山上睦実
東京大学医学部附属病院 がん看護専門看護師

ナース歴約20 年。現在は緩和ケアチーム所属。医療者としてのスキルアップのためJapan TeamOncology Program(J-TOP)や、がんといわれても動揺しない社会を目指すCancerX の活動にかかわっている。




「退院後にいちばん困ったのは、牛乳パックが持てなかったことかな」

この言葉はある患者会に参加したときに、参加者のサバイバーさんに「長い入院生活を終えて退院したあとにいちばん困ったことは何ですか」と質問したときの答えです。そのときの私は違う言葉が返ってくることを想像していたので、内心とても驚きました。この方はかなり以前に治療をされており、当時は効果のある治療が確立されておらず、現在の標準治療よりずっと長く薬物療法を続けることになってしまい、年単位の入院期間となってしまったそうです。現在のようながんリハビリテーションが認知されておらず、長い入院生活のなかで筋力と体力がなくなり、日常生活がままならなくなっての退院だったそうです。

このお話を伺ったときに、その方の困りごとは、その人の体験として伺ってみないと私には想像もつかないのだな、とあらためて感じました。そして、サバイバーさんから病院外で治療時のお話を聞くことは、現在がん治療をされている患者さんに活かせることが多くあると気付きました。この会の別の方からは、「薬物療法を始めたときからあらかじめ爪にオイルを塗って保護しておくと後々のケアが楽になりますよ」と伺いました。このことは薬物療法を始めるときに、最初に患者さんに説明するようにしています。

当たり前ですが、病気の体験は人によってさまざまで、抱える心配や不安、気がかりも人それぞれです。そして体験している方にとってもまさに渦中にいるときには思いもよらなかったこと、考えられなかったことが、あとから振り返ると多くあると思います。現在サバイバーとなった方のこんなことに困った、こんなサポートがあったらよかった、という言葉を聞き、そのことを今現在治療されている方への支援につなげていけるといいなと考えています。何気ないひと言であったかもしれませんが、病院のなかにいるだけではわからないことがある、広く社会につながりをもっていこうと感じた言葉でした。




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2022年1号からの再掲載です。


YORi-SOU がんナーシング2023年5号

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