パンデミックの真っ只中で

2020年の春から続く、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック以後、訪問看護ステーションの現場でもこれまでにない経験をしました。訪問看護師が、利用者さんが、ご家族が、COVID-19に感染しているかもしれないという不安をもちながらも、ご自宅を訪問する日々が続いて います。

Cさんは、80歳代後半の女性です。2型糖尿病(病歴28年)で、一人暮らしです。要介護2で、軽 度の認知症はありますが、日常生活動作(activities of daily living;ADL)は自立しています。1 年前にご主人を亡くし、環境の変化と不安で体調がすぐれず、訪問看護が開始となりました。

Cさんは十数年間、インスリン自己注射と血糖自己測定(1日2回)を継続しています。HbA1cは、8.4 〜8.8 %で経過しています。Cさんは「わたし、もうあかん。甘いもんを腹いっぱい食べて、はよ 死んだらいいんや」とよく話しています。訪問診療を受けており、介護サービスではホームヘルパー (買いものと掃除)とデイサービスを利用しています。Cさんの家の近くにあるデイサービスは町屋 旅館風の建物で、Cさんは毎週楽しみに通っていました。

COVID-19への感染とCさんの生活

年末、Cさんが通うデイサービスで、COVID-19の陽性患者が数名確認されました。Cさんは「わたしは大丈夫やで。コロナって? 風邪の強いやつやろう?」と落ち着いている様子でしたが、その数日後、PCR検査でCさんの陽性が判明しました。ちょうどCOVID-19第3波の時期で、在宅分野ではどのように対応するかの指針もない状況でした。Cさんの陽性が判明した時点で、訪問診療・訪問看護・ホームヘルパーなどのサービスがすべてストップになりました。

自宅療養となったCさんの食事確保のために、ホームヘルパーが毎日食べものを玄関口に置くことになりました。Cさんは、ホームヘルパーと顔を合わせることはできませんでしたが、食品を置くホームヘルパーの気配と音が心の支えになっているようでした。看護師は約2週間にわたり、毎日朝と夜の電話で体調観察を含め支援していくことになりました。Cさんは高齢で難聴もあり、電話での体調観察には、かなり時間を要しました。

●朝の電話
看護師「朝の血糖値はいくら?」
Cさん「血糖ってなんや? ちょっと待っててや。電話切らんと待っててね! 眼鏡がない! 探してくるわ。あっ! 測るのを失敗したわ……待っててね〜♪(童謡の鼻歌が聞こえる)」

●夜の電話(4日目)
Cさん「テレビが急に壊れた。真っ黒! 寂しいやんか……どうしたらいいの? ラジオでがまんやな」

看護師は孤立するような環境やCさんが抱える不安、ADL、認知機能の低下リスクなどを心配していました。毎日の電話で、Cさんのこれまでの大切な思い出や楽しい話をして「好きなものを食べて、あとひと踏ん張り、がんばりましょう」と励ましていきました。自宅療養中、Cさんの体調に変化はなく、血糖コントロールも安定して過ごすことができました。

訪問看護の再開

無事に療養が終わり、訪問看護が再開できました。Cさんは「わたし、一人で過ごせた! テレビが壊れて寂しかったけど、ラジオでがんばった」と話し、一緒に喜び合いました。その後、好きなテレビの修理もできました。

Cさんは日常生活を取り戻し、デイサービスの大きなのれんをくぐり、利用者さんたちと温かい湯につかり、心も温かくなる日々を過ごしています。





臼井玲華
京都保健会総合ケアステーション/わかば訪問看護
看護学校卒業後、京都市内の総合病院で10 年間勤務。同法人の診療所へ異動し、看護主任として従事するなかで、糖尿病患者とのかかわりかたのむずかしさを知り、糖尿病を専門的に学ぶため、2009 年に家族を連れて東京へ転居。多摩センタークリニックみらい・クリニックみらい国立で高度な糖尿病医療に携わる。その後京都に戻り、現在に至る。



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