百瀬裕和
安曇野赤十字病院 看護部 外来/がん化学療法看護認定看護師

看護歴は心臓病センター2年・外科11年・化学療法室10年くらいです。患者さんが遠くの大きい病院に通院するのは大変なので、近くの病院でもなるべく変わらない治療ができるよう、「がん薬物療法の均てん化」に少しでも貢献できたらと、思っています。




「次はロルラチニブですか………?」

Aさんは30代の男性で、いつも奥さまとご一緒に治療センターへいらっしゃる方でした。診察室にも2人で入られ2人とも熱心に医師からの説明を聞いておられました。お子さんはおられませんでしたが、仲がよいご夫婦だなと思っていました。当時私も30代だったので思うところも多々ありましたが、Aさんは意思決定力も高く、治療の選択にも迷いはあまり見られない方で、見た目に反して強さを感じていました。

AさんはALK遺伝子転座陽性の肺がんで、当時一次治療としてアレクチニブが投与されていました。当時、ALK肺がんの一次治療で35カ月という無増悪生存期間(PFS)の臨床試験結果をみてビックリしていたのを覚えています。しかし、Aさんには残念ながら長期的な効果がみられず数カ月でPDとなり二次治療へと変更になりました。そこでAさんがおっしゃったのが、「次はロルラチニブですか? もうちょっと効くと思っていたのですが……」です。

自らの治療内容を理解し、平均的な効果を把握したうえで、一般薬剤名で質問する患者さんは初めてでした。外来化学療法室の看護師でさえ、まず一般名は言いません。自らの病を学び治療を学び確認する。状況を冷静に判断し、最善の治療を決定していく姿は尊敬に値するものでした。死生観をうかがうまでには至りませんでしたが、今でもAさん以上に自らの病気を理解されている方に出会ったことはありません。

「たられば」になってしまいますが、がん薬物療法はエビデンスの更新がとても速く、一年前にガイドラインが改訂されたと思ったら、すぐに速報版が出るなど正直キツイです。そのため、「あの人にパネルを出していたらどうなっていただろうな」とか、「ICI(免疫チェックポイント阻害薬)を使えていたらな」とかばかり考えてしまいます。おそらく10年後も同じことを思うでしょう。




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2024年5号からの再掲載です。

YORi-SOU がんナーシング2024年5号

YORi-SOU がんナーシング2024年5号
【特集】
エビデンスで考えるがん患者さんの終末期ケア
かかわりかたと症状マネジメント


■Part1 終末期ケアとおさえるべきポイント
●01 すべての医療はBSC(Best Supportive Care)なのでは?

■Part2 終末期の場面ごとの患者さん・家族とのかかわりかた
●02 エビデンスから実践に落とし込む がんの診断・告知
●03 エビデンスから実践に落とし込む がんの再発・進行
●04 エビデンスから実践に落とし込む 積極的治療の中止
●05 エビデンスから実践に落とし込む がん患者の最期の場の選択と患者さん・家族とのかかわり
●06 エビデンスから実践に落とし込む 鎮静
●07 エビデンスから実践に落とし込む 看取り
●08 エビデンスから実践に落とし込む グリーフケア

■Part3 終末期における症状マネジメント
●09 全身症状 がん終末期の「痛み」
●10 呼吸器症状 がん終末期の「呼吸困難」
●11 呼吸器症状 がん終末期の「咳嗽」
●12 消化器症状 がん終末期の「食欲不振」
●13 消化器症状 がん終末期の「悪心・嘔吐」
●14 消化器症状 がん終末期の「腹部膨満感」
●15 消化器症状 がん終末期の「便秘・下痢」
●16 精神症状 がん終末期の「せん妄」
●17 精神症状 がん終末期の「不安・抑うつ」
●18 精神症状 がん終末期の「不眠」
●19 皮膚症状 がん終末期の「褥瘡」
●20 全身症状 がん終末期の「倦怠感(がん関連倦怠感)」

■Part4 患者指導にそのまま渡せる! 動画つきDLシート集
●21 痛み
●22 呼吸困難感
●23 倦怠感

▼詳しくはこちらから




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