夫婦で糖尿病治療に取り組むGさん

訪問看護5年目に、私が出会った糖尿病患者さん夫婦についてお話しします。

Gさんは70歳代の男性です。糖尿病歴30年、糖尿病性腎症の第4期(腎不全期)で、70歳代の奥さんと2人暮らしです。Gさんは70歳ごろまで外来通院をしていましたが、突然膝折れすることにより路上でも転倒をくり返し、通院が困難になったため、訪問往診になりました。

奥さんも糖尿病です。HbA1cはGさんが8.5%、奥さんが9.3%で夫婦ともに血糖コントロールが悪化していました。Gさん夫婦の主治医は同じで、2人とも持効型溶解インスリン製剤を使っています。奥さんがGさんに「お父さん、注射の時間やで」と毎日声をかけて、同じタイミングでインスリン自己注射をしています。

Gさんの食生活

当初Gさん宅には電話がなく、昼夜を問わず、奥さんが公衆電話から「お姉ちゃん(看護師)、いつ来てくれるん? お父さんがつらそうにしている」と相談の電話をかけてきました。

週1回の訪問看護を嫌がることなく受け入れ、何でも隠すことなく話してくれるGさんでしたが、病気の話のときは表情が硬くなり、口数も減ってしょんぼりしてしまうような感じでした。

Gさんは、昔調理師をしていたこともあってか「食いもんは調理もしてきたしわかる」と、自分なりに食事に気をつけている様子でした。そこで、数日間の食事内容を写真に撮ってもらうことにしました。Gさんは「同じもんを食べてた」と言い、まったく同じ写真を連日見せてくれることもありました。

食事は、ほとんどがコンビニで購入したおにぎりやカップラーメン、サンドウィッチなどで、そのなかでもホルモンのてっちゃん(シマチョウ)が好きだと言っていました。飲みものもレモンティーなどのジュース類が好きでしたが、ジュースに含まれている角砂糖の量を写真で見てもらうと2人とも驚いて、そのあとは控える姿が見られました。買いものに行けない日は、しょうゆ汁(しょうゆと湯を混ぜたもの)やべた焼き(小麦粉にだしの素を混ぜて焼いたもの)、何もなければ食べないという食生活をくり返していました。べた焼きをつくったときは「味見してみ、おいしいで」と言って看護師に食べさせてくれました。

腎機能が急激に悪化していったGさん

それからのGさんは急激に腎機能が低下し、クレアチニン(Cr)が3.39mg/dLまで悪化しました。食欲低下が始まり、倦怠感を感じるようになって、活気がなくなっていきました。腎臓内科医から透析の説明もありました。受診先の病院での栄養指導も受けましたが「あれもあかん、これもあかんって言われて、食べるもんないやろ!って怒ってきた!」と立腹していました。そこで、ゆっくりと相談にのってもらえる在宅訪問管理栄養士に来てもらうことにしました

奥さんと一緒に調理をしたり、食塩を控えた食品を教えてもらっていました。Gさんは「透析なんか絶対にせえへんで」「週に3日も行くのか。たいぎーなあ(広島の方言で「面倒くさい」という意味)」と言って悩んでいました。次第に尿毒症の症状が強くなり、奥さんからは電話で「お父さん、つらそう。訪問に来てほしい」などと連絡があり、緊急訪問で対応していました。G さんは、最終的に透析治療を受けること になりました。

Gさんは「透析してよかった。体が楽になった」と話しています。ときどき好物のてっちゃんを食べて「塩分をとりすぎた」と笑って教えてくれるGさん。透析での療養生活になったGさんの体調を心配して、奥さんから「お姉ちゃんは、いつ来てくれるん?」と、今日もまた電話が鳴っています。

これからも、Gさん夫婦に穏やかな毎日が続きますように……。




今回は、同僚である大切絢子さんの受け持ち症例を紹介しました。



臼井玲華
京都保健会総合ケアステーション/わかば訪問看護
看護学校卒業後、京都市内の総合病院で10 年間勤務。同法人の診療所へ異動し、看護主任として従事するなかで、糖尿病患者とのかかわりかたのむずかしさを知り、糖尿病を専門的に学ぶため、2009 年に家族を連れて東京へ転居。多摩センタークリニックみらい・クリニックみらい国立で高度な糖尿病医療に携わる。その後京都に戻り、現在に至る。



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