救急看護を追求したい熱意ある看護師に向けて、より深く信頼性の高い、ここでしか得られない実践的な知識をお届けする『Emer-Log(エマログ)』から毎号、特集の1つの項目をご紹介します。本特集の他の項目はぜひ本誌でご覧ください!
皆さんの周りには、患者さんを一目見て、「やばそう」と瞬時に判断できるキレキレな看護師はいないでしょうか? 救急領域で絶大な支持を受けているとされるパトリシア・ベナーは、著書の中で「達人看護師は一つひとつの状況を直感的に把握して正確な問題領域に的を絞る」1)と述べています。直感的とは経験に裏打ちされるものです。そして、急変しそうな患者さんに対して、達人看護師が経験によって何に的を絞っているのかといえば、まさに ABCDE なのではないかと筆者は考えています。本項では、急変の早期発見のために必要不可欠な ABCDE アプローチについて述べます。
ABCDEアプローチ
近年、臨床推論の重要性が高まっています。確かに救急領域において必要なスキルですが、ABCDE アプローチを理解せずに臨床推論を学んでも意味がありません。JTAS(Japan Triage and Acuity Scale)トリアージの中で、まずは生理学的徴候を判定していることからもわかるように、すべての患者さんをみるうえで最初にやるべきことはABCDE アプローチです。
突然ですが、「なぜ ABCDE をみるのか?」「なぜその順番にみるのか?」と、新人看護師に質問されたとします。皆さんならどのように説明されますか。わかっているようで、いざ説明するとなると意外に難しいものですよね。ですが、動機づけをさせるために、しっかりと根拠をもって説明することは後輩育成に必要なことです。
①なぜ ABCDE をみるのか?
まず、「なぜみるのか?」です。それは、「今命を落としそうかどうか」を判断するためです。それを理解するうえで、生命維持のためのサイクルについて知る必要があります。人は、酸素がないと生きられません。酸素は、口と鼻から取り入れられ(A:気道)、肺でガス交換されて血中に移動し(B:呼吸)、血液によって全身に回り(C:循環)、再度酸素を取り込むために脳が指示を出しています(D:中枢神経)。このサイクルは、その酸素の流れを示しています。
人が命を落とす時は、必ずこのどこかが破綻して酸素が全身に回らなくなった時です。逆にいえば、ここさえ安定していればすぐには命を落とすことはないということです。だから重要なのです。なお、ABCD が保たれていても、E(体温)の異常は、酸素消費量、循環動態、意識レベルを破綻させる要因になります。そのため E(体温)の管理は、ABCD を安定させ続けるための必須要素であり、生命維持のサイクルの最終段階ではなく並行して介入すべき要素となります。
②なぜその順番にみるのか?
次に「なぜその順番にみるのか?」です。理由は 2 つあります。それは、「緊急性の高い順番にみる必要があるから」「その順番にみないと異常の本当の原因がわからないから」です。詳細については後述しますが、「緊急性の高い順番にみる」うえでキーワードになるのは A(気道)です。
「異常の原因がわからない」について、臨床の場面でわかりやすいのが、SpO2 低下と意識障害です。例えば肺炎患者の SpO2 低下の原因が肺(B)であると思い込み、ひたすら酸素を増量したものの、実際は上気道の痰の貯留(A)だった場合や、意識障害があり脳(D)の異常と思い込み頭部 CT を急いだが、呼吸不全(B)やショック(C)が原因だった場合、などです。これは、先ほどの生命維持のサイクルをみるとわかりやすいですが、酸素が順番に全身に回っているかを A から順番に観察しないと本当の原因がわからないですよね。だから、ABCD の順番にみることが重要なのです。
では、ここからは ABCDE アプローチにおける観察の極意について解説します。
ABCDEアプローチにおける観察の極意
①A(気道)の極意
「全集中で最初にみる!」これに尽きます。看護師は教育課程や臨床現場の中で、呼吸と循環のことは多く学びますが、気道管理については、あまり学んできていないと感じます。そのため、意識的に気道を観察することが苦手な看護師が多いのではないでしょうか。だからこそ、まずは「全集中」で「意識して」気道を観察することが必要です。
そして、必ず「最初にみる」です。なぜ最初なのか? 生命維持のサイクルをみればわかりやすいですね。緊急性が高いからです。例えばお餅が喉に詰まったとしましょう。A が完全に閉塞すると、BCD に酸素がいかず破綻しますね。しかも A が閉塞すると、5分足らずで命を落とします。時間的猶予がないんですね。だから緊急性が高いのです。では、何をどうやって観察するかです。特別なことは何もないです。「顔から首周辺を全集中で見て聴く」です。「見る」については、気道閉塞時の鎖骨上の陥没呼吸の有無を観察することが有効です。「聴く」については、発声があるかは当然ですが、いわゆる気道異常音があるかが重要です。臨床現場で多く遭遇するのは、喀痰貯留音(ゴロゴロ)、舌根沈下(ガーガー)、そして吸気性喘鳴(ヒューヒュー)です。
ここでは吸気性喘鳴について説明します。喘鳴には 2 種類あるのはご存じでしょうか。それは、呼気性喘鳴と吸気性喘鳴です。この 2 つを明確に区別することはとても重要です。呼気性喘鳴は基本的に気管支などの下気道の狭窄で起こりますが、吸気性喘鳴は咽頭などの上気道の狭窄で起こります。つまり A の異常になります。救急領域での原因として多いのは、アナフィラキシー、急性喉頭蓋炎、気管チューブ抜管後などです。同じ喘鳴でも、吸気性のほうがより緊急性が高いため、喘鳴を聴取した際は意識的に吸気か呼気かを観察することが重要です。
気道管理に関する過失による裁判事例は増えており、病院側が敗訴した事例もあります。患者さんの命を守るだけでなく、自分自身を守るうえでも気道の観察は特に大切です。
②B(呼吸)の極意
「とにかく呼吸数をみる!」です。これが臨床現場でなかなかできていないと感じています。なぜできないか。それは、呼吸数の意味を理解していないからではないでしょうか。呼吸数はほかのバイタルサインの異常に先立って変化します。
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■引用・参考文献
1)パトリシア ベナー.ベナー看護論 新訳版:初心者から達人へ.東京,医学書院,2012,26.
■執筆
大麻康之
高知医療センター 救急外来・中央診療 看護副科長 救急看護認定看護師
この記事が載っている専門誌/号
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■6-② 状況別に考える!急変対応のポイント
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■6-③ 状況別に考える!急変対応のポイント
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