必死に生きてきたKさん

Kさんは70歳代後半の女性で2型糖尿病(病歴20年)があり、長年家の近くの診療所に通っていました。

X−3年、Kさんは、飲食店をかけもちで夜遅くまで働き、生活習慣が乱れ、食事も1日2回の生活でした。食事前に行う1日2回の混合型インスリン製剤の注射や、経口血糖降下薬の飲み忘れも続き、HbA1c9.0~9.6%と悪化をくり返していました。

ちょうどそのころご主人が亡くなり、放浪癖がある同居の息子さんは、家出をくり返していました。Kさんは毎回息子さんを探しに夜の町を歩き、ハンバーガーを食べて帰宅することもありました。精神的、肉体的に苦しい状況が血糖コントロールにも影響し、セルフケアが困難になりました。そこで主治医と相談し、インスリン注射は1日1回の持効型溶解インスリン製剤に変更になりました。

X年10月、Kさんは座骨神経痛が悪化し、一時的に歩行困難となりました。そのせいで買いものに行けず、食事の準備もできなくなり、インスリン注射は自己判断で中断してしまいました。その結果、糖尿病性ケトアシドーシスを発症し、緊急入院となりました。

Kさんとの出会い

X年12月、退院直後から訪問看護が開始となりました。退院後の2週間は、特別訪問看護指示書によって連日訪問することができました。訪問看護ではKさんのインスリン注射実施状況や血糖値、これまでの生活状況の把握、息子さんが心配なことなどを聞き取りながらかかわっていきました。

Kさんの住まいは築100年で、冬は冷たい隙間風が吹き、看護師は防寒着を着たまま訪問を続けました。Kさんは、コタツと電気毛布だけで寒さを凌いでいました。

また、息子が家出した

X+1年3月、Kさんは「息子がまた家出した! 死んでいないかと心配で眠れない」「でも私が倒れたらあかん。しっかり食べなあかんよね?」と訪問看護のたびに泣いていました。玄関の外に出ると、Kさんの好きな紫色のクレマチスが今を盛りと咲いていました。

Kさんは毎日、夜遅くに息子さんの帰りを待ちながら食パンを食べており、胃の調子が悪くなって嘔吐することも数回ありました。HbA1c9.3%のときに訪問栄養指導が開始となり、毎週管理栄養士さんが訪問してくれました。砂糖は人工甘味料に変更し、野菜中心の食事を自炊するようになり、毎日食事記録()を書きながら「私、食べすぎたね」とふり返っていました。同時に、毎日がんばって4,000〜10,000歩の散歩を開始しました。3か月後、HbA1cは8.6%まで改善していました。





図 Kさんによる毎日の食事記録


X+1年8月、夏は扇風機だけで過ごすKさんには、熱中症の注意が必要でした。息子さんを探しに駅まで歩き、日が暮れるまで駅のベンチに座って体を冷やし、帰宅する日もありました。

X+1年12月24日、Kさんは「息子に会いたい……。クリスマスが私の誕生日なのに、クリスマスじゃなくてクルシミマスやね」と話していました。

花びらが舞う季節がまたやってきた

X+2年3月、息子さんがいなくなって1年が経過しましたが、Kさんの療養生活は安定し、HbA1cは7.8%まで改善していました。そんななか、Kさんから突然1本の電話があり、「息子が帰ってきた!」と泣いて報告をくれました。Kさんの心の雪解けが来たようでした。

Kさん、今年のクリスマスの誕生日は、幸せを感じて過ごせますように……。




今回は、同僚である松江寿美子さんの受け持ち症例を紹介しました。






臼井玲華
京都保健会総合ケアステーション/わかば訪問看護
看護学校卒業後、京都市内の総合病院で10 年間勤務。同法人の診療所へ異動し、看護主任として従事するなかで、糖尿病患者とのかかわりかたのむずかしさを知り、糖尿病を専門的に学ぶため、2009 年に家族を連れて東京へ転居。多摩センタークリニックみらい・クリニックみらい国立で高度な糖尿病医療に携わる。その後京都に戻り、現在に至る。



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