ここは空想病院企画室。
毎回異なるゲストとともに、
当事者性やマイノリティ性の視点から
「こんな病院あったらいいなぁ」を空想します。
京都府立大学文学部国際文化交流学科准教授。専門は文学・当事者研究。自閉スペクトラム症、ADHD、アルコール依存症と診断されている。京都とオンラインで10種類の自助グループを主宰している。2021年5月に最初の単著の単行本『みんな水の中──「発達障害」自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか』(医学書院)を刊行して以来、4年間のうちに出版してきた単行本は30冊(単著、または横道が中心になった編著・共著のみの合計)。
平成医療福祉グループ ケアホーム住吉。急性期・回復期病棟で勤務後、地域にて就労継続支援B型・福祉用具貸与事業所・チョコレートショップ・古着屋・障害者アート事業などに携わり、現職。共編著に『差別のない社会をつくるインクルーシブ教育』など。最近の楽しみは近所の図書館で読みたかった本を取り寄せること。
自然環境に満ちた癒しの空間には、患者さんがむくむく元気になり、安らぎ、日常に復帰させる力があります。
そんな空間が溢れている……
それが『植物園的でも水族館的でもある自然セラピーができる病院』です!
たんなる医療施設ではなく、癒しと回復を最大化する革新的な時空間です。

イラスト:いしやま暁子
X:(@chovon_design)
instagram:(ishiyama_akiko)
特徴その1
~なぜ自然セラピーか~
緑や水辺の環境はストレスホルモンを減らし、血圧や心拍数を安定させることが証明されています。
そのために医療研究者から自然セラピーが注目されています。自然セラピーは予防医学的効果が話題になりがちですが、すでに病気になった人の容体を安定させ、病態を深刻化させないためにも、病院と植物園・水族館を統合することが急務です。
みなさんも、現代の病院が機能的であるにせよ、冷たく無機質な印象を与えがちだと感じていますよね?
その問題を根本的に解決するイノベーションが「植物園的でも水族館的でもある自然セラピーができる病院」です。
自然環境に満ちた癒しの空間は、スタッフのメンタルヘルスも向上させ、離職率を下げ、医療の質を高めるのです。
特徴その2
~施設の各エリア~
1. 熱帯植物園エリア
数百種の熱帯植物が繁茂する温室風のロビー。
酸素濃度が高く、空気が澄んだ空間。季節ごとに異なる花や果実が楽しめ、視覚・嗅覚を刺激。瞑想やヨガ用の緑のテラスを設置。
ふだんの病院ではしょんぼりと萎れている横道みたいな患者は、むくむく元気になって、一本のシダ植物のように水辺で光合成を始めてしまいそうです。
2. 水族館エリア
巨大な円柱型水槽や壁面水槽がいくつもあり、それぞれの水槽にイルカ、サメ、ウミガメ、熱帯魚、クラゲなどが分かれて収納され、悠々と泳いでいます。
水の音や光の揺らぎがリラクゼーションを誘導します。
子どもの患者向けのインタラクティブな海洋生物学習コーナーも併設。暗鬱な気分で泥沼のなかに沈みながら病院の待合室にいた横道のような患者でも、心はぷかぷか青くきらめく海中の世界に漂っていき、サンゴ礁の合間で休らうことになります。
3. 統合セラピールーム
植物と水槽に囲まれた診察室やリハビリ室。
アロマセラピーや水中音響を使ったリラクゼーション療法を提供します。
VR技術でサンゴ礁や熱帯雨林など患者が選んだ自然環境を再現できます。
見知らぬ熱帯雨林や南の島の海の世界にドキドキした小学生のときのような気持ちで、横道のようにしょぼくれた中年の患者も若返ったような思いで改めて日常に復帰していけるでしょう。
特徴その3
~スタッフと地域へのメリット~
スタッフに関しては、心地よい職場環境で労働へのモチベーションが向上します。
燃え尽き症候群も減少します。
地域に対しては、病院が休みの日には、観光名所として開放します。
病院が地域のランドマークに。
地域住民向けの公開ガーデンやイベントでコミュニティを活性化します。
横道たち患者は、笑顔でいっぱいの病院スタッフに優しくケアされ、病院と最寄りの駅を行き来する往来では、休日に病院の温室や水槽を眺め、楽しんでいる地域住民と笑顔ですれ違います。
ときには患者と地域住民が交流しあって、当事者研究やオープンダイアローグ的対話実践を楽しんでも良いでしょう。
さて、実現可能性に向けて考えてみましょう。
設計にはサステナブル建築を採用します。
太陽光発電や雨水再利用でエコな運営が可能になります。
運営面では、植物園・水族館の専門家と医療チームが連携します。
メンテナンスは地域の雇用創出にも寄与します。
資金に関しては、公的助成金、民間投資、クラウドファンディングを活用します。
地域住民の参加型プロジェクトとして推進することができます。
ここだけの話、植物や水槽は立体映像のようなものでも良いと考える人はいそうですね。
その場合、資金面でも管理・運用面でも衛生面でもグッと楽になりそうです。
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私たち医療従事者は、患者さんの障害について「その人に障害がある」と考える“個人モデル”で考えがちです。しかし、現代では「社会や環境が障害をつくり出している」と考える“社会モデル”が主流となってきています。
本連載では「空想病院」という視点から、病院という社会や環境を見直し、社会モデルの考え方につながればという思いから掲載しています。ぜひ、本連載を読んで病院で何ができるかを考えてみてくださいね。