1988年、がんの父親を病名を未告知のまま看取る。のちに父親が、がんであることを知っていながら知らないふりをして旅立ったことが判明。贖罪の思いで始めた患者・家族の会が組織的なピアサポート活動へと展開した。
▼NPO法人ミーネットとは
がん体験者やその家族を対象に、身近な相談役として「ピアサポーター」を養成。市民・行政・医療機関の連携のもと、愛知県の地域に根ざしたピアサポートを行う。
「針一本のことも共有させてください」
安心で安全であること。ピアサポート活動において私たちが最も大切にしていることです。がん診療連携拠点病院での院内ピアサポート活動を通じて、その「大切なこと」を再認識させられるできごとがありました。
ことの発端は、ピアサポーターが集まって制作し、相談支援室に送っているタオル帽子。抗がん薬治療での脱毛時に利用され、「かぶったまま寝ても肌にやさしい」と好評です。
そのタオル帽子の折り返し部分からマチ針が一本見つかったと、ある拠点病院の看護師長Aさんから電話を受けました。血の気が引きました。タオル帽子を使用する方々の状況を考えれば、きわめて重大な問題です。
(検針には念を入れているはずなのに……)と思いつつ、とにかくお詫びをしました。Aさんは「たまたま、ほかの看護師に見せようと広げて」と言いましたが、「たまたま」ではないと思いました。Aさんは、かつて病院へのピアサポート導入を強力に推進してくれた人。院内ピアサポートの日は、距離をおいて見守ってくださり、医療ソーシャルワーカーや診療科と連携が必要なケースはすぐつないでくれる。おそらくAさんは、タオル帽子のすべてを検針してくれていたのでしょう。
くり返し詫びる私に、かえって恐縮したようにAさんは言いました。「私たちはピアサポーターの皆さんと一緒に患者さんに寄り添っているつもりです。だから、針一本のことも共有させてください」。
目頭が熱くなりました。Aさんは、私たちのことを信じてくれている。だからこそ、検針してくれたのではないでしょうか。ほんのわずかなほころびが、大きな亀裂をもたらすことがあります。それを防ぐのがリスクマネジメントです。あらためてそう知らされました。
現在、タオル帽子は3人検針システムを経て、相談支援室に届けています。「針一本のことも共有したい」。A看護師長の言葉が、いまもあたたかく胸の中に残っています。
本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2022年1号からの再掲載です。
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