伊藤和直
NPO法人ミーネット ピアサポーター

1994年、46歳で腎細胞がん発症。治療と仕事を両立して定年まで勤め上げ「がんのピアサポーター」に。肺への再発・再々発を乗り越え、2,000件以上のピアサポートを実践。今もがんと向き合いつつ後進の指導にもあたる。

▼NPO法人ミーネットとは
がん体験者やその家族を対象に、身近な相談役として「ピアサポーター」を養成。市民・行政・医療機関の連携のもと、愛知県の地域に根ざしたピアサポートを行う。





「ほかのがん患者さんに伝えていけるといいですよね」

見つかったのは、大人のこぶし大ほどもある腎がんでした。その大きさに観念して、家族一人ひとりに遺書を書きました。するとなぜか気持ちが落ち着き、闘志のようなものが湧いてきたから不思議です。自分のがんについて勉強し、受けられる治療はすべて受けることにしました。46歳の暮れのことです。

遺書は引き出しに眠り続けて10年。ある日、病院の廊下でかつての担当看護師・Sさんに呼び止められました。懐かしさも手伝って、その後の経過を話しました。退院後のインターフェロン治療は、命が尽きるかと思うほどつらかったこと。8年目に肺に再発し、放射線治療システム「ノバリス」を受けたこと。いま私のなかで「がん」はおとなしく眠っていること。Sさんが、しっかりとうなずいて聞いてくれるのをいいことに、怒涛のように話し続けました。

別れ際、こんな言葉をSさんにかけられました。「伊藤さん、その体験をほかのがん患者さんに伝えていけるといいですよね」。伝える? どうやって? ピンとこなかったものの、その言葉は記憶に刻まれました。

それから3年。病院の情報コーナーを通りかかったとき、「がんのピアサポーター養成講座」と銘打ったチラシが、私の目に飛びこんできました。「あなたのがん体験を活かしませんか」。雷鳴に打たれた思いでした。これだ、これを待っていたのだ。なんの躊躇もなく、すぐに申し込み13年が経ちました。

相談してくださる方々の表情が、少しずつ明るく変化していくひとときに、私は生きる力をもらっています。ピアサポートに出会わなければ、つらいだけのがん体験だったかもしれません。いま私は思います。看護師さんも私たちも、患者さんの思いを傾聴することは大切です。もう一つ大切なこと。それは「前を向くことができるひと言」ではないでしょうか。あのときのS看護師のひと言に、心から感謝しています。




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2022年2号からの再掲載です。


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