ここは空想病院企画室。

毎回異なるゲストとともに、
当事者性やマイノリティ性の視点から
「こんな病院あったらいいなぁ」を空想します。


ゲスト:FUKUちゃんさん
身体障害者4級、子ども3人の親。次男三男は低出生体重児(SFD児:在胎週数に比べて出生体重が小さい新生児)であり、小学校入学前にASD(自閉スペクトラム障害)および知的障害と診断され、さまざまな手術や入院を繰り返した経験を持つ。自立支援協議会障がい当事者部会委員。スペシャルニーズのある人のやさしい医療をめざす会会員。子ども達の感じ方や学び方の違いを理解するために努力中。地域で安心安全に生活できるようになって欲しいと願っている。

企画室室長(著者):喜多一馬
平成医療福祉グループ ケアホーム住吉。急性期・回復期病棟で勤務後、地域にて就労継続支援B型・福祉用具貸与事業所・チョコレートショップ・古着屋・障害者アート事業などに携わり、現職。共編著に『差別のない社会をつくるインクルーシブ教育』など。最近の楽しみは近所の図書館で読みたかった本を取り寄せること。




病院には、
大人だけでなく、たくさんの子どもたちも訪れます。

子どもも大人も安心して
継続して医療を受けることが出来る環境ってないだろうか?

あるんです。

それが『まるごとケアホスピタル』

イラスト:いしやま暁子
X:(@chovon_design
instagram:(ishiyama_akiko

特徴その1
~こわくないカメラくん~


病院では診察・検査・手術といった子どもたちにとって未知の体験がたくさん。
そして、心配や不安や恐怖といったネガティブな気持ちになることもしばしば。

そんなとき、「こわくないカメラくん」があれば問題なし!

病院受付にある「こわくないカメラくん」を覗くだけで、その日行われる診察・検査・手術がアニメで再生されちゃいます!



見終わったときには、「はやくやりたい!」と前向きになりすぎる子どもたち。
親御さんたちは「まだだから待っててね!」と説得しなければならないほど。

採血では暴れ…
脳波検査は正確に取れず…
心電図ではそわそわし続け…
レントゲン室は暗くて冷たくて大号泣…
そんな私の子どもたちも、「こわくないカメラくん」がある病院なら大好きな場所になったでしょう。

特徴その2
~さわってメディパーク~

「こわくないカメラくん」だけでは心配な子どもたちは、 「さわってメディパーク」にお越しください。

ここでは、 注射器や聴診器といった手軽なものはもちろん、 CTやMRIのような大きな機器、 OPE室にある単回使用手術用のこぎりのようなびっくりするような道具も置かれています。

えっ、そんなものを触って大丈夫なの?という心配は不要です!

「さわってメディパーク」にあるものは、本物と何の遜色もないのに、安全性を完璧に担保!

なぜなら、全てが口に入れても大丈夫な自然由来の素材で作られているからです!

・注射器はトウモロコシ由来のバイオプラスチック
・CT装置は植物由来のゲル化剤

心配なく子どもが遊べそうでしょ?

単回使用手術用のこぎりには、21世紀の地球にはない技術も使われています。

本体と刃は超結晶化バイオセラミック複合体。
コーティングには蜜蝋に医療用乳酸菌を混ぜた抗菌ナノ膜素材で自己修復性ゼラチンマトリクス。
口に入れられるほどなのに滅菌にも対応し、切れ味以外は実際の手術でも使えるほど(切れないことだけが悔やまれる…)!

*超結晶化バイオセラミック複合体とは:生体適合の結晶性セラミック素材と有機高分子やナノファイバーを組み合わせた、超高硬度・高靭性・生分解性・生体親和性を兼ね備えた複合構造体。骨と同等もしくはそれ以上の硬度でありながら生体親和性が高く体内吸収も可能。

*自己修復性ゼラチンマトリクスとは:ゼラチン(=動物性たんぱく質のゲル)をベースに、自己修復能力をもつポリマーやナノ粒子を組み込んだ多層構造体。ダメージを受けても自動的に元に戻る特徴をもつ。


もちろん、気に入った医療機器はその場で食べたり、持ち帰ったりもOK!



そして、「さわってメディパーク」には本物の看護師や医師が常駐。

「この大きな機械はなにー?」と質問をされた専門職たちは 子どもたちに、採血って何?CTって何?を教えてくれます。

検査や手術が怖くなくなるだけでなく、 医学の知識や技術がいつの間にか身についてしまい、 未来の医療従事者になってしまう人も少なくないとか。

耳鼻咽喉科で何の説明もなく検査・治療が行われて、 大暴れだった私の子どもたち。

「さわってメディパーク」があれば、 体を抑えつける必要もなかったし、 看護師さんは蹴られることもなかったはずです!

特徴その3
~やすらぎカプセルルーム~


聴覚、視覚、触覚など、 五感からの刺激を過剰に強く感じてしまうのが感覚過敏。

これらのあるお子さんたちが、 安心して治療に励むことができる病室…
それが「やすらぎカプセルルーム」です。



防音設計として、 人の話し声や足音、医療機器の音をやわらげる静音空間があり、 ナースコール音も「音なし通知」に切り替え可能です。

まぶしさを抑えた光環境として、 全照明は調光・色温度変更が可能であり、 やわらかい間接照明と遮光カーテンもあります。

無香料ベースの空気づくりとして、 洗剤や清掃用具は独特のあのにおいがなく、 必要とするお子さんには選べる香り付きアロマも利用可能です。

触感にも配慮しており、 肌ざわりのよいパジャマ・シーツ・枕を選択可能。 重みのある毛布も用意されています。

一般小児病棟での生活が、 聴覚過敏・嗅覚過敏によって継続できなかった私の子どもたち。
「やすらぎカプセルルーム」があれば きっと安楽な入院生活を送れていたはず。

特徴その4
~うけとめソファ~


まるごとケアホスピタルでは、 子どもたちの受診だけでなく、 付き添う親の体や気持ちにも対応しています。

広々としたカフェのようなゆったりした空間には、 リラックス効果のある音楽とアロマ、 そして、「うけとめソファ」がたくさん置かれています。



これは、身体も気持ちも「ぜんぶ」受け止める特別なソファ。

反重力座面で身体がふわっと軽く浮かせ、 雲クッション素材は頭と背中をやさしく支え、 呼吸・心拍・筋緊張を感知して包み込み強度を自動調整。

ソファなのに対話機能が完備されていて、 モヤモヤした気持ちを引き出してくれます。 また、対話によって「頑張らなければならない」というプレッシャーを和らげ、 「自分も大切にしよう!」と自己肯定感を高めます。

もちろん、ちょっとした仮眠はOK!
タイムスリップ機能もあって、待ち時間を実質ゼロにすることも。

「家にも欲しい……」と 購入希望者が後を絶たないとか。

特徴その5
~きもちキャッチャーさん(専門職)~


うけとめソファだけでは足りない!
やっぱり人に気持ちを聞いて欲しい!
そんなときには「きもちキャッチャーさん」にお任せください。

子どもたちのことでナーバスになっている親の気持ちを受け止めます。

親が声に出せない・出さない「話したい気持ち」を察知し、 そっと近づき、自然と会話をスタートさせます。 もちろん、話さずにただそばにいて、お茶を出してくれたりも。

まるごとケアホスピタルでは、 あらゆる場所に「きもちキャッチャーさん」が配置されています。

人には話しづらいな…と思っている親御さんと関わるときには、 ぬいぐるみや犬や木などに擬態して関わってくれます。



もちろん、「きもちキャッチャーさん」は 病棟や外来で働く一般的な医療職への教育も担当。 すべての医療スタッフは気持ちを受け止める力を有しています。

私の次男が入院していたとき。
私の話し相手をしていただいたあの時の看護師さん。
じつは「きもちキャッチャーさん」だったのかもしれないと、今は思っています。

特徴その6
~こどおやルーム~


子どもの付き添い入院では、 「こどおやルーム」を使用することができます。

子どもと親が安心して治療に専念できる病室で、
・親もゆっくりと眠るためのベッド
・簡単な食事を作れるキッチン
・親子だけが使えるトイレ
・家族写真や好きな絵を飾れるスペース
などなど、充実した設備となっています。 まるで自宅のように子どもも親もリラックスして過ごせます。

と、ここまでだとちょっと豪華な個室ですよね。

こどおやルームには、 最新のAIモニターシステムが完備。



どうしても親の役割になってしまう 食事・排せつ介助や点滴管理といった内容も、 親が手をかけそうになった瞬間に看護師が駆けつけます。

もちろん、最新のAIモニターシステムなのでプライバシー保護はばっちり。 常に監視カメラとなっているわけではないのに、 「トイレ介助を必要としています」といった形で看護師に要請が入ります。

こんなたくさんのハードとソフトが揃った、まるごとケアホスピタル。
私も子どもたちと行ってみたいです!




私たち医療従事者は、患者さんの障害について「その人に障害がある」と考える“個人モデル”で考えがちです。しかし、現代では「社会や環境が障害をつくり出している」と考える“社会モデル”が主流となってきています。本連載では「空想病院」という視点から、病院という社会や環境を見直し、社会モデルの考え方を身に付ける機会を提供します。ぜひ、本連載を読んで働く病院で何が出来るかを考えてみてくださいね。