中藤裕
NPO法人ミーネット ピアサポーター

業務用調理器具の製造販売会社の開発責任者を務めていた2006年、膀胱がんを発症。退職後、福祉の現場で働きながら、がんのピアサポート活動に取組み、社会福祉士、介護福祉士ならびに社会保険労務士の資格を取得。

▼NPO法人ミーネットとは
がん体験者やその家族を対象に、身近な相談役として「ピアサポーター」を養成。市民・行政・医療機関の連携のもと、愛知県の地域に根ざしたピアサポートを行う。





「患者を懸命に支える姿」

57年の人生で初めての入院。それも「がん」。パジャマやタオルの詰まったボストンバッグを小脇に、外来の受付で待っていると看護師さんが迎えに来てくれました。廊下は殺風景でしたが、角を曲がるときに必ず、看護師さんは少し微笑んで私をふり返ってくれ、入院への不安な気持ちがずいぶんと和らいだことを覚えています。

その後、幾度も入退院をくり返し、入院患者という立場に慣れてしまうと、病気への不安や病院という環境への緊張も薄まり、どこか厭世的てきな気分に沈みがちでした。

その日、私は目的もなくただ病棟をぶらぶらしていました。すると向こうから、最初の入院のとき、私を病室へ案内してくれた看護師さんが患者を支えながら歩いてきたのです。(ははあ、手術後の歩行介助だな……)。私は足を止めました。まだ若く、きわめて小柄な看護師さんが、背の高い男性患者の脇を精いっぱい抱えて、ゆっくりと歩を進めている。看護師さんはときおり、歩行のリズムをとるかのように「大丈夫ですか」「いい調子
ですよ」などと声をかけ、患者は少し苦悶の表情を浮かべながら、小刻みにうなずく。それはいつかの私の姿でもありました。

ふいに、私のなかに「人の役に立ちたい」という思いが湧き上がってきました。入退院をくり返す日々に「ああ、やんなっちゃった」と廊下をぶらぶらしてるだけでなく、もっとほかにやることがあるだろう。そう思ったのです。

その後まもなく、私は「がんのピアサポート活動」に出会いました。自分のがん体験が人の役に立つ。思いがけない僥倖でした。活動を通しての気づきは数えきれないほどありますが、障害年金のことで困っている人は意外に多いのです。自分もそうだったので「よし、障害年金をきわめてやろう」と一念発起。社会保険労務士の資格を取得しました。

看護師さんの患者を懸命に支える姿。いま思えば、あれが私の分岐点でした。




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2023年4号からの再掲載です。


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