「消化器の術式は難しくて理解できない……」。そんなお悩みも『消化器ナーシング』のこの連載で解決! 消化器外科医のおぺなか先生が描くリアルで臨場感あふれるイラストで、まるで “実際の手術を覗いているように”術式が理解できます。術式がわかれば、起こり得る合併症の危険も見えるはず。連載を通して、消化器手術を極めましょう!
複雑で立体的な構造を持つ肝臓です! 確実に安全に切除するためには、術前の入念なシミュレーションと正確な解剖構造の理解が不可欠です!
Point!肝(右・左)葉切除術とは
主に肝細胞がん、胆管細胞がん、転移性肝がんなどに行われる術式です。部分切除、区域切除、葉切除など、腫瘍の部位や大きさによって切除範囲が異なります。
肝臓はエネルギーの合成・貯蔵や解毒、胆汁の排出など非常に多くのはたらきをしています。そのための無数の脈管が走行しており、術前の脈管の構造の理解と切除範囲のシミュレーションが非常に重要となります。
切除方法は開腹手術が基本です。手術創がほかの手術に比較して大きく、術後の疼痛ケアが重要です。腹腔鏡下手術はまだ限られた病院でしか行われていないのが現状です。血流が豊富な肝実質を切除するため、いかに出血を減らすかがポイントですが、肝離断中の出血量を減らす手技として「プリングル法」があります。肝門部から肝臓に流入する血流を一時的に遮断することで、出血を抑えることが可能です。
Check!起こり得る合併症
肝臓の切離面から胆汁が漏れることです。術後に留置するドレーン排液の性状や検体検査により診断します。胆汁漏は自然に閉鎖することがほとんどですが、閉鎖までドレーンを挿入したままの長期入院を要することがあります。
肝臓の切除後、肝機能の一時的な低下が影響し、胸水・腹水が出ることがあります。通常は利尿薬などで管理を行いますが、必要時には穿刺して除去することもあります。
肝切除後の断端付近に胆汁や腹水が貯留し膿瘍を形成することがあるため、術後の腹痛や発熱に注意が必要です。抗菌薬治療やドレーン管理で改善することがほとんどですが、場合によっては敗血症に至ることもあり、注意が必要です。
切除後の肝臓の機能が不十分な場合を指します。切除範囲が大きい場合や、もともとの肝機能障害が強い場合に起こることがあります。肝不全を契機に多臓器不全に陥ることもあり、非常に危険な合併症の一つです。肝不全を起こさないためには、術前に切除範囲や肝機能の入念な評価が必要です。万が一発症しても、残った肝臓が数カ月かけて徐々に増大し機能が回復することが期待できます。
肝臓は血流が非常に豊富なため、胃・大腸などの通常の手術に比較すると出血量が多くなる傾向にあります。術後に出血をきたした場合は、再手術やカテーテルでの塞栓術を行うことがあります。胆汁漏や腹腔内膿瘍が原因で術後出血を起こすこともあり、注意が必要です。
肝切除術はかつてに比べて徐々に安全なものになっているとはいえ、依然として術後急変のリスクの高い術式です。患者さんのバイタルサインやドレーンの性状に少しでも異変を感じたら、すぐにドクターコールをお願いします!
現役消化器外科医
Twitter→@ope_naka
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