ここは空想病院企画室。
毎回異なるゲストとともに、
当事者性やマイノリティ性の視点から
「こんな病院あったらいいなぁ」を空想します。
雪国で暮らす元看護師。整形外科病棟・回復期病棟・デイサービス・訪問看護などでの勤務経験がある。転倒にて橈骨遠位端骨折後にプレート固定術を施行しており、抜釘を待っている。現在はDX推進ソリューションを提供するシステム会社で勤務しており、「実はDXとケアは遠くて近いのでは?」と感じている。(*DX:Digital Transformationの略。デジタルの力によって社会や生活の形・スタイルを変革する取り組み。医療分野では電子カルテ導入、AIによる補助診断、遠隔医療など。)
平成医療福祉グループ ケアホーム住吉。急性期・回復期病棟で勤務後、地域にて就労継続支援B型・福祉用具貸与事業所・チョコレートショップ・古着屋・障害者アート事業などに携わり、現職。共編著に『差別のない社会をつくるインクルーシブ教育』など。最近の楽しみは近所の図書館で読みたかった本を取り寄せること。
デジタル化が当たり前となってきた今日この頃ですが、
医療の世界ではアナログが大切なものとして残り続けています。
その中心にある「ケア」
ケアがもしデジタル化されたらどうなるのでしょうか?
DX(デジタルトランスフォーメーション)ならぬ
CX(ケアトランスフォーメーション)された病院があるとすれば
それはどんな病院なのでしょうか?
あらゆるものがトランスフォーメーションされた
『ケアトランスフォーメーションホスピタル』
一緒にのぞいてみませんか?

イラスト:いしやま暁子
X:(@chovon_design)
instagram:(ishiyama_akiko)
特徴その1
~おまかせふんわりスイスイロード~
ケアトランスフォーメーションホスピタルでは、
患者の移動に二足歩行や車椅子を必要としません。
すべての通路が「おまかせふんわりスイスイロード」となっていて、
体を委ねるだけで自動的に目的地である検査室や診察室に運んで行ってくれます。
これは、空港や駅にある動く歩道(水平型エスカレーター)のような
人が動かなくても目的まで運んでくれるだけのシステムではありません。
「ヨ〇ボー」や「人を〇メにするクッション」のようなビーズクッションが敷き詰められており、
飛び込むことでふんわり快適な状態になって移動できるシステムなのです!
橈骨遠位端骨折受傷直後は
「右を曲がってすぐそこにレントゲン室がありますよ」
という簡単な指示すらも痛すぎて頭に入らなかった私。
そして、橈骨遠位端骨折で痛いのは手だけなのに
痛すぎて歩くことがなぜか困難になっていた私。
そんな私でも、何の迷いも苦痛もなく病院を移動することができます!
特徴その2
~おちつけ~るカー~
そもそも、
ケアトランスフォーメーションホスピタルへは
「おちつけ~るカー」で救急搬送されます。
「おちつけ~るカー」とは、
乗車した瞬間に患者の状態をアセスメントし、
苦痛の部位、痛みの程度、安楽な姿勢、穏やかに過ごすための音楽、快適な温度……
患者さんの状態から瞬時に快適な環境を提供するシステムが完備されている救急車のことです。
もちろん、車の揺れや振動はふわっと吸収。
AI制御の自動レベリングシステムが合体したことで、
車体の揺れだけでなく、道路の傾きやブレーキの衝撃までも吸収・調整してくれます。
動く車に乗車している感覚は一切ありません。
痛みの強かった私の腕をずっと支えてくれていた救急救命士さん。
痛い痛いと私の訴えをずっと聞いていてくれた救急救命士さん。
あなたの負担、これでなくなりますよ。
あ、ひとつだけ問題が!
あまりにも落ち着きすぎて、救急車から出たくなくなってしまうかも!
特徴その3
~ヒミツインプットカプセル~
病院に行ったとき
「私が看護師って知られたくない……」
って思ったことありませんか?
私もそう思って、病院では看護師であることを隠していました。
しかし、OPEが終わって目が醒めると、
医師も看護師も、私が看護師であることを知っていたんです。
なぜなのか……
そう、麻酔から醒めきる前のあのぼーっとした感じになる時間……
あの時間にうっかりと話してしまっていたのです!(わけあって全麻でした)
こんな事故(事故?)を防ぐのが
「ヒミツインプットカプセル」です!
ヒミツインプットカプセル(見た目は酸素カプセル)に入り、
なかにあるタブレットに「喋っちゃいけないこと」を入力。
その内容が、あなたの脳のおしゃべり回路から一時的にカットされます。
あとはカプセルのなかでリラックスして深呼吸。
それだけで、あなたにヒミツを喋らせない機能が自動でオンされます。
どれだけ「喋っちゃいけないこと」に関する話題が出ても、
あなたが口を滑らせることはありません。
しかも、解除も簡単。
ヒミツインプットカプセルに再び入って、タブレットで「解除」を選ぶだけ。
病院でのあらゆるヒミツゴトを守ります。
特徴その4
~いただきまスイッチ!~
橈骨遠位端骨折術後には、
予想せぬ大変さが私を待っていました。
それは……食事です。
ギャッジアップの状態では姿勢が安定せず、
非利き手ではスプーンをうまく使えず、
かといってエプロンをお願いすることはできず。
こんなにも大変なのか!と痛感。
こんな場面で欲しいのが「いただきまスイッチ!」ですよね。
いまやどの飲食店でも導入されている
タブレットで今日のごはんを選べるシステムです。
もちろん、あなたの状態をアセスメントして、
適切な食事をリコメンドする機能もついています。
「利き手の橈骨遠位端骨折受傷直後では、
あなたが思っている以上に食事が大変となっています。
非利き手でも食べやすい、おにぎりやサンドイッチがおすすめです。」
和風がいい? 洋風がいい?
あっさり? こってり?
食べたいものも、食べられる量も、いただきまスイッチ!で決められます。
そして、補正機能もこっそりとついています。
摂取カロリーが不十分な注文では、ご飯を10g多く盛ってくれたり、
品数をたくさん注文しすぎたときには、一品ずつの量を減らしてくれたり、
食べ過ぎ・食べなさすぎが生じないようにこっそりだけど、しっかりとあなたを見守ります。
特徴その5
~カルテにカキコみん~
退院予定日。
担当医が回診でやってきたのは朝の六時でした。
まだまだ眠い私の状態を確認して、「退院でいいよね~!」と告げます。
予定通りに退院できることにホッとし、私はまた眠りにつきました。
そこから二時間後…
「先生来ました? やっぱり退院許可出たんですね、カルテに書いてなくて! 脳内で思ったことはカルテに書いとけよ!」と主任看護師が吠えながら私の病室から去っていきました。
ほんとそれ!
「先生、それは書いておいてよ!」
というのは、看護師としても患者としても何度も感じたことがありました。
そんな「思ったことをカルテに書き残しておいてくれるシステムがあったらな。
それを実現してくれるのが「カルテにカキコみん」です。
医療者や患者さんがふと思ったこと、ぽろっと口にしたこと、
小さな声や小さな気持ちをぜ~んぶ見逃さずに、
ちゃ~んとカルテに書きこんでくれる、記録アシスタントです。
もちろん、入力はゼロ。
喋っても、喋らなくても、
カキコみんがあなたのそばでずっと耳と心を傾けてくれています。
心配な「はやくご飯食べたい……」みたいな余計な気持ちは、
AIが自動でカルテに書き込まないようにしてくれます。
日々のカルテ入力もこれで簡単になっちゃいます。
特徴その6
~イタミンライト~
退院後、外来受診のために待合室で座っている私。
手の痛みも落ち着き、
ようやく周囲の様子を観察できるくらいになりました。
でも、落ち着いているとはいえ、やはり痛い。
そんな時に改めて感じたのは、
見た目では痛い・痛くないというのは分からないということ。
整形外科患者さんでもよく分からないのに、
例えば内科のような目には見えにくい診療科であれば
もっとそのような傾向は強いはず。
患者さんの痛みが可視化できれば、
「痛いんですよね、席をゆずりますよ」
ということも気軽に言い合えるんじゃないかな?
そこで、「イタミンライト」です。
イタイミンライトは、
チョウチンアンコウみたいに頭の上でふんわり光り、
痛みの状態をランプで表示してくれます。
赤く光るときにはとっても痛い
黄色く光るときにはまぁまぁ痛い
青く光るときには痛くはない
これで気軽に席を譲ることができます。
それなら、
痛みだけじゃなくて、
心の様子もライトで可視化できるようにするといいかも!
と思うかもしれません。
でも、心の状態はランプで示せるように単純でないものが多いもの。
また、ランプで示した余計な詮索をされたり興味を持たれるのも、ちょっと。
それらも痛みとして示すからこそ、
初めて出会う患者さんや医療者でも関わりを持てるのかも。
特徴その7
~しんさつリズムえらべ~る~
雪国の整形外科は、
雪解けと同時に閑散期に入ります。
凍った地面が転倒因子として強大であることを痛感させられます。
そして、
繁忙期には一時間以上の診察待ちが当たり前だったのが、
閑散期になると10分程度で診察が終わるほどに変化します。
そうなると、
「今日はもう少し先生に話を聞いて欲しかったな」
なんてことを考えたりもしてしまいます。
やっぱり「しんさつリズムえらべ~る~」があればいいんですよね。
「今日はしんどいから、ゆっくり話を聞いてほしい!」
「時間がないから、ちゃちゃっと終わらせたい!」
「気持ちは元気だけど、説明は丁寧にしてほしいな」
こんな患者の気持ちを受け止めてくれるシステムのことです。
診察前に
タブレット画面からリズムを選択。
▼どのリズムがご希望ですか?
・ゆったり安心リズム(たっぷり傾聴/静かめトーン)
・ふつうのリズム(いつもの感じ)
・さくさく診察モード(早め進行/要点絞って対応)
選択に合わせて、
先生や看護師の話し方・スピード・内容が調整されます。
途中で「あ、やっぱりゆっくり話したい」と思ったときには、
診察中にでもこっそりリズム変更が可能!
プリセプターから
「情報収集してきて~」
と言われていた新人時代にこれがあったら、
コミュニケーションをあまり取りたくない患者さんがさくさくモードを選択して、
「今日はさくさくモードなので無理でした!」と言えたかも!
あらゆるものがトランスフォーメーションされた
ケアトランスフォーメーションホスピタル
今日紹介したのはあくまでも一例です。
あなたのケアトランスフォーメーションホスピタルにあるものも教えてくださいね。
私たち医療従事者は、患者さんの障害について「その人に障害がある」と考える“個人モデル”で考えがちです。しかし、現代では「社会や環境が障害をつくり出している」と考える”社会モデル”が主流となってきています。本連載では「空想病院」という視点から、病院という社会や環境を見直し、社会モデルの考え方を身に付ける機会を提供します。ぜひ、本連載を読んで働く病院で何が出来るかを考えてみてくださいね。