著者:川下貴士(松蔭大学看護学部精神看護学助教)
t-kawashimo@shoin-u.ac.jp
皆さんどうも。
先日、とある看護専門学校へ私たちの著書を寄贈してきました。先生方にたいへん喜んでいただき、感謝しかありません。まだ読んでない方は下記の『この書籍の購入・詳細はこちら』のリンクから立ち読みしていただき、気に入ったらぜひ購入を検討してみてください。
「えっと……ススキさんでしたっけ?」
僕が働いていた病棟を退院したスズキさんを病院で偶然見かけたときに、名前を間違って放った言葉です。当然、まじめに言ったわけでもなく、僕はユーモアとして言ったつもりでしたが、この一言が後に大きな騒動になってしまいます。
ある日、普通に勤務していると、病棟に内線が入ります。
師長が険しい顔をして、「川下くん、スズキさんの親から電話がありました。スズキさんが不穏状態らしく、その原因は川下くんが名前を忘れていたということらしいよ。家族の方も怒ってました。これは本当なの?」
まさか、自分が放ったあの一言がこういう事態になるなんて、僕は想像していませんでした。
「はい。言いました。だけどそれは冗談で、本心ではないです」と説明するも事態は収まることなく、家族と本人が来院するので、そのときに謝罪してほしいと師長から告げられました。
入院時、スズキさんの担当は僕でした。
入院時からスズキさんとは密にコミュニケーションを図り、僕は信頼関係を築けていると思っていました。病棟にいたときと同じようにスズキさんへコミュニケーションを図っただけなのに、「謝罪?どうして僕が?」というのが当時の僕の心境で、頑なに謝罪することを拒否していました。
すると事態はますます悪化していき、病棟内で収まらず、看護部長、院長まで届き、僕の対応は大問題となっていきます。最後までスズキさんへの謝罪を頑なに拒否した僕でしたが、そのような意図はなかったということを説明することで落ち着きました。
当たり前ですが、信頼関係なんてものは見えません。
僕の放った言葉は慢心からきた思い込み以外何もありません。
医療者である以上、患者さんへ伝える言葉1つひとつは尊重されなければなりません。
入院中にいくら信頼関係が築けていたとはいえ、僕が放った言葉は決して、患者さんを尊重していたかというとそうではありません。
当時の僕にはわかりませんでした。
精神科ではコミュニケーションが治療的な側面になる領域でもあるので、言葉選びというのはとても重要です。今ならすぐに謝罪できますが、当時の僕は精神科看護師として、あまりにも未熟者すぎて、あのような結果になってしまいました。
患者さんや家族、そして、病院全体を巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと今でも思っています。
医療者の一言が患者さんの精神症状へどのように影響を及ぼすのか、身をもって体験した僕の今でも忘れられない出来事です。
精神看護において、ユーモアは必要だと思っていますが、患者さんを不快にさせるユーモアは必要ありません。
恥ずかしい話ですが、この経験は今でも僕の教訓となっています。
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日本看護協会出版会『コミュニティケア』誌9月号から「精神科訪問看護へようこそ」の1話が連載されています。現在、3話目の11月号が発売されています。全12話の予定ですので、興味のある方はこちらの雑誌も読んでいただけると嬉しいです!
※本記事に登場するスタッフや患者さんなどは、著者の体験に基づくフィクションです。実在するスタッフ、患者さんなどとは関係はありません。
※感想や質問などございましたら、メールアドレスまで連絡していただけるとうれしいです!
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