救急看護を追求したい熱意ある看護師に向けて、より深く信頼性の高い、ここでしか得られない実践的な知識をお届けする『Emer-Log(エマログ)』から毎号、特集の1つの項目をご紹介します。本特集の他の項目はぜひ本誌でご覧ください!




①ショックの5 徴候(5p)





《この指標のデータ》


Q. どういう指標?
ショックに陥る予兆として身体に現れる徴候を、英語で表したときの頭文字「p」をとって5 つにまとめたものです。

Q. どんなときに使う?( 使用場面・患者さんの症状)
患者さんが来院した際や途中で状態変化があった際など、速やかにショック徴候があるか把握したいときに使います。特別な器具は使わず、五感を用いたフィジカルイグザミネーションによって瞬時に捉えることができるため、救急外来で患者さんに初めて接触するときや、急変時の患者さんの重症度・緊急度のアセスメントに役立ちます。

▼利点の一覧表



➡詳しい解説

●ショックとは
ショックとは「組織還流障害の結果、組織での酸素需要と供給がアンバランスになり、細胞レベルでの低酸素症により生体の維持に必要な細胞機能が障害され、それが全身レベルの致死的な症状に発展すること」と定義されており、組織における酸素の需要と供給のバランスが崩れていることをいいます。ショックはその機序から4 つのタイプに分類されています【図2】

●ショック=血圧低下ではない!
「血圧が下がっていないからショックではない」と思われがちですが、前述した定義のとおり、ショック=血圧低下ではありません。血圧が下がっていなくても、ショック状態である場合があります。異常が起こり始めたとき、人間はさまざまな代償反応によって身体機能を維持しようとします【図3】。例えば、循環血液量が減少した場合には心拍数を上昇させたり、末梢血管抵抗を上げたりして血圧を維持します。その代償反応が限界を迎えたとき、初めて血圧が下がります。



!ここに注意!

この5つの徴候は、あくまでも代表的なショック症状を覚えやすくまとめたもので、それぞれの意味を正しく理解しておくことが重要です。例えば「顔面蒼白」は顔色不良であることを意味しており、必ずしも蒼白なだけではなく浅黒かったりすることもあります。また「虚脱」は脳への酸素不足による意識障害全般を示しており、ぐったりしているだけではなく、落ち着きのない言動や不穏行動として現れることもあります。

落とし穴をケースで具体的に解説
▶ただの不穏? 実はショックの徴候だった!

友人とサッカー中に選手同士でぶつかり、腰を打撲した30代の男性。FAST にてモリソン窩にエコーフリースペースがあり、造影CT を撮影することになった。脈はやや頻脈であったが血圧は保たれており、意識もあったが呼吸は早かった。「起き上がりたい」と落ち着かないため鎮静薬を使用したところ、急激に血圧が低下、心停止に陥った。

➡ケースの詳しい解説

頻脈で循環血液量を代償していたため、まだ血圧は下がっていませでしたが、ショックの5pのうち「虚脱」の症状として不穏が出現したと考えられます。組織の酸素不足から嫌気性代謝が優位となると、乳酸が上昇し身体は酸性に傾きます。本事例でもそれを呼吸で代償しようと頻呼吸になっていたと考えられます。血圧だけに頼らず、身体所見からショック徴候を捉えることが重要です。




②MMT





《この指標のデータ》


Q. どういう指標?
MMT(manual muscle testing:徒手筋力テスト)は、平滑筋の収縮がどのぐらい保持されているのかを測定し、0~5の6段階で表したものです。

Q. どんなときに使う?( 使用場面・患者さんの症状)
救急の現場では、脳卒中や脊髄損傷が疑われる場合など、麻痺の有無や程度を評価する際によく用いられます。そのほか、リハビリテーションにおいて日常生活動作(ADL)の自立度を評価する際にも使われます。

▼利点の一覧表

➡詳しい解説

●人間の身体はさまざまな筋肉によって動いている
身体のパーツを動かすのには、【表1】のとおりさまざまな筋肉が関わっています。MMTではそれぞれの筋肉ごとに筋収縮を評価するため、どこの筋肉を評価するためにどんな動きが必要なのかを理解しておく必要があります。同じ上肢を動かすにも、曲げるときに収縮する筋肉と伸ばすときに収縮する筋肉は異なります。






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■引用・参考文献
1)厚生労働省.別紙様式(19)神経学的検査チャート.
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000935690.pdf(accessed-2024-07-16)
2)集中治療医療安全協議会(CCPAT)監.FCCS プロバイダーマニュアル.第4 版.古川力丸ほか監訳.東京,コンパス,2023, 508p.
3)日本版敗血症診療ガイドライン2020特別委員会.日本版敗血症診療ガイドライン2020.日本集中治療医学会雑誌.28(Supplement), 2021, 414p.
https://www.jsicm.org/pdf/jjsicm28Suppl.pdf(accessed-2024-07-16)
4)道又元裕編.ICU ディジーズ:クリティカルケアにおける看護実践.改訂第2 版.東京,学研,2015,320p.
5)山内豊明.フィジカルアセスメントガイドブック.第2版.東京,医学書院,2011, 224p.
6)医療情報科学研究所編.病気がみえる:運動器・整形外科.東京, メディックメディア,2017, 520p.
7)中村健ほか.息切れの評価法.The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine.54 (12), 2017, 941-6.
8) 越久仁敬.わかりやすく,簡単な呼吸困難の説明.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌.30 (2), 2022, 172-6.

■執筆
前田万葉
日本赤十字社医療センター 救急看護認定看護師


この記事が載っている専門誌/号


Emer-Log(エマログ)2024年4号

Emer-Log(エマログ)2024年5号
【特集】
あっ! これ使える
初療・ERでお役立ち
救急の指標・スケール35


■1章 救急外来に患者が来院した。まずは緊急度チェック!
●1 トリアージ
①JTAS、②SAMPLERとOPQRST、③NRS、VAS、FRS
●2 意識レベル
①JCS、②GCS、③AVPU(小児反応スケール)、④NIHSS
●3 急変の徴候を察知する
①ショックの5徴候(5p)、②MMT、③Hugh-Jones分類

■2章 しっかりと病態把握をしよう!
●1 循環・心不全に関する指標
①循環指標:Mottling Score、②心不全指標:クリニカルシナリオ(CS)分類、③心不全指標:Nohria-Stevenson分類
●2 ショックに関する指標
①ショックの5徴候(5p)、②ショック指数(SI)、③血中乳酸値(lactate)
●3 敗血症に関する指標
①qSOFA、②SOFA、③敗血症/敗血症性ショックの定義と診断基準
●4 呼吸(酸素化、換気)に関する指標
①呼吸数、②SpO2、チアノーゼの観察、③血液ガス:pH、PaCO2、PaO2
●5 頭痛に関する指標
①頭痛のred flag “SNOOP”、②OttawaSAHスケール、③Hunt and Kosnik分類
●6 アナフィラキシーに関する指標
①診断基準、②重症度分類
●7 消化器に関する指標
①急性腹症の診療アルゴリズム、②急性膵炎診断・重症度判定基準、③急性胆管炎/胆嚢炎診断・重症度判定基準
●8 熱中症に関する指標
①重症度分類
●9 外傷に関する指標
①AIS(abbreviated injury scale)、②ISS(injury severity score)、③RTS(revisedtrauma score)、④TRISS(trauma and injury severity score)

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