうか。意識障害の原因の鑑別として、AIUEOTIPS があります【表1】

このケースの場合は、お酒の臭いがしていたことから「アルコール」の可能性もありますし、冬の日の朝に外で倒れていたので「体温異常」もあるかもしれません。これらの意識障害の原因となるものがあるかどうかを、検査していきます。例えば、アルコールであれば血中エタノール濃度の測定、インスリンの血糖異常であれば血糖測定、電解質異常や尿毒症、薬物中毒などは採血や採尿で調べます。この意識障害の原因の1 つに、『ショック』があることに注目しましょう。

■ショック=血圧低下ではない


ではショックはどのように調べるのでしょうか。出血により体内をめぐる血液の量、つまり循環血液量が減った時に起こる変化を示します【図1】。私たちの身体は「少ない量でもなんとか重要な臓器にはきちんと酸素を届けよう」とします。身体に酸素を回すためには血圧を維持しなくてはなりません。




血圧を決める因子を分解してみてみましょう【図2】。出血により低下するのは血液量の部分です。血液量の低下があっても血圧を維持するためには、ほかの部分でカバーしなくてはなりません。そのため、血液量の低下した分を心拍数や末梢血管抵抗を上げて代償します。つまり、出血によって循環血液量が減少しても、血圧を保とうと心拍数を増やしたり、末梢血管抵抗を増やしたりするので、血圧が低下する前に頻脈や四肢冷感が起こります。ショックは確かに血圧低下が一つの指標にはなりますが、血圧が下がっていないからショックではないと考えるのはとても危険です!!

■数値で表示されなくても呼吸数を忘れないで!


循環が不安定になり、全身の細胞に酸素を届けることが難しくなると、細胞は酸素が足りなくてもエネルギーを作れるように、酸素を消費する好気性代謝から酸素を消費しない嫌気性代謝にチェンジします。嫌気性代謝によって酸が生成され、身体は代謝性アシドーシスとなって酸性に傾きます。

身体が酸性になるとバランスが崩れてしまうため、体内に溜まった酸を呼吸性に排出しようと呼吸が速くなります。頻呼吸はショックによって全身に酸素が回っていないサインかもしれません。血圧計やパルスオキシメーターのように数値で表示はされませんが、必ず観察してアセスメントしましょう(たとえ前の勤務の先輩がフローシートに書いていなくても、これを読んでいる皆さんは必ず測りましょう!)。

ここまで、【図1】に基づいて、循環血液量が低下すると起こる変化についてお話ししました。では、どの部位の損傷でどれくらい出血するのでしょうか。骨折による出血量と体腔に溜まる血液量を示します【図3】。外出血として目に見える出血以外に、身体の中で出血していることも想定していなければなりません。体内での出血は、超音波検査(FAST;focused assessment with sonography for trauma)やCT 検査で確認します。




出血性ショックの重症度を評価する方法として、ショックインデックスがあります。「ショックインデックス(SI)=心拍数/収縮期血圧」で求められます。正常であれば0.57 ± 0.07 とされていますが、出血がある場合、頻脈や血圧低下が見られるため数が大きくなります。1.0 で出血量は推定1L、1.5 で1.5L、2.0 で2L と予測することもあります。

今回のケースでは、意識障害、不穏、頻呼吸、頻脈、低血圧があり、ショックといえます。採血や画像検査でなく、身体所見から判断できるショックを見逃さないことが大切です。

骨盤X 線で不安定型骨盤輪骨折があり、造影CT で内腸骨動脈からの出血所見があったため、輸血をしながら緊急経カテーテル的塞栓術を行い、損傷した血管を止血し、ICU へ入院となった。ICU 入室後は循環動態が安定し、翌日に抜管、飲食開始、翌々日にはICU から退室した。

この患者さんは骨盤骨折に伴う後腹膜出血による出血性ショック(循環血液量減少性ショック)です。




最初の一歩はどう動く?


■ショックだ! と認識してからの最初の一歩 まずは酸素を回せ!


ショックの正体は組織へ十分な酸素が届いていないことです。血流に乗せて酸素を届けなければなりません。そのためには、酸素そのものがきちんと血液の中にあることと、それを組織まで届けられる血流があることの両方が必要です。これが呼吸と循環が切り離せない関係であることの理由です。ショックへの対応として初期輸液療法があります【図4】






続きはぜひ本誌でご覧ください

■引用・参考文献
1)「ISLS ガイドブック2018」編集委員会編.ISLS ガイドブック2018.日本救急医学会ほか監修.東京,へるす出版,2018,224p.
2)日本救急看護学会監修.改訂第4 版外傷初期看護ガイドラインJNTEC.東京,へるす出版,2018,368p.
3)FCCS 運営委員会ほか監修.FCCS プロバイダーマニュアル.東京,メディカルサイエンスインターナショナル,2009,416p.
4)日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン検討委員会.実践 鎮痛・鎮静・せん妄管理ガイドブック.東京,総合医学社,2016,166p.


■執筆
天谷 愛
地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立広尾病院
救急外来/救急看護認定看護師・特定看護師


この記事が載っている専門誌/号


Emer-Log(エマログ)2024年4号

Emer-Log(エマログ)2024年4号
【特集】
ヤバい!を見抜く
病態生理と診断・治療が深くわかる
救急ナースのための
ショックまるっとマスターブック


■1章 ベーシック編:ショックを見抜いて一歩動けるナースになろう
●はじめに 10分で読める これだけは押さえるべきショックの知識
〈8つのケースから学ぶ ヤバい!からショックの判断につなげるための方法〉
●ケース1 【血管しわしわ(脱水)】循環血液量減少性ショック:出血性ショック
●ケース2 【血管しわしわ(脱水)】循環血液量減少性ショック:非出血性ショック
●ケース3 【ポンプ不調】心原性ショック:不整脈によるショック
●ケース4 【ポンプ不調】心原性ショック:心筋性(心筋梗塞)によるショック
●ケース5 【狭いよ、苦しいよ】心外閉塞・拘束性ショック:心タンポナーデによるショック
●ケース6 【狭いよ、苦しいよ】心外閉塞・ 拘束性ショック:気胸によるショック
●ケース7 【血管パンパン】血液分布異常性ショック:アナフィラキシーショック
●ケース8 【血管パンパン】血液分布異常性ショック:脊髄損傷

■2章 アドバンス編:より深くショックを知って実践に活かそう
●1 循環血液量減少性ショック(出血性)の病態生理/診断と治療
●2 心原性ショックの病態生理/診断と治療
●3 心外閉塞 ・拘束性ショックの病態生理/診断と治療
●4 血液分布異常性ショックの病態生理/診断と治療

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