ホームヘルパーとともに支援したMさん
Mさんは80歳代の女性で、一人暮らしです。2型糖尿病、高血圧、変形性脊椎症があります。X年、薬の飲み忘れが目立ち、両下肢の浮腫があるとのことで、訪問看護が週2回から開始となりました。
Mさんは両下肢の浮腫に加えて腰痛もあるため、前傾姿勢でそろりそろりと足をひきずりながら室内を歩いていました。また、知的障害があるためうまく言葉を伝えることができず、人を避けて転居を数回くり返していました。訪問看護開始当初、牛乳が嫌いなのに訪問販売で無理やり契約させられたようで、牛乳の宅配サービスを利用していました。あるときには、冷蔵庫の中の腐った牛乳をMさんと二人で処分したこともありました。
Mさんは加齢に伴う認知症がありました。生活支援も必要であり、ホームヘルパーが毎日介入して、食事の準備や部屋の掃除などの支援をすることになりました。定期服用の薬はカレンダーに1週間分をセットし、ホームヘルパーや訪問看護師などが声かけをすることで、飲み忘れがなくなっていきました。こうして生活が安定し、HbA1cは6.9~7.2%と良好な状態を保っていました。
いちばん大切なクロちゃん
Mさんは、部屋にかわいいぬいぐるみを並べたり、紙を小さく切ることを好んでいました。とくに黒い猫のぬいぐるみを大切にしており、「クロちゃん」と名づけていました。「クロちゃんがいちばん大切! この子は病気にもならないし、死ぬこともない」と話していました。Mさんはクロちゃんを胸に抱いてベッドから足を下ろして寝ることが習慣でしたが、それが原因で両下肢がひどくむくんでいました。

看護師は、「足の浮腫がよくなるように、ベッドに足を上げてクロちゃんと寝てほしい」とすすめていました。そして、大切なクロちゃん用のベッドをティッシュ箱でつくりました。Mさんもクロちゃんもベッドで寝てほしいという提案に、「クロちゃんのかわいいベッドや」と喜んでくれましたが数日しか続かず、その後はまた、クロちゃんを胸に抱いたままベッドから足を下ろして寝る生活に戻りました。
足の浮腫は変わらずあり、訪問看護では足浴やマッサージを行い、弾性ストッキングを履いて過ごしてもらいました。Mさんはむくんでいる足をひきずりながらも、看護師が帰るときには「気をつけてね」と見送ってくれました。
転倒し緊急入院へ
Mさんの家は木造アパートの2階にあり、2階から1階への急な階段昇降は、両足がむくんでいるMさんにはとても危険で、転倒の恐れもあるためいつも心配していました。Mさんはこれまでにも部屋の中で転倒しており、ときには入院したこともありました。
X+3年2月、Mさんは夜に台所で転倒し、一晩中横になったまま翌朝ホームヘルパーに発見されました。発熱もしていたため、緊急入院となりました。入院中、Mさんはベッドで足を上げて寝ていたおかげか、足の浮腫がすっかりよくなり、退院にむけての調整が始まりました。しかしMさんは「家に帰りたくない」と元気がなく、「心配だ」と病棟看護師から訪問看護師に連絡が入りました。
病棟看護師と訪問看護師とで相談し、ケアマネジャーがすぐにクロちゃんを病棟に届けてくれました。Mさんは「クロちゃん……」と言って抱いたまま、元気が戻ることはなかったようでした。
その後、Mさんは施設入所を選択し、入所しました。Mさんとクロちゃんの想い出に手を振りながら。元気でいてね、Mさん……。
京都保健会総合ケアステーション/わかば訪問看護
看護学校卒業後、京都市内の総合病院で10 年間勤務。同法人の診療所へ異動し、看護主任として従事するなかで、糖尿病患者とのかかわりかたのむずかしさを知り、糖尿病を専門的に学ぶため、2009 年に家族を連れて東京へ転居。多摩センタークリニックみらい・クリニックみらい国立で高度な糖尿病医療に携わる。その後京都に戻り、現在に至る。

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